第80話 七神宝
翌朝、と呼べる時間なのかはわからないけど。
体力を回復させてから僕たちは探索を開始する。
最初はあまり遠くは目指さずに、まずは今いる浮島を歩く。
といっても山火事で灰になっていたので、すぐに回り切った。
「何もなさそうだね。生物もいないし。もう少し奥に進んでみよう」
「隣の浮島に通じる橋が一つありました。あれが正しい順路なのでしょう」
木製の手作り感のある橋がギシギシと音を立てている。
火事で燃えなくてよかった。でも人の重みでも落ちそうだ。
ここで命を失えば永遠の存在になる。戦闘とは違う緊張感が。
「念を入れて、一人ずつ通っていこうか。まずは僕が安全を――」
「わ~!」
エルが楽しそうに橋を走って渡っていった。
勢いで大きく横に揺れる。が、何とか無事だった。
見た目は脆そうだけど、意外と丈夫なのかも。
「エルエル!? 何をされているのですか! 落ちたらおしまいなのですよ!?」
「? エルが安全を確かめたらダメだったですか?」
「誰かがやらないといけなかったけど。走る必要まではなかったよ……?」
エルは不死身だからこそ、死に恐怖するという感情に乏しい。
無事に済んだけど。あとで危ない事はしないよう教えてあげないと。
「ご主人様、あちらの方に人工物を発見しました!」
「……だれも、いない。あんぜん」
二つ目の浮島に入り、先行していたコクエンが知らせてくれる。
トロンが索敵して、魔物の気配はなさそうなのでそこを次の目的地に。
「おおーかくれがだ!」
森の中に隠れるようにして小さな家が建っている。
所有者が誰なのかは考えずともわかる。この魔塔の創造主だ。
「……お邪魔します」
ドアを開けると、大量の白い埃が宙を舞う。
天井がガラス張りで光が差し込み室内がよく見える。
机とたくさんの本棚。水を入れる壺に吊るされた保存食。
竃に暖炉、燃料の炭に色んなものが乱雑に放置されていた。
一人の人物が暮らしていくのに不自由ない設備が整っている。
「あはは、この部屋を見るだけで、何となくどんな人物だったのか想像できるね」
本は開きっぱなしで、あれもこれも整理が中途半端になっている。
「めんどうくさがり?」
「男の人の部屋って感じです! あるじさまの部屋はいつも綺麗ですけど!」
「僕の場合はみんなと過ごしているからね」
僕も一人だけなら、きっとこんな感じに適当になっちゃうかも。
「……私めには読めそうにないです。古代文字で書かれてあります。ケルファなら読めるのかなぁ?」
「本当だ。グネグネしてる」
読めないけどかなり字が汚いのはわかった。
きっと他人に見せない個人の日記のようなもの。
「こ、これは大賢者ドラウフトの日誌ですよ! ふむふむ、日頃の献立が書き殴られています。――取り留めのない内容ですね。まるで痴呆症対策をする老人ですよ……!」
「どんな優秀な人でも老いには勝てないんだね」
過去の偉人に一気に親近感が。同じ肉体を持つ人だったんだと。
「この階層で食用できる素材もまとめられています。有益な情報として保存しておきましょう」
「あの四角い実も食べられます?」
「あれは上質な魔力回復薬の材料になりますね。直接口に含むと舌が腫れて七日は戻らないそうで」
「全部自分の身体で試したんだ。何だか食いしん坊のトロンみたい」
「……むぅ。まけない。もっとたべる」
「そっち?」
調べてみると、回復薬を製造する機材までも見つかる。
ライブラさんがあとで試して、安全ならたくさん作るみたいだ。
「老人の日誌はさておき。しかしこれは面白い事になりました」
ライブラさんは興奮気味に、今度は棚の書物を読み漁っていく。
「ロロアさんもご存じのはずですが、七賢人の血を引き継ぐ王家には大賢者の秘宝も継承されています。私様の本体である【ライブラの書】も、現在は大陸中央を支配する帝国が管理しておりまして。ガーベラ王国では大賢者スフィーダが遺した【神槍ブリュンヒルデ】もその一つ。それらをまとめて【七神宝】として、王が王たる証明にも使われています」
「でも大賢者ドラウフトは、孤独を貫き通しその血を絶やしたんだよね?」
ドワーフ族が国を挙げて魔塔の管理を引き受けているけど。
七大国家に属しながらも、リンドウ王国は正式な一員ではなく。
王の証明となる【七神宝】にも、一つ欠けが出ている状況なんだ。
「この隠れ家には、失われた【七神宝】の在りかが記されているやもしれません!」
「らいぶらさん、その方も神話級なんです?」
「当然です。まぁ、残る六つが束になったとしても、残念ながら私様に劣りますがね♪」
ライブラさんがすごい自画自賛をしている。
本気を知っていると大言ではないのはわかるけど。
同じ神話級でも、やっぱり大きな格差があるみたいだ。
「りゅうじんさまのおたからってなーに?」
「エルも気になります!」
「大賢者ドラウフトの秘宝は、【滅龍双盾ティアマト】。伝説の邪龍を討ち滅ぼした巨大盾ですね――あっ」
ライブラさんが途中でやってしまったという表情に。
「たて……わたしより、ゆうしゅうな、たて」
アイギスが悲しそうに、何度も口を動かして、俯いてしまう。
同じ役割で、国宝級を超える大賢者の秘宝。目指していた神話級。
ことごとく今の心が折れているアイギスには、辛い内容だった。
「ま、まだ見つかると決まった訳じゃないし。巨大な盾なんて僕には使えないよ!」
「ロロアさんの仰る通りです! アイちゃんは気にしなくてよいのですからね? あー私様突然古代文字が読めなくなりました~! 老化ですかね!?」
僕とライブラさんで必死になって励ます。
持ち主が亡くなってから数千年は経過しているんだ。
今さらそんな都合よく失われた秘宝が見つかるはずがないと。
「ううぅ……申し訳ありません。あぁ……私めはなんて間の悪い、余計な働きを……!」
「もう、コクエンちゃんまでどうされたのです。急に泣き出したりして」
何故か入り口に立っていたコクエンまでも泣きそうになっていた。
その手に持っているものは、巨大な盾は――――えっ。
「今しがた隠れ家の周囲を調べていたのですが、その、地下を見つけてしまいまして……」
「秘宝、見つけちゃったんです?」
「……はい」
「そんな、馬鹿な……!」
思わず僕は頭を抱えてしまった。喜び以上に戸惑いが募る。
これが僕とアイギスへの試練だとするならば、あんまりだと思った。
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