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第33話 いざ後半戦へ

「まさかこんな小さな子供たちが魔塔の上層にやってくるとは……。地上の冒険者の質が上がった事に喜ぶべきか、自分たちの不甲斐なさを嘆くべきか……」


「最近の噂だと能力喰らい(スキルイーター)が現れたって話か。俺たちは偶々目撃していないが。ここから四十階までの間で生存者を保護したとか聞いたな。下手人はまだ捕まっていないようだ」


「三十階層から水属性の魔物が出没する。天候も雨が多いから体温調整には気を遣った方がいい。装備品の手入れも欠かさずにな。あと沼地対策に厚底靴を持っていけ。金に余裕があるならそこの天幕で他の冒険者と取引を行える、物々交換でもいい」


 各地の冒険者から有意義な情報を集めて、

 僕たちはコクエンが眠る天幕まで戻ってくる。

 三十階層までくると、利用者も少ないので貸し切りだ。


「下層で暴れていた能力喰らい(スキルイーター)が、こちらにも現れていましたか」


「この分だと五十階層で複数パーティを襲った人物と同一な気がしてくるよ」


 それだと僕たちを超える移動速度で、各階層を転々としている計算になるけど。

 遺体を処理せず存在をひけらかす危険人物が、複数人いるとは考えたくない。


能力喰らい(スキルイーター)というより、もはやただの殺人狂な気がいたしますが。上層の冒険者を一方的に狩れる実力者であるのは確かです。ロロアさん、ここからは魔物だけでなく人間にも気を付けなければなりません」


「そうだね。ケルファさんの話では二人組の男女らしいから。それらしい人物が現れたら要警戒だ」


 天幕の中に入ると、薄暗い寝床には誰も転がっていなかった。


「あれ? ここにコクエンを寝かせたはずなんだけど」


「そういえば姿が消えましたね」


 ライブラさんと探すも、狭い室内に隠れる場所なんてない。


「――あるじさまは優しいですから大丈夫です!」


「……わ、わわ私めがご主人様と会話を? できません! ここから眺めているだけで十分で――」


 天幕の入り口前で隠れているコクエンと視線が合った。

 身体は震えだし、目には涙を浮かべ、顔は朱に染まっていく。


「ぶふっ」


「わあっ、こくえんさんが鼻から血を出しています、癒しの水です!」


「ぶはっ、何故か生き返りました。……はっ、ご主人様の視界を私めの血で汚してしまい申し訳ありません! 首を切ってお詫びする所存です!」


「癒しの水!」


「ぶふぉ」


 今度は過剰回復の反動で鼻血が飛び出ていた。

 コクエンも首を切ろうとして黒煙を散らしているし。


「……あの二人は何をしているんだろう?」


「重症ですねぇ。エルエルが癒しの水を習得していて正解でした」


 エリクシルの力を鼻血止めに使うって、時の権力者が知ったら卒倒しそう。


「視線が合うだけで気絶されると、これからの道中気を付ける要素が増えすぎて大変だよ」


「ふむ、そうですね。ここは一つ、賢くて頼りになるライブラ様にお任せください」


 ◇


「あ、あの……どうでしょうか? 言われるがまま着てみたのですが……」


「うん、とっても似合っているよコクエン。僕もその恰好を気に入ったよ」


 今にも倒れそうな緊張した声で話かけてくる彼女に、僕はそう答えた。


「はひっ、あ、ありがたきお言葉! コクエンはもう耳を一生洗いません! 服も着替えません!」


「不衛生だから洗ってね?」


 コクエンは灰色フードを深く被り視線を隠している。まるで暗殺者。

 僅かに出ている黒髪が靡いている。紅瞳と合わせてとても様になっていた。


「よろしいですか? 貴女の役目は王たるロロアさんの障害を取り除く事です。特にこの先の階層は人間の強敵も潜んでいる模様。王の懐刀として恥じない活躍を期待しています」


 ライブラさんはどの立場から言っているんだろう?


「了解しましたライブラ参謀。コクエンはご主人様に仇なす愚者を見つけ次第抹殺していく所存です!」


 参謀だった。いつの間にそんな役職が。


「くくく、黒炎ちゃんを私様の忠実な部下として育て上げ。ついでに私様の地位も向上させる作戦です。王の側近の立場は誰にも譲りませんよ。あとアイちゃん対策に私様の護衛もお願いしましょうか」


「怖い人がいないからってやりたい放題だ。アイギス早く戻って来ないかなぁ」


 コクエンのフードと一緒に用意した人数分の厚底靴を配る。

 僕たちの足の大きさに調整されていて、履き心地は抜群だ。

 

 冒険者の中には鍛冶や装飾品に関連した専門スキルの持ち主がいて。

 魔塔の上層を巡り商売をしているんだ。これらは魔石と交換してもらった。


「アクアドラゴンの魔石を受け取った人間たちの騒ぎは傑作でした。私様のデータも笑っていましたよ」


 まとまったお金はないから魔石を差し出すと。

 交換所にいた人たち全員が驚いて物を落とすし。

 取引相手は目をひん剥いてしばらく固まっていた。


 等価交換どころか、靴と魔石じゃ百倍以上の価値の差があったから。


「二個目だからね。稼ぎが目的じゃないし、荷物は減らしておくに限るよ」


 キングオーガの魔石は再会した時に飲む約束をしているので残している。

 ケルファさんたちも元気にしているかな。もう地上に戻っている頃だろうか。


「あぁ……ご主人様が私めに贈り物を……大切に傷を付けないよう飾っておかないと」


 胸に抱いて静かに泣き出すコクエン。履いてもらわないと困るよ。

 エルが隣で強制的に靴を履かせてあげていた。コクエンは号泣していた。


「あるじさま、準備万端です! 癒しの水!」


「しくしく、下賜された靴をさっそく穢してしまいました。愚かな私めに誰か罰を……!」


「鼻血を垂らす問題児への対応はあとにしまして。――【星渡りの塔】も残り半分となりました。これまで以上に危険も増え、更に謎の殺人鬼も潜伏しています。どうかみなさんゆめゆめ油断をなされずに。臣下として王を支えてまいりましょう!」


 こういうところでは真面目なのがライブラさんだ。


「うん。心強い? 仲間も増えたけど、この先は更に厳しいから。誰も欠けずに乗り越えようね!」

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