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第74話 アーミーアント

 暗い廃坑の奥地に光が漏れる僅かな隙間があった。

 偶然掘り起こされたんだろう。人為的に塞がれている。


 瓦礫を隅にどかしていくと、遺跡へと通じる道が現れる。


「ここから壁の材質が変っている。明らかに人の手が加えられた跡だ」


 遺跡を生み出したのは七賢人の一人、龍人ドラウフト。

 自らが活用する近道として、侵入者を拒む罠を置いている。


「あるじさま、どうしてどらうふとさんは罠を置いたんですか?」


「魔塔挑戦者に楽させないようにだね。僕たちはいつだって試されているんだ」


 大賢者が魔塔を遺したのは後世の人々に力を保持させる為だ。

 魔塔には厄災が封じ込められている。いつ解放されるかわからない。


 その時になって、僕たちが戦えるように。鍛える場として置いたんだ。


「意地悪なんですね……まるでライブラ参謀みたいです」


「何を言い出しますかコクエンちゃんは。私様はいつでも優しい王の右腕です」


 ライブラさんは大賢者に造られたアイテムだから。

 子は親に似るというし。ちょっと意地悪なところはあるかも。


「――ますた、てきくる。いっぱい」


 遺跡に入って一分も経たないうちに、トロンが反応する。

 敵の本城に乗り込んだんだ。当然、女王は兵士を向かわせる。


「あるじさま、音がします……何かが掠れる音」


「ふむ、私様の前方には敵は見えません。トロちゃん、詳しい位置はわかりますか?」


「……うえにいる」


「えっ?」


「くろいのうじゃうじゃだー!」


「天井だ! 全員避けて!!」


 瞬時にその場を離れる。大きな影が落ちてきた。

 床に降り注ぐのは黒い昆虫。白い埃を振り撒き、顎を開く。


「アーミーアントです! クイーンの忠実なしもべであり、女王の為なら死を恐れない不屈の兵隊です!」


 次々と隙間から兵士たちが現れる。上に下に右に左に。

 僕たちがここまで来るのをずっと待ち続けていたんだろう。


「一瞬で囲まれてしまいました。なんて統制の取れた動き。これはいいデータになりそうです」


「ライブラ参謀、そんな呑気な事を言っている場合ではないです! カサカサしてるよぉ」


「てき、うつ」


「待って、トロンは体力の温存を。コクエン、前方に突き進むよ!」


 連射ができないトロンは万が一に備えて温存する。

 敵の兵士がアントだけとは限らない。他にも隠れているはず。


「……了解しました! 闇に呑まれよ、黒炎陣!」


 消えない炎が直線上に伸び、アントたちが退く。

 相手が昆虫だけあって、炎属性は効果的だ。


 コクエンが身軽な動作で斬り込んでいく。道が拓いた。


「アイギス、僕の手を離したらダメだよ!」


「うん!」


「ロロアさん、後ろから迫って来ています! 早いですよ」


 遺跡は入り組んでいて足場が悪く、動き辛くなっている。 

 アーミーアントは自在に行動ができ、地の利は向こうにある。


「ここはエルにお任せください!」


 最後尾のエルがアーミーアントの群れに飲み込まれていく。

 身体を噛みつかれ粉砕された――もちろんアントの大顎の方が。


「全然効きません! エルは頑丈ですから!」


 不死身の肉体にアーミーアントの攻撃は通用しない。

 すると残忍な兵隊はエルを無視して、僕たちに狙いを変える。


「ま、待ってください! 無視しないで!」


 これも女王の影響なのか。敵の知能が高い。

 エルがアーミーアントの群れの奥に取り残された。

 不死身じゃない僕たちは足を止められない。逃げるしかない。


「あるじさま~!」


「ごめんエル、あとで合流しよう! 入口の方で待っていて欲しい!!」


 ◇


「エルは大丈夫かな……一人にしてしまったけど」


「ロロアさん、無敵のエルエルよりもこちらの方がマズイ状況です!」


「うちたい……」


「まだ我慢して。クイーンまで温存だよ!」


 エルと離れた為に、龍の魔力水の補給ができなくなった。

 つまりトロンの雷光砲撃の弾数が減っている。攻撃力が落ちた。


「鞄の中に魔力回復薬(マナポーション)があるから最低三発は撃てる。それで決めないと」


「ご主人様、また距離を詰められています! このままでは追い付かれ――」


「コクエン! 前を向いて!」


「ふぇっ?」


 色の違う床を踏み抜いたコクエンの側面から毒矢が。

 身体を抱きしめて転がる。外れた矢は瓦礫に当たって弾ける。


 強烈な酸の臭い。毒矢は岩を溶かしている。恐ろしい毒だ。


「気を付けないと。僕たちはエルじゃないからね?」


「ふぁあ……ご主人様ぁ……」


「抱きしめられて昇天している場合ではないですよ! 来ます!」


「はっ、そうでした!」


 先頭を走るアーミーアントが大顎を振り回す。

 狙いは僕だ。通路が狭すぎて自慢の足が使えない。


「ますた、まもる」

 

 トロンが背中の砲身をぶつけて火花を散らす。

 その刹那にコクエンが手刀で前足を斬り落とす。


「くっ、しぶとい」


 足を落とした程度では怯みもしない。

 今度は全身の体重で押し潰そうとしてくる。


「クリエイト!」


 そこで機転を利かせたコクエンがユグの創造で木柱を立てる。

 地面から突き上がった柱がアーミーアントを天井に捩じり潰す。  

 

 ようやく一体が絶命した。が、すぐに新しい個体が。


「燃え上がれ、炎牙! ここから先は通しません!」


 炎が創造した木柱を燃料に激烈な炎壁を生み出す。

 通り抜けようとする兵士をことごとく灰へと環えていく。


「ご主人様、私めが連中を足止めしますので。どうかクイーンを!」


「属性相性がいいとはいえ、一人では無茶だよ!」


「一人ではなく二人です。私めには、この子がいますから」


 コクエンがユグを握り締めて僕に笑いかける。

 

「そうだったね。うん、立派になったよ。頼りになる懐刀だ」


「この物量をぶつけられて長期戦は望めません。コクエンちゃん、任せましたよ!」


「お任せください!」


「がんばれ~」


「……まかせる」


 おびただしい数の兵士と二人を残して、僕たちは走り出した。

次の更新は10/20です

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