第43話 最上層
「えっ、ライブラさんって神話級で、実は強かったの!?」
「そうよ。しかも私たちが以前倒したフロアボスを大量に生み出していたわ。私よりも数倍、いえ数十倍は差があったわね。流石は神話級といったところかしら」
立ち直ったアイギスから聞かされた話は、驚かされるものだった。
いつもポケットに収まっていた妖精さんが、この中で一番強いだなんて。
自信家のアイギスがここまで褒めるんだ。僕もその活躍ぶりを見てみたかった。
「ちょ、ちょっとアイちゃん。別に隠していた訳ではないのですが、大っぴらにされるのも困ります!」
「何が悪いのよ。珍しく貴女を褒めてあげているのに」
口元を尖らせて、アイギスが友人の才能を広めていく。
目標を先に超えられ悔しさ半分。残り半分は尊敬の念もあるのかな。
「ライブラ様はやっぱり神話級様だったです? そ、尊敬しますです!」
「すごい、すごーいです! エルも早く神話級に戻りたいです!」
純粋組が瞳を輝かせて跳ねている。
「あのですね……私様の【情報受信】は一度発動させると媒体が壊れますので、スペアがない今は使えませんよ?」
「だったら地上で【情報板】をたくさん貰えばいいんじゃない? せっかく変態冷血妖精も戦えるとわかった訳だし、これからはバシバシと働いてもらいましょう」
「酷いっ、壊れるとわかって、アイちゃんは私様を過労死させるおつもりですか!」
「スペアを貰えたのはヘラさんのご厚意だったから。流石に二度目は僕が怒られちゃうよ。それに【擬人化】は☆5からじゃないと無条件といかないから。そう簡単にはいかないね」
スペアの【情報板】も何だかんだ地上から四ヵ月以上の付き合いがあった。
「結局、次に本気を出せるのは半年後くらいかしら? ――褒めて損したわね」
「今は神話級様でないです? ☆1のままですか……悲しいです」
「……らいぶらさん。元気出して? エルも気持ちわかります」
純粋組が同情ムードに変わっていた。
「こういう反応をされるとわかっていましたから、あまり大きな声で言いたくなかったのです!」
頬を膨らませて僕のポケットに収まるライブラさん。
「まぁまぁ。別に戦えなくても、僕は今のライブラさんが一番好きだからね」
「……っ」
「あっ、変態冷血妖精が赤くなってる!」
「うるさいですね!」
◇
魔塔都市ラティアにある【星渡りの塔】六十階。
最上層はこれまでの異世界とは違う室内空間が広がっていた。
「ここが封印の間なんだ」
七賢人が異世界からの脅威、古の魔神王の一柱を封じた場所。
魔塔は封印の箱になっている。目の前に石像が置かれてあった。
槍を掲げた若い女性が精密に彫られてある。
「ブリュンヒルデ様、私のご先祖様を祀った像ですね」
レイリアさんが冷たい石像に触れて感慨に浸っている。
長年の夢が叶えられて、喜びよりも安心が上回ったのかな。
「ロロアさん、封印の間に入ってから何か感じませんか?」
「僕も【星渡りの塔】を攻略できて嬉しいけど。それとは別の話?」
「例えますと、【擬人化】を発動させる時のような感覚でしょうか」
「……うーん。今のところは普通かな」
俗世と切り離された空間は静謐な空気が漂っていて。
緊張して背筋が伸びてしまうけど。それ以外は何もない。
「そうですか。それなら問題はありません」
ライブラさんが納得して僕の肩に座った。
「ライブラ、今の質問の意図はなに? もう隠し事はしないって約束でしょ?」
「これまでも隠し事をしてきた覚えはありませんが……。いえ、ふと考えてみたのですが。魔塔も広義では大賢者が封印に使った道具ですよね? 【擬人化】されてもおかしくないと思いまして」
真剣な声色で言われて、僕の背筋に嫌な冷たい汗が流れた。
「こ、怖い事を言わないでよライブラさん! もし発動したら封印された魔神王ごと世に解き放っちゃうよ!?」
「はい。ですのでロロアさんの回答を聞いて安心しました。魔塔は効果範囲外、もしくは別の特殊な条件があるのか。大賢者もしっかりと対策はしているようですね」
魔塔が大賢者の道具。それは考えもしなかった。
というか、この空間にある物は下手に触らない方が良さそうだ。
何かの手違いで【擬人化】が発動したら、世界に終末が訪れかねない。
「あるじさま、見てください! 綺麗な石があります!」
「レイリア、創造主様、こちらです!」
二人に連れられた先の中心には紫色の鉱石が生えている。
これは魔神王の封印から零れ出た魔力残滓が結晶化したもの。
置いてあるピッケルを使って欠片を二つ分手に入れる。
「レイリアさん、どうぞ魔神石です」
「ありがとうございます。ようやく、大賢者の血を引く王族としての責務を果たせました」
冒険者はこれを地上のギルドに持ち帰り加工してもらう。
綺麗な指輪に変えて、魔塔を踏破した証に変えるんだ。
【星渡りの塔】を踏破し、残る魔塔は六つ。
歴史上、すべての魔塔を攻略した者は存在しないという。
難易度の低い【星渡りの塔】ですら四ヵ月以上掛かった。
他だと数年単位の時間が必要だろうし、人生を賭けた挑戦なんだ。
冒険者の全盛期が二十代後半と考えると。
引退までに四つ攻略できれば優秀と言われるくらい。
僕はまだ十二歳だから。望みはあるかもしれないけど。
全踏破を目指してみようかな。あとでみんなと相談しよう。
「さてと。用事も済んだし、五十階層に戻ろうか」
最上層封印の間は解析不能の古代術式によって保護されている。
地上へのゲートを置くことは難しいらしい。ちょっと不便なのだ。
「また砂漠地帯を通るのですか……私様の新しい肉体が砂で汚れてしまいます」
「砂で汚れるくらいならいいですけど。私めはフードですから、汗で臭いが籠って最悪です……うぅ。これじゃご主人様のお傍にいられません。もう嫌だぁ、燃え尽きて灰になりたい……」
ライブラさんとコクエンが不満そうにしている。
「運搬されるだけの妖精が贅沢なのよ。コクエンも馬鹿言ってないで我慢しなさい。――あら、そういえばトロンを見かけないわね」
「トロンは途中で力尽きて魔導銃に戻っちゃった。今はエルが持ってるよ」
「はっ、その手がありましたか! 私めはここで失礼いたします!」
「あっ、コクエンちゃんズルいですよ!」
音を立てて【黒炎龍の短剣】が地面に落ちる。忘れず拾っておいて。
「怠惰な子が多いわね……。エルとストームブリンガーを見習いなさいよ」
視線の先には、レイリアを挟んでエルとストブリが騒いでいた。
「どちらが先に五十層に着くか競争です!」
「待ってくださ~い!」
「も、もう。迷子になっても知りませんよ?」
三人が先に下の階層に行ってしまった。
【王女の激励】のおかげで僕もまだまだ元気だ。
「地上に戻ったらみんなでお祝いをしよう。もうひと頑張りだよ!」




