第83話 仲間がついている
三人の修行も二ヵ月目に突入していた。
運搬ゴーレムのパーツも全部回収し終えて。
ライブラさんに確認してもらい不備もなかった。
あとは修行の結果を待つだけとなっている。
今日も、コクエンとトロンが歯を食いしばっていた。
「ほう、今回は粘るな。これまでの最長記録ではないか!」
「負けない、負けない、負けるものかっ!!」
お腹の奥から吐き出した気迫と共に、コクエンは炎を宿す。
転ぶ回数も劇的に減り、自分を鼓舞する、前向きな言葉が増えてきた。
「トロンさん!」
「ん……みぎ、三つ」
後方で放たれた雷光弾が跳弾してティアマトさんの動きを制限。
距離を詰めて、素早い手刀が空気を切り裂く。ここにも熱風が届いた。
「左、一つ」
「燃えろ、炎牙!」
左右からの同時攻撃、互いが干渉しないよう声掛けもできている。
隙を埋め合い、枯れる声に連れて速度も上がっていく。高め合っていく。
「連携も、無駄が減ってきたな。相手の立ち位置を見る癖も付いている」
隙間なく飛んでくる弾と剣を避けながら。ティアマトさんが笑う。
以前は見向きもしていなかった。今は明確に、二人を意識している。
硬直した、一方的ではない戦況がついに動き出す。
左右の動きで翻弄しているところに、上空から雷光砲撃が降り注いだ。
時間差で落ちた大技によって足場が崩れ、これ以上は下がれなくなる。
逃げ道を失ったティアマトさんが立ち止まった。
「決めに来るか――こい!!」
「こくえん、いま。とどめ」
これまで敵を倒す事に注力していたトロンが、仲間に託したんだ。
大量の魔力を消費して、稲妻の散弾を発射しながら。その場に膝を付く。
「託されました! 必ずや、決めてみせます!」
先んじて殺到する散弾に召喚された龍の頭が喰らいつく。
その硬直時間を狙い、空中に跳び、コクエンが斬りかかる。
「これで――――」
「この程度で届くと思ったか、甘いわっ!!」
ティアマトさんの喝が、浮島を震わした。全身に鳥肌が立つ威圧。
離れていたトロンですら尻持ちをつく。至近距離で受けたコクエンは――
「もう泣きませんっ! 私めは、ご主人様の敵を討つ剣ですからっ!!」
――その瞳は紅く彩られて、龍威圧には龍威圧で迎え撃った。
同時に数体の炎の幻影が、背中から次々と飛び出していく。
それぞれが闇の短剣を握り締めて、神話級の盾へと殺到する。
「あれは、コクエンちゃんの新スキルです! ☆4に到達した証ですよ!」
ここまで黙って見守っていたライブラさんが興奮気味に叫ぶ。
僕も飛躍した彼女たちの姿を見せられて溢れる想いが止まらない。
「もう少しだ! そのまま走り切るんだ!!」
「炎舞――黒炎龍双乱撃」
八方向からの連続攻撃、消えない黒い炎が盾にぶつかる。
まるで踊り子が舞を披露するかの如く、勢いが炎が大きく広がる。
「……喰らう、喰らう喰らう喰らう。これで――――!!」
龍の頭を越えて、最後の一撃が相手の喉元まで差し掛かる。
「くあっ………………」
「気持ちが前へ前へと、焦り過ぎたようだな。自分の体力くらい常に冷静に把握していろ」
コクエンの剣は直前で止まっていた。立ったまま意識を失っている。
「限界だったんだ。ここまでずっと、寝ずに戦ってきたから……」
それに加えて龍威圧に新しいスキルまで使ってみせた。
突き進む気持ちに身体が付いていかず、先に限界が訪れた。
「ふん、合格だ。神話級相手だろうと主人の敵を噛み殺さんとするその気概。忘れるでないぞ」
「おや、指一本も触れられていなかったように見えましたが」
わざとらしくライブラさんが。部下を認められて嬉しい癖に。
「死に物狂いの気迫で、我に龍威圧まで使わせたのだ。同等以上の戦果であろう」
「厳しいのか甘いのかわからない教官ですね……」
「結果がすべてだ。二人にはこれまでの非礼を詫びて。今後は同志として認めよう」
ティアマトさんはそう言って隠れ家の方に戻っていった。
わかりやすいくらいにいい人だと思う。彼女も殆ど寝ていない。
挑戦する子たちへと真摯に向き合って、常に気を張っているんだ。
約束の三ヶ月が過ぎるその時まで、いつまでも待ち続けるつもりだ。
「二人とも本当にお疲れ、あとはゆっくりと休むんだよ?」
「……ますた、おなか、へった。ぺこぺこ」
「これまで我慢した分、今日はたくさん食べていいからね」
気絶したコクエンを毛布に寝かせて。
トロンには用意したご飯を置いてあげる。
「あとは一人。アイギスが合格さえすれば……今まで通りだ」
「しかしロロアさん。アイちゃんはこの二ヵ月で一度も、挑戦すらもしていません。絶望的ですよ」
二人掛かりで死ぬ気で挑み、二ヵ月を費やした訓練を。
心が折れた子がたった一人で、残り時間で越えられるのか。
無理だ。どんなに楽観的に考えたところで不可能で。
絶対に一人では越えられない。だから、僕は信じるんだ。
この二ヵ月、僕にも何かできる事はないかと探した。
直接的な干渉をしても、一時の気休めにしかならない。
僕という存在が、彼女に甘えを生み出すというなら。
最後の手を打っておいた。あとはあの子にすべてを託す。
「……大丈夫だよ。アイギスには僕だけじゃない。仲間がついているんだから」
◇
ロロアたちが過ごす、大賢者ドラウフトの隠れ家がある浮島から。
橋を渡って一つ隣にある浮島の森の中に、小さな草の寝床があった。
三ヶ月の試練期間の中で、誰とも顔を合せないで済むようにと。
アイギスが一人で作った逃げ場所である。そこにエルがやってきた。
「……あいぎすさん。こくえんさんととろんさんが合格したみたいです」
昼食のパンとスープの入った器を置いて。二人は並んで座る。
最近では一緒にご飯を食べるのが日課で。エルはいつも傍に居た。
「そうなんだ……うれしいね」
「あいぎすさんは、挑まないんですか?」
「……あのひとがいれば、いらないから。たてはふたつもいらない」
拗ねるような、悲しむような言葉を吐いてアイギスはパンをかじる。
「あるじさまは、あいぎすさんがいなくなってから元気がないんです」
この二ヵ月の間に、ロロアは上の空になる時間が増えた。
家の壁にぶつかったり、料理中に火傷する事もあった。
いつも誰かの事を考えていて。いなくなった人物を探している。
ずっと一緒に居た。その時間は何よりも大事なものだとエルは語る。
「ろろあ……ごめんね、ごめんなさい」
大粒の涙を流して、アイギスは謝り続ける。
「あるじさまだけじゃありません。エルも、らいぶらさんも、みんなみんな待っているんです」
エルはその手を握って、言葉だけでなく気持ちも伝えようとする。
「てぃあまとさんを驚かせましょう! 盾は二つあってもいい、一つじゃないといけない理由なんてないです! あいぎすさんがいないとダメなんだって認めてもらうんです! エルも、ついています!」
「でも、もうまにあわないよ。じかんが……」
アイギスが唇を噛む。残り一ヵ月で何ができるのか。
「時間は~作るものです~。わたくしも~ご協力いたしますよ~」
瞬間、爆音が響いて周囲の木々が薙ぎ倒された。
「だ、だれ?」
「わあ、えるふの方です!」
外に飛び出した二人を出迎えたのはエルフの少女だった。
肌が露出した際どい服を着こなして、杖の宝珠を操っている。
「この身体では~お初にお目に掛かりますね~。わたくしは~ユグと申します」
「ゆぐさん、ついに肉体を得られたんですね!」
ロロアの【創造の樹杖】が【擬人化】した姿。
一緒に居た期間を考えれば目覚めるのが遅いくらいだ。
「はい~、先日、器をいただいたのですよ~。邪魔なものはポイしますね~」
ゆったりとした口調のまま、容赦なくアイギスの寝床を破壊していく。
次々と創造された木製の剣や槍が、手作りの草の屋根やベッドを貫いた。
「こわさないで、どうして、わたしにいじわるするの?」
「寝坊している子は~起こさないと~いけないですからね~」
にっこりと笑い。ユグはアイギスの肩を掴んだ。
逃がさないようにと蔦で両手両足を縛りあげていく。
「う、うごけない……」
「ろろあ様にお願いされました~。えるさんと、わたくしと共に、試練を乗り越えてもらいますよ~」
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