第68話 魔女の素質
「あれ? 私めは一体何を……ふぇっ!? 皆さんどうしてひれ伏して……!」
正気に戻ったコクエンが場の変わりように驚いている。
ドワーフたちが頭を地面に付けて祈り続けているのだから。
龍人に対する信仰心は本物だったみたいだ。
説明するとコクエンの表情がみるみる蒼くなる。
「私めごときが偉そうに命令してごめんなさぁい!!」
龍威圧が消え失せて、コクエンは僕の椅子の下で縮こまってしまう。
「いつもの調子に戻ってしまいましたね……アイちゃんと違い長くは持たないようです」
「よしよし。誰も怒っていないからね」
僕は下に見えるコクエンの頭を撫でながら落ち着かせる。
「こちらの龍人様はなかなか愉快な性格をしていらっしゃるようで」
信仰の対象である龍人を愉快と称してしまう。
ドワーフのお爺さんこそ只者ではない雰囲気があるけど。
「えっと、それで秘密の階層へ下りる条件を教えていただけないでしょうか。女装はしません」
「うむ……似合いそうなのに惜しいのう」
本心から零れたような呟きだった。
「まず基本情報として二十五、六十五階層に共通してフロアボスは巡回しておらず、遺跡最深部に生息しておる。手始めに異世界内の遺跡を攻略して、フロアボスの元まで向かわねばならん」
「なるほど、遺跡という事は罠とかもありそうですね。気を付けないと」
「フロアボスを討伐すれば封印された扉がある部屋まで辿り着くはずじゃ。そこに龍人様の好物を捧げる。さすれば秘密の階層への転移扉が開かれるであろう」
「龍人様の好物……」
何だろう。パッと思い付くところでお肉かな。
龍人の肉体を持つコクエンにあとで聞いてみよう。
「――ワシから語れる情報はここまでじゃな」
ドワーフのお爺さんが話を終わらせてしまう。
答えを知っていて隠してしまったような切り方だ。
「むっ、ここまできて勿体ぶりますね」
一緒に話を聞いていたライブラさんが指摘する。
「最初からすべての答えを知って満足できるのかえ? 何の目的をもって魔塔に挑むのか」
お爺さんは僕たちに問いかけてくる。
「貴重な情報、ありがとうございます。あとは自力で攻略します。僕たちは自分の可能性を試す為に挑むんです。険しい道のりこそが本望ですから」
即答すると、オオっと歓声があがる。
「それでこそ冒険者じゃな。我々に魔塔を遺した偉大な七賢人様もお喜びになられるじゃろう」
「私様は、答えありきの楽な道でも問題ないと思いますがね」
ライブラさんは少し不満げだった。
探求する者と記録する者の違いかな。
「では勇気ある新たな挑戦者の健闘を祈り乾杯じゃな!」
ご機嫌なドワーフたちが理由を付けてまたお酒を飲み始める。
それからは僕たちも料理をご馳走になりながら世間話に華を咲かせた。
エルたちの分も包んで持って帰ろう。
◇
「さぁ、みんな準備はいい? 一度入ればもう後には戻れないよ」
翌朝、僕たちは【地下深淵の塔】の入り口に立ち最終確認を取る。
初めて入る魔塔。準備は念入りにしているけど何が起こるかわからない。
特に異世界の遺跡は未知数だ。フロアボスとの戦いも控えている。
「エルは大丈夫です! とろんさんも万全です!」
「私様もいつも通りの可愛らしさを振り撒いておりますよ」
「……うぅ、眼帯買い忘れてしまいました」
「がんばろー!」
最後にアイギスが元気よく引き締めてくれる。
「よーし、出発――」
「ちょっと待った!」
いざ入場しようとして背後から呼び止められる。
秘密の階層のヒントをくれたドワーフのお爺さんだ。
上り坂を走ってきたのか、汗だくになりながら立ち止まる。
「一つ言い忘れておったが、九十階層に到達した際によく周囲を隈なく探索してみるといい。攻略に役立つ何かが見つかるはずじゃ。ふぅ……呼び止めて悪かったな」
「わかりました。わざわざありがとうございます!」
「……うむ、頑張るのじゃぞ。お主たちには期待しておるからな」
それだけを言い残しフラっと立ち去ってしまう。
九十階層に何があるんだろうか。楽しみにしておこう。
「またしても寸止めですかっ! アレはもう絶対にわざとですよね!? 何かって何ですか、抗議しますよ!」
「らいぶらさんが怒っています!」
「ようせいさんこわい……」
「まぁ、すぐにわかる事だし。あまり大きな声を出すと、アイギスが怖がっているよ」
「ひくっ……ぐすっ。わがままはね……いけないんだよ?」
目に涙を浮かべてアイギスが泣き出してしまった。
「あー、らいぶらさんが泣かしました!」
「参謀……幼い子を悲しませるなんて……」
エルとコクエンから非難の目が向けられる。
流石に自分が悪いと自覚しているライブラさん。
「アイちゃん、謝りますから泣かないでください!」
すぐさま謝罪の言葉を発する。
「……やくそくだよ?」
「ええ、約束しますから」
「えへへ、やさしいようせいさんはすきだよ」
瞬間で涙が引っ込んでアイギスは笑顔になる。
あれ、もしかしてさっきの涙は嘘? 意外と演技派?
ライブラさんも騙された事に気付いて、口を開けて固まっている。
「……ロロアさん。私様のデータが警告しています! 幼児化アイちゃんには手練手管で他者を操る魔女の素質が――!」
「なかよしなかよし」
「あああ、堕とされる。子供アイちゃんに堕とされるぅ! あー!」
ライブラさんの妖精の肉体がアイギスの胸に埋まった。
嫌がる風に見えて喜んでいるような。……止めなくてもいいか。
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