第54話 最高の仕事
翌朝、借りている宿にレイリアが訪ねて来た。
後ろには彼女に仕える専属の使用人たちが揃っている。
「ロロア、ライブラさんからお聞きしました。私の兄上が貴方の命を狙っていたとか。王家の恥部を晒し 恩人である貴方に不義理を働いてしましました。何とお詫びすればいいのか……」
その場にひれ伏す勢いで、レイリアが僕に謝罪を繰り返す。
そんな彼女の身体を支える、王族が簡単に頭を下げたらダメだよと。
だって、別に命を狙われたと思えるほど強い相手でもなかったから。
「ううん。平気だよ。こちらこそ、わざわざ引き取りに来てくれてありがとう」
アイギスが連れてきた王子たちが、乱暴に運び出されていく。
「あの二人、一晩も持たなかったわね。すぐに動かなくなってしまったわ」
「アイギスさんやり過ぎですよぉ。私めの頭から悲鳴が離れません……しくしく」
「お兄さんたち、人形みたいになっているけど。大丈夫かな……?」
「それだけの罪を犯したのです。命があるだけでも恵まれています」
王宮でも日常的に兄弟同士で争いをしているらしく。
拷問を受けた王子を見て、レイリアは当然のように流した。
「これまで大変だったんだね。その、家族の間で色々あったみたいだし」
あの兄弟のように歪まなかったのは、本人の素質も大きいけど。
離宮に隔離されて育ったからこそ、悪い影響を受けずに済んだのかも。
「平気です。私は王女なのですから、弱音はもう吐きません。何より目標が……出来ましたから」
「目標?」
「今の立場に甘んじていれば、いずれは他国の顔も存じない殿方の元に嫁がねばなりません。それが王族に生まれた者の責務です。ですが私には――もう」
レイリアが僕の事を見つめてくる。
知らない人と婚約しないといけないのか。
人間不信が多少治ったとしても、辛い話だよね。
「あーはいはい。お時間です。いつまでも殿方の部屋に入り浸れるのは問題でしょう!」
「ああっ、ライブラ様! いいところなのに、邪魔をしないで欲しいです!」
僕たちの間に妖精さんが入り込む。ストブリも追いかけてきていた。
「……いつか皆様に認めてもらえますよう、精進いたします。王に相応しい女王として!」
「う、うん?」
たった今、色々と話が順序を無視して吹っ飛んでいった気が。
「創造主様と離れてから、レイリアは女王となる為に積極的に行動を始めたのです! 大成長なのです! 王妃殿下も涙を流され喜ばれていました!」
それはとてもおめでたい話だけど。
彼女の言う王って、やっぱり僕の事だよね?
レイリアもライブラさんの悪い影響を受けていないかな。
「あのお姫様……まさか、ロロアと釣り合う為だけに王座を狙っているの? 嘘でしょ……?」
「流石は馬鹿王子と同じ大賢者の血筋ですね。私様たちを力でねじ伏せるつもりですよ。……強敵が現れましたね。ですが王家とのコネも捨てがたい。ロロアさんが名実共に王となりますし。むむむ」
「ご主人様が出世なされるのですか? わぁ、ぱちぱちぱちぱち」
「こくえんさんが泣いていません! エル、びっくりです!」
後ろでみんなが盛り上がっているけど。話の流れについていけない。
「明日は、父上、母上にもロロアの事を深く知っていただく良い機会です。きっと私たちの事を応援してくださるはずです。どうかこれからも末永く友好を深めてまいりましょう」
両手を握られて、深い親愛の籠った眼差しを向けられる。
大切な友人の望みが叶うように僕も祈っている。――これで、いいのかな?
◇
王子たちを解放して、その日の昼頃。
僕はエルと一緒に工房区までやって来た。
目的はもちろん、強化されたトロンの引き取りだ。
期待と不安に挟まれながら、イーグルさんのお店の扉を開ける。
「こんにちは、ロロアです。トロンはどうなりましたか?」
「そこのカウンターに置いてある。勝手に確認しろ」
布が敷き詰められた箱の中に、輝きを放つ魔導銃が。
手に取る。以前よりも重みが増して、滑り止めも効いている。
内部の隅々までしっかり清掃されて。手抜きは一切感じない。
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改造型魔導狙撃銃トロン☆3.6【擬人化】
・魔力吸収改
・雷属性変換
・命中補正ランクC
・魔力伝導効率ランクD
・魔弾加速装置ランクE
・照準器ランクD
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さっそく【情報板】でも確認してみる。
生まれ変わったトロンの情報が満載だった。
「あの、パーツが随分と増えているみたいですが……これは?」
金貨五十枚はロングバレル分だったと記憶しているけど。
二つの銃宝珠が一ランク上のものに。照準器まで付いている。
それに魔弾加速装置なんてものは僕も初めて見た。
☆が3.2から3.6と急増大して、ついにコクエンと並んでいる。
「俺からのサービスだ。ロングバレルと加速装置で威力をトコトン追求した。その分反動が強く、連射力も落ちるが。一撃必殺をコンセプトに命中率は照準器と補助パーツでできる限り保持してある。あとは使い手の腕次第だな。上手く使いこなしてみせろ」
一発に重きを入れるのは、魔塔探索で重要な物資の節約にもなる。
この先、龍の魔力水に代わる補充手段が見つかるとも限らない。
それでも子供が扱うには威力と反動が高すぎる設定。
普通の専門家であれば、ここまでの特化は避けてしまうはず。
僕たちの実力をその観察眼で見抜いて、限界まで調整してくれたんだ。
「素直な子だった。改造していてここまで興に乗ったのは久しぶりだ。つい予定にないパーツまでくっつけちまったよ。おかげでこちらは大赤字だ。……唯一無二の相棒を大切に扱えよ」
「これが、職人さんのお仕事ですか……丁重な仕上がりにとろんさんも喜んでいます!」
イーグルさんのこだわりは目に見える形となっていた。
ただ求められるもの以上の価値を、そこに付加してくれている。
エルの言う通りだ。彼は紛れもなく本物の職人だった。
「それで、俺の命を懸けた仕事ぶりに対する感想を、お聞かせ願いたいんだが」
「……イーグルさんの工房はいずれ世界に名を轟かせるはずです。この街で貴方に出会えて光栄でした。前回のご無礼を、腕を疑った事をお詫びします」
「ありがとうございます!」
姿勢を正し、僕は深々とお礼を伝える。エルもそれに続いた。
「ふっ当然だな。残りの報酬金貨三十枚を忘れるなよ。一週間以内だ」
必要以上に語らず、イーグルさんは店の奥へと消えていく。
自分の中のこだわりを追求し続ける姿勢は、僕も見習いたいと思った。




