第79話 秘密の階層
「ここが秘密の階層か。大賢者が利用する近道なんだ!」
遺跡最深部の転移ゲートを潜り抜けると、
これまで見てきたどの階層とも違う風景が広がる。
太陽とたくさんの星が混在している。昼なのに夜でもあった。
小規模の大地が空を浮いていて。浮島と言えばいいのだろうか。
僕たちが立っている場所も空中を漂っていた。地の底は見えない。
落ちたらどうなるんだろうか。二度と戻れないどころの話ではなさそう。
「これは次元の狭間とも呼べる場所ですね。数多の時や空間が折り重なり一つの世界を構築しています。気を付けてください。ここで命を落とせば魂は二度と外には出られず永遠の存在となりますよ!」
「ひいっ、なんて恐ろしい場所なんでしょう。参謀、出口は消えたりしませんよね!?」
「大賢者に造り出された私様としても、未知の場所ではありますので。安全の保証はしかねます。コクエンちゃん、まずは情報収集です。探索に行きますよ!」
「こ、怖いよぉ……」
二人はデータを集めるべく、周辺を探索しに出かける。
近くに魔物の気配はないから。襲われる心配はなさそうだけど。
「おー。へんなしょくぶつだ!」
「あるじさま、食べてみます?」
浮島に自生している植物には四角の緑果実が。
僕の記憶している食用素材のどれにも含まれない。
「毒があるかも。触らない方がいいと思うよ。とにかく出口の安全は確保しておこう」
秘密の階層がどの程度の規模があるのかは不明だ。
慎重に進むべく、拠点としてゲート前でキャンプを張る。
「あれ、前回創造したロッジってこんなに大きかった?」
ユグの創造で生み出した拠点は、気持ち大きさが増していた。
この階層に入ってから、激しい戦闘後だというのに身体の調子がいい。
「くうきが、きもちいいね」
「エルも新鮮な魔力をたくさん感じます!」
「やっぱりそうだよね」
僕には細かな違いまではわからないけど。
二人の反応を見る限りでは空気中の魔力が多いんだ。
消費した分を回復できるから、疲れた身体も喜んでいる。
でもここで魔法を扱うのは危ない。威力が想定を超えるから。
「ふぎゃああああ! 熱いですよ、コクエンちゃん!! 私様に何か恨みでも!?」
「申し訳ありません! 炎の調整を失敗してしまいました! どうしてぇ!?」
既に向こうの方で被害が出ている。小さな山が燃えてしまった。
浮島だから大参事にはならないけど。ちょっと避難しておこうか。
「……酷い目に遭いました。危うく私様の魂が彷徨うところでしたよ」
「こほっこほっ、ごめんなさぁい……」
結果、煤だらけになった二人が地面を寝そべっている。
身体を洗う水があればいいんだけど。空中の島にあるのかな。
「あるじさま! 川を見つけました!」
「きれいだよ~!」
「もう何でもありだね……!」
容器に水を入れて二人が帰ってきた。それをエルが口の中に含める。
「美味しいです! 毒はありませんでした!」
エルのお墨付きをいただき、汚れてしまった二人に被せる。
「冷たいっ」
「あひっ……!」
「汚れた服はあとで川で綺麗にしようね。焚き火は僕が作るから。二人はロッジで着替えておいで」
コクエンの炎はここでは使えない。久々に火起こしは僕の出番だ。
「ありがとうございます……」
「私様の服は貴重ですのに……」
二人が着替え終わるまでの間に、焚き火を作って。
エルとアイギスには食事の準備に取り掛かってもらう。
色々と動き回っていると、匂いに誘われてトロンが帰ってくる。
「ますた……ごめんなさい」
「気にしてないよ。トロンが無事でよかった……」
トロンはクイーン戦で途中離脱した事を悔いていた。
アイギスと同じで、自分の立場に誇りがあるからこそだ。
いつも表情が読みづらいけど、今はかなり落ち込んでいる。
「僕にとってトロンもみんなも、心強いアイテムである前に仲間だから。替えなんてないんだよ?」
そう言って、僕はトロンをギュッと抱きしめて背中を撫でてあげる。
どうしても言葉では伝わりにくいから。だから全身で気持ちを伝えるんだ。
「ますた……ありが……とう」
ぐぅっと、トロンのお腹の音が鳴りだした。
今日は空腹を主張するのが遅い。安心してくれたのかな。
「おや、トロちゃんも戻られましたか」
「くしゅん……お騒がせしました」
ライブラさんもコクエンも焚き火の前に座る。
「今日の夕食はお鍋です!」
「いっぱいきったよー!」
エルとアイギスが仕事の成果を持ってきてくれる。
持参した食材だけを使った料理だ。みんなで身体の中から温まる。
「今日は英気を養って、明日から本格的な探索を開始しようね」
次回更新は10/30です




