表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

61/118

第61話 神化の秘薬

 静謐な地底湖に痩せた頬が特徴的な人物が現れる。

 意識のない冒険者たちを確認しながら、荷物から【神技書】を取り出す。


「愚かな冒険者どもめ。自分の能力が奪われているとも知らずに。もっと争い合え。そして可能性を我が主へと献上するのだ」


 クロストは邪悪な笑みを浮かべて冒険者の額に手のひらを乗せる。

 青白い光が記憶を消し去っていく。そしてスキルを【神技書】に封じ込める。

 

 新たに得られた可能性を眺めて悦に浸る。そんなクロストの背後に影が掛かる。

 

「そんな隙を見せていいのか能力喰らい(スキルイーター)さんよ。愚かなのはどちらの方かな?」


「おや、ルガンじゃないか。能力喰らい? 一体何の話だ?」


 この期に及んで言い訳をするクロスト。

 落ちている【神技書】を背中に隠すがもう遅い。


「そこに証拠がたくさん落ちているじゃないか。寝ている連中を起こして確かめてみるか?」

 

 まだ全員の記憶は消し切っていない。

 【神技書】には奪われたスキルが刻まれている。

 持ち主に確かめさせれば犯行が明らかになるだろう。


「……ルガン、俺たち同じEランクで何度もパーティを組んだ仲だろう? 見逃してくれないか。魔が差したんだ、反省している。もうしないと約束するから」


 クロストが【神技書】を地面に置いて、ルガンさんに近付いていく。


「その言葉が本心であれば、考えてやってもよかったが……」


 僕はすかさず天井からクロストの肩を撃ち抜く。


「ぐあっ」


 悲鳴をあげてクロストは肩を押さえる。隠していた腕が青白く光っていた。


「卑怯な犯罪者を問い詰めるんだ。俺が一人だと思ったのか?」


「ぐうぅ……薄汚い冒険者どもが、群れなきゃ何もできない弱者がああ……!」


 怒りを露わにしてクロストは叫ぶ。


「それがお前の本性か。残念だよ。せめて俺が楽にしてやる」


 ルガンさんが大剣を構える。僕も頭を狙って――気付いた。


「ッ! ルガンさん、急いで奴の腕を止めてください! コイツは【理の破壊者】です!!」


 照準器を通して奴の手元に隠していた注射器が見えた。

 腕を目掛けて雷光弾を放つも、クロストは身体を盾にした。


「貴様!」


「ぐふっ……一歩遅かったなぁ!?」


 ルガンさんも同時に斬り付けるが、素手で受け止められていた。

 既に注射器は首筋に深く刺し込まれている。肉体が膨張していた。


「……油断したな、ルガン。俺は既に神に等しい力を得ているのだ!!」


 クロストの背中に腕が新たに二本生えている。

 額に第三の目が開き、膨大な魔力が地下を震わす。


「馬鹿な、人間を辞めるつもりか!?」


「捨ててやったのさ。可能性を縛る余計な器をなぁ!!」


 ライブラさんに教わった神話級の秘宝【神化の秘薬】。

 異界神の細胞を取り込み、人の器を凌駕した怪物に変化する薬だ。


「ルガンさん油断しないでください。奴は器の限界を超え奪ったスキルすべてを使えるんです!」


 僕は天井から【創造の樹杖】で滑り台を生み出し。

 雷光弾を放ちながら地表に降り立つ。弾は魔法障壁で防がれた。


「無駄だ無駄あああああ!!」


 クロストは巨大化した肉体を獣の如く俊敏に動かし、

 地底湖から突き出した岩の上に立つ。全身が棘の鎧と化している。


「お前らの可能性すべてヲ喰らってやル!!」


 カナンの時よりも更に理性が残されているように感じる。

 人によって適性があるのか。それとも薬に改良が施されたのか。


「ロロア、怪物と化した奴を倒す術はあるのか!?」


「奴が投与した薬は一時的に神の力を宿す神話級の秘宝です。莫大な神力に人の身体では受け止め切れず、時間と共に肉体が自壊するはずです!」


「その制限時間は?」


「およそ数日ですかね……」


 薬が改良されているとなると、更に制限時間が伸びている可能性も。


 エルたちの力を借りたいけど、短期睡眠に入ってまだ二日目だ。

 最低でも三日目にならないと人の肉体に戻れない。あと一日足りない。


「数日だと!? その前に俺たちが壊されるぞ!」


「ぐわはははは、漲る、漲るぞおおおおおおおおお」


 クロストの周囲の魔力渦が実体化し放たれる。

 各属性魔法弾をアイギスの魔法障壁で受け止める。

 

「クロスト! お前は自分が何をしているのかわかっているのか!? 自殺行為だぞ!!」


「何の話だぁ? 命乞いをしても無駄だぞ!!」


 死に至る薬を投与したというのに、危機感のない返事だった。


「きっと末端の人間には、薬の副作用を知らされていないんです」


「【理の破壊者】は人間をなんだと思っているんだ!」


 哀れにも思うけど、それ以前にクロストも犯罪者だ。

 彼自身も人間を食い物とする怪物。同情の余地はない。  


「ひっ……な、何だあの怪物は……!」


「あれも試験の一部なのか!? 聞いていないぞ!」


 隣で目を覚ました復帰者パーティが騒ぎ出す。

 

「お前ら手を貸せ。奴は【理の破壊者】だ、地上に出したら王都にも被害が及ぶぞ!」


「ば、馬鹿。【理の破壊者】を捕らえるなんて騎士団の仕事だろ! 俺たちには関係ない!」


 次々と逃げ出していく。残ったのは僕とルガンさんだけだ。


「ちっ、臆病者め。冒険者としての誇りはないのか!」


「勝てないと理解して逃げた奴らは利口じゃないか。愚かなのは残ったお前たちの方だ!!」


 クロストが飛び掛かってくる。超質量が地面を砕き。

 天井が揺れて鍾乳石が落ちてくる。僕はアイギスを振るう。


「死ねぇぇぇ!!」


「させるかっ!」


 クロストの両腕が輝く【剛力】と【腕刃】だ。

 まともに受けられない、力を抜き盾の表面を掠らせる。

 激しい接触音と帯電効果で火花が散る。足元を潜り抜けた。

 

 肉壁が薄い足の腱を短剣で斬り付けるも、【自然治癒】で瞬時に治される。

 コクエンの消えない闇の炎すらも治癒速度に間に合っていない。


 ルガンさんも合間に大剣を叩きつけるも筋肉に弾かれていた。


「くそっ、大量のスキルを使い放題とは、厄介すぎるぞ!!」


 いったん距離を取って今度はトロンを構える。 

 エルの魔力水を口に含み、全力の魔力を充填する。


「最大出力を喰らえ!」


 片膝を付いて、移動し続けるクロストの上半身を狙う。

 全身の骨に響く反動。全力雷光弾が腕を二本吹き飛ばした。


「ぐあああああああああああっ」


 血飛沫と肉を飛ばしてクロストが呻き声をあげる。

 同時に僕にも腕の痺れが襲う。次弾の充填をしないと。


 もう一度魔力水を取り出すも、指が上手く動かない。


「させるかあああああ!!」


 クロストもトロンの脅威を理解したのか。 

 一気にこちらに距離を詰めてくる。横に転がり回避。


「クリエイト!」


 反撃を受ける前に【創造の樹杖】の二重の木砦で囲う。

 地表を滑り魔力水を飲み込む。うつ伏せになって照準器を覗き込む。

 

「ぐおおおおおおおおおおおお」


 木砦を破壊した瞬間に、もう一度全力雷光弾を。

 今度は腰の一部を破壊した。治癒も間に合っていない。


「貴様ああああ、よくもやってくれたなあああああああ!」


「くっ……まだ死なないのか。しぶとい……!」


 僕の未熟な身体では、トロンの衝撃を受け止め切れない。 

 三発目を用意しないと、だけど、全身が悲鳴をあげている。


「ロロア、大丈夫か! すまない、どうやら俺は足手まといのようだ。お前が頼りだ」


 駆け付けたルガンさんに背負われる。

 容赦なくクロストの魔法弾がはじけ飛ぶ。


「ぐうっ……」


 飛び散る破片を喰らって、ルガンさんの口元から血が流れた。


「大丈夫ですか!」


「気に留めるなロロア、俺が足になる。お前はそのまま魔導銃を使え!!」


「……っ、わかりました!」


 ルガンさんに担がれながらもう一度照準器を覗きこむ。 

 

「無駄な足掻きだああああああああ!」


 煙を放ちながら修復していくクロストの肉体。

 揺れる視界を抑えて、削れた部分に三発目を撃ち込む。


「ぐぎぎぎぎぎぎ……」


 ついに心臓部が露呈した。あと一撃だ。


「ぐおおおおっ」


 襲い来る反動にルガンさんも苦しむ。骨の折れる音が続いた。

 耐え切れず倒れる寸前に、彼は僕を遠くに投げつける。

 

「ルガンさん!」


「俺はいい、四発目を放て!!」


「まずは貴様からだルガン! 地獄に落ちろ!!」


 追い付いたクロストがトドメを刺そうと拳を振り上げる。

 僕は急いで魔力水を飲み心臓部を狙う。間に合うか、どうか。

 

「死ねええええええ!!」


「シューシュウー」


 肉が弾ける音と金属音が同時に響いた。

 白い魔導ゴーレムが、フロストの腕を止めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ