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第82話 修行

 鬼教官ティアマトさんの試練が始まり、最初の一ヵ月が経過した。

 外の世界と時間の流れが違うのは確かで、それは実際に僕も体感した。

 

 廃坑前に置いてきた運搬ゴーレムをエルと一緒に半日掛けて運び出し。

 秘密の階層に戻ってくると、もう内部では十日以上も経過していたんだ。

 

「主人の帰りが遅いと、そこの妖精が騒いでうるさかったぞ」


「当然でしょう! 私様は王の参謀ですよ!」


「ごめんね。まだパーツが残っているから。あと半月掛かるかも」


「ごーれむさん重たかったです」


 事前に報告していたのに。ライブラさんは心配性だ。

 次回は私様もついていきますと言われたけど。

 訓練中の三人を見守る保護者は必要だ。


 これは決してティアマトさんを信用していない訳ではなく。

 意地になって大怪我をしそうな子が、二人ほど居るからだ。

 

「隙アリです!」


 突然、背後から現れたコクエンが手刀によりティアマトさんの首を狙う。

 見向きもされずに、最小の動作で躱されて、追撃もことごとく外れていく。

 

「ところで、今日の飯は何を用意してくれたのだ。主人がいない間は碌な食事にありつけなかった」


「えっと、近くの川で魚をとってきたから。焼き魚でもどうかなと」


 この一ヵ月の間に僕もティアマトさんに慣れてきた。

 意外と彼女はトロンに似て食いしん坊だ。何でも美味しそうに食べる。

 秘密の階層は大賢者の隠れ家だけあって、探せば食材は色んな所で見つかる。


「ふむ、それは楽しみにしておこう」


 奇襲にも何も反応せずに、ティアマトさんは僕の隣に座る。

 足を使って目の前の土を削り取る。ちょうどコクエンが現れ、


「ええっ!?」


 窪みに足を突っ込んで、バランスを崩して転がった。

 すべての動きが見切られている。まるで未来予知に近い。


「何かが転がったようだが、我には見えないな」


「くっ……相手にもされない……くやしいですっ!」


 コクエンは苛立ち気味に地面を叩いていた。 

 全身は泥だらけで、睡眠不足で目元も赤くなって。


 殆どご飯も食べていないはず。夜中でもずっと張り付いているから。 


 最初こそは教官を襲うのを遠慮していたコクエンも。

 一ヵ月も経つと考えを改め、全力で殺しに掛かっていた。


 神話級を相手に手加減を考える余裕なんてない。

 それくらいの覚悟がないと、乗り越えられない試練なんだ。


「主人よ。三秒ほど目を保護した方がいい」


「わわ、揺れています!」


「トロちゃんも殺気立っていますね……」


 遥か遠方からトロンの全力雷光砲撃が飛んできた。

 あまりの眩しさに視界が点滅する。って巻き込まれるよ!


「手段を選ばないやり方だが、そうこなくては面白味がない」


 ティアマトさんが立ち上がり、右手の指を動かす。

 大地が膨れ上がり、禍々しい龍の頭が飛び出してきた。


「餌だ、喰らえ」


 魔物を消し飛ばすトロンの砲撃を、軽々と噛み千切った。

 瞬間、小さな光が乱反射する。小型の雷光弾が跳弾したんだ。


「おお、上手いですね。先程の砲撃は囮でしたか」


 雷光砲撃で視界を奪いながら、裏で本命の弾が仕込まれた。

 今まで単純な力押しを好んだトロンが、一人で策を講じたんだ。


「やはり、奴には見所があるな。だが、まだだ。まだ絞り出せるはずだ」


 跳弾した複数の弾は速度が落ちていて、簡単に避けられる。

 といっても簡単に避けるティアマトさんがおかしいのだけど。


「ここっ!!」


 再度コクエンが、トロンが生み出したチャンスを狙う。

 闇の炎が四方に伸びて、ティアマトさんの逃げ道を塞いだ。


「悪くない連携だが、動き出しがワンテンポ遅い。潔く出直せ」


「あうっ!?」


 砂が飛び散りコクエンの目を潰す。 

 集中が途切れて炎も維持できず消滅。

 今回も、失敗に終わってしまったようだ。


「コクエン、焼き魚を用意したけど……一緒に食べよう。お腹に入れないと力が入らないよ」


「ご主人様……申し訳ありません。今、甘えてしまっては。私めはきっと心が折れてしまいます……」


 名残惜しそうにして、コクエンは立ち去っていく。

 かなり疲れている様子だけど、同時に逞しさが宿っている。


 いつもなら泣いていそうなところを、そんな余裕もなく真剣だ。


「ティアマト。私様の可愛い部下をあまり虐めないでもらいたいのですが」


「部下か。随分と丸くなったなライブラよ。お前が他者に関心を持つなど」


「時代が変れば生き方も変わるものです。私様は今のロロアさんに合わせているのですよ」


 ライブラさんも本気の姿だと、他人を寄せない雰囲気がある。

 元の所有者の影響を大きく受けているんだ。大賢者ライブラの。


 小さな妖精さんは僕との関係性から生まれた意識で。どちらも本物。


「とろんさん、お腹を空かせていませんかね?」


「エル、あとで三人に食事を届けてくれないかな。僕だと遠慮させてしまうみたいだ」


「わかりました!」


 トロンですら食事を後回しにするなんて。本気度が伺える。

 仮に不合格だとしても、僕はみんなを置いていくなんてしない。


 だけど妥協したところで、本人たちは納得できないままだ。

 みんな僕の隣に立つ為に頑張っている。とても光栄に感じる。


「アイギス、コクエン、トロン。僕はみんなを信じて待っているからね」

次の更新は11/5です

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