第39話 狙われた王女
【星渡りの塔】四十五階。フロアボスが生息する階層。
炎属性の魔物が蔓延る広大な砂漠地帯を三人は渡っていた。
「えいっ、風の刃です!」
砂中から奇襲するサソリ型の魔物を、ストブリが風刃で両断する。
砂漠と風属性の相性はよく。たびたび襲い来る塵旋風も相殺してくれる。
「流石はユニークスキル所有者のお仲間様です。たった一人で上層の魔物を寄せつけないとは!」
「やめてください。そういうお世辞は結構ですから……」
「いっぱい褒められましたです。でも、レイリアは嬉しくなさそうです」
男は――カナンと名乗り、レイリアたちと同行していた。
身体には無数の切り傷があり。あの二人組によってつけられたもの。
治療を受けに四十階の休息所に戻る事も提案したのだが。
本人がこの階層に仲間が残っているのだと強く主張したのだ。
レイリアとしても、前の階層に引き返すのは望んでいない。
早く魔塔を攻略したい。深く考えず相手の提案を飲んでいた。
「それに【王女の激励】も、とても興味深いスキルだ。他者を強化するスキルは数あれど。身近な存在に複数人に付与して本人の負荷もないとは。効果時間も含め最高峰の支援スキルと呼ばれるのも頷ける」
【王女の激励】は周囲の味方の強化。
隠していてもすぐ違和感に気付かれてしまう。
よってトラブルを避ける為に、カナンにも事前に説明してある。
「レイリア、褒められていますですよ!」
「そ、そうですね……」
レイリアがユニークスキル持ちと知ってから。
カナンの態度は妙に馴れ馴れしいものに変わっていた。
襲われて取り乱していたのも最初の方だけだ。
ユニークスキルに関心があるのか。よくある話だが。
悪い印象を持たれていないだけマシというべきか。
なるべくレイリアも普通に対応するように努めていた。
正直なところ早く仲間の元に届けて自由になりたい。
カナンが加わってから、明らかに探索速度が落ちている。
怪我人を抱えてはフロアボスと対峙した場合、対処が難しくなる。
「あぁ素晴らしい。なんて優秀な冒険者なんだ。貴女のような方に出会えるなんて俺は幸福だ!」
カナンの薄っぺらいお世辞が耳障りだった。
裏表のないロロアと違い、媚びているのがわかる。
この窮屈な時間が早く終わるようにと、レイリアは願う。
「おお、確かこの辺りです。この場所に俺の仲間が待っているはずです!」
カナンがそう言って差した先には入り組んだ岩場があった。
砂漠地帯では宿にできる場所も限られてくる。
この先に野営に使いやすい洞窟があるのかもしれない。
「それは良かったです。では、私たちは役目を終えましたのでこれにて……」
「さようならです! カナンさんもお元気で!」
急いでその場をあとにしようとして、呼び止められる。
「待ってください。どうぞ休憩していってくださいよ。お礼に食事を用意しますよ! 仲間にも紹介したいし。きっと楽しいですから!」
「結構です。私たちにも都合がありまして――」
レイリアは強引な誘いに強く断りを入れる。
「……はっ、やはり恵まれた者は断り方も偉そうなんだな。下々の者の施しは受けたくないと?」
――カナンの口調が急変した。表情に怒りが見える。
「……えっ?」
確かに、善意を拒絶するのはやりすぎた気もするが。
あまりにも人が変わり過ぎている。ストブリが前に出ていく。
「ごめんなさいです! レイリアは恥ずかしがり屋なんです! 大勢の前は苦手で……」
ストブリが必死にフォローを入れるが。
カナンの様子に変化はなく。ずっとレイリアを睨み続ける。
「俺は昔から疑問だった。どうして人は生まれながらに差が出てしまうのか。何故、俺は唯一無二の可能性に目覚められなかったのか。世界は、あまりにも不平等だ。スキルがないだけですべての可能性を否定されるんだ」
かつてはそういう時代もあった。スキルの有無で身分階級も変わる。
だが既に殆どの国で廃止されている制度。それにスキルは付け替えができる。
「貴方のおっしゃっている意味がわかりません。今はスキルも簡単に習得できるのですよ?」
魔法技術の発展で才能は楽に手に入る時代なのだ。一体何に怒っているのか。
「器に許される数だけな。自由になったからこそ。今度は器という制約に縛られるようになった。それにユニークスキルも相変わらず選ばれた者だけにしか発現しない」
器――スキルを習得できる限界数は、人によって差が生じている。
十を超える数のスキルを覚える者がいれば、僅かに一つで終わる者も。
自由度が高まったからこそ、相対的に格差が広がっている。
ユニークスキルについても。これも研究が追い付いていない状況だ。
カナンが憤る理由も少しだが理解した。だが、あまりに理不尽。
レイリアだって望んでこの才能を得た訳ではない。それこそ神の戯れで。
「それは仕方のない事です! 完全な平等なんて存在しないです!」
ストブリが代わりに答えてくれる。
王族の立場では決して口に出せない事実を。
「それを恵まれた者が口にするのが許せないと言っているんだ! 俺はお前たちのような偉そうで、才能に甘えた連中が大っ嫌いだ。すべてを奪い絶望に落としたくて堪らなくなる!」
「……まさか貴方は……貴方たちは!」
ここまで来ると、レイリアも男の正体に気付いた。
カナンの背後には武器を背負った十数人の仲間の影。
完全に誘い込まれていた。用意周到だ。
人数からして、逃げ道は塞がれているだろう。
眼帯の男の警告が、今さらながらに脳内を反響する。
「襲われていたのは演技だったのですか……? すべて私たちを嵌める罠で……!」
「いいや、あれは演技じゃない。嗅覚の鋭い化物染みた連中が居てな。俺たち【理の破壊者】の台頭を拒む対抗組織もあるんだよ。まさに俺も殺されるところだった」
つまるところあの二人組は、敵の敵だったのだ。
決して味方ではないようだが。余計な真似をしてしまった。
「私の可能性は唯一無二です。神の法で奪う事はできないようになっています!」
「その理を破壊するのが俺たちの目的だ。ユニークが奪えない? なら奪えるよう何度でも試すだけだ!」
「……レイリア、戦うしか生き残る術はないようです!」
「そのようね……」
カナンの瞳が狂気に変わる。話し合いは通用しない。
レイリアは覚悟して細剣を握る。隣でストブリも構えていた。
「――わざわざ助けてくれてありがとよ。マヌケな王女様。貴重な研究材料として丁重に扱ってやるよ」




