第87話 不器用
秘密の階層を進んで、抜け出た先は小さな祠だった。
みんなで運搬ゴーレムのパーツを運んで外に出ていく。
しばらくすると転移ゲートが閉じられる。一方通行みたいだ。
「まだ外の世界は三日しか経っていないんだね。本当に濃い時間だった」
六十五階層にあった遺跡から、二十階を飛び越えて四十五階層に。
費やした時間は遺跡攻略を含めて五日。魔塔に突入してから二ヵ月半。
三ヵ月間の試練の方が長かったので不思議な感覚だ。
次の秘密の階層は二十五階層にある。
そこまではまた運搬ゴーレムの出番かな。
「ゴーレムの組み立てに少々お時間をいただけますか。一日で終わらせてみせますよ!」
「我も手伝おう。その妖精の身体では満足に物も持てないだろうしな」
「最初からそのつもりです! 可愛い私様には肉体労働は似合いませんからね!」
「手伝う気が失せた」
「何でですかっ!? 妖精虐待!」
ライブラさんとティアマトさんが運搬ゴーレムを組み立てていく。
「私めは周辺の警戒に向かいますね。トロンさんは生体反応の探知をお願いします!」
「わかた」
「ではでは~わたくしは安らぎの空間を創造しましょう~」
コクエンが外に飛び出していき、トロンが祠の入り口に待機。
ユグが周囲に椅子やベッドなどを創造していく。僕も荷物を置く。
「エル、何しているの?」
「うー」
隣でエルが、僕の身体にくっついて唸っていた。
気になって聞いてみると、エルは拗ねるような表情に。
「エルも、あいぎすさんみたいにあるじさまにちゅーってしたいです」
「えっ?」
真似したがりなエルが、そう言って僕によりくっついてくる。
あらあら~とユグが頬に手を乗せて。トロンはじーと見つめている。
エルの体温で身体がホカホカだ。僕の頬も思い出して朱くなる。
「あるじさま、エルじゃダメですか~?」
「そういう事じゃないけど。みんなが見ているから……!」
「誰も見ていなければいいです? エルもあるじさまが大好きなんですよ!」
エルの好きは、所謂家族としてのものだ。
アイギスとは全然違う。でも説明が難しい。
僕も本人に真意を聞けずにいるんだ。誠意を持ちたい。
「エル様、アイギス様が目覚めるまで保留にしておきましょう。順番ですよ~」
「むぅ……わかりました」
いい子のエルは、パッと諦めてゴーレムの組み立てを手伝いに行く。
「ありがとう、ユグ」
「いえいえ~。可愛らしい嫉妬ですね~。アイギス様もきっと焦っておられるのでは~?」
「どうだろうね……あのあと碌に話せていないから」
僕の腕には【アイギスの神盾】が煌めている。
あの口付けのあと、アイギスは眠るようにアイテムに戻った。
国宝級の肉体のままでは、神話級の力に長くは耐えられないから。
分体のライブラさんみたく壊れてしまうかもしれない。
だから神話級に対応した肉体に再構成している最中なんだ。
僕の【擬人化】次第だけど早ければ一ヵ月くらいで戻れるらしい。
それまで責任を持って僕たちを守るとティアマトさんがついてくれる。
このまま立ち止まらずに進んでいく予定だ。本人もそれを望むだろうし。
「エル様が横恋慕する展開もありそうです~わくわくします~」
ユグは誰よりも女の子な性格をしていた。微笑みが絶えない。
「主人よ。すまないが我は力不足のようだ。くっ、精密な機械は苦手なのだ」
罰の悪そうにティアマトさんが頬をかいていた。
後ろでよくわからない芸術性のある物体が立っている。
「ロロアさん聞いてください。ティアマトが酷く不器用なのです! 腕のパーツと足のパーツを無理やり反対にくっつけようとしたり、説明も中途半端に理解しますし。その目は節穴ですか!?」
ぷんぷんとお怒りの様子でライブラさんが飛び回る。
悪かったなと。ティアマトさんがパーツを引っ張った。
「そこはもっと丁重に扱ってください! 頑丈な貴女とは違うんですよ!」
「う、ううむ……」
ここまで弱っているティアマトさんは初めてだ。
不器用という意外な弱点。椅子に座って黙ってしまった。
「得手不得手がありますから。わたくしが代わりますよ~」
入れ替わりでユグがライブラさんのお手伝いに。
エルがパーツの汚れを拭いて。ユグが蔦で組み立てる。
「情けない姿を見せたな。戦い以外の見識がないのだ」
「その戦闘ではこれからお世話になりますし。助け合いですよ」
ずっと秘密の階層に取り残されていたんだ。
ティアマトさんにとって殆ど初めての経験のはず。
「ぎゃああああああ!? ユグちゃん、お尻に頭部を付けてどうするのですか!?」
「あら、あららら~? でも動きますよ~?」
ユグが組み立てた運搬ゴーレムは、試運転で安定した動きを見せた。
「な、何故!? 正規の組み方じゃないのに出力が安定している!?」
「わたくしの創造力の賜物です~♪」
「おー! 面白いです!」
「ほぉ、やるではないか」
ギャラリーの反応は良かった。
「いや、関心はしますが。運転席が反対向いているではないですか! やり直しです!」
「えぇ……」
「残念です~」
「これでは駄目なのか?」
また取り外して一からやり直しになる。
ティアマトさんもユグも似た者同士だった。
「あー、全然作業が進みませんっ! コクエンちゃん早く帰って来てください~!」
「……へなの。つぎやりたい」
結局、興味を示したトロンが一番上手に組み立てる事ができたのだった。
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