第28話 役割分担
「エル、遅れずについて来て! 木の根元に引っ掛からないよう気を付けながらね?」
「はい、あるじさまの背中にずっとくっついています!」
僕たちの後方、昆虫種ロックアントが群れで追いかけて来る。
狂暴で高い硬度の顎を持ち、二桁の群れで行動する厄介な魔物だ。
「おーおー、カサカサした黒光りの甲虫が大量に釣れていますね」
「苦手な子も多いんだから、そういう表現はよくないよ、ライブラさん!」
「エルは大丈夫ですよ? むしさんは怖くありません!」
「私様も同様に。きっとアイちゃんは苦手ですよ。データにありませんが、これだけは断言できます」
「それは何となく僕もそう思うよ。どうしてだろうね? 見た目と性格からかな?」
右手に握り締めた【アイギスの神盾】が揺れている気がする。
攻撃を直接受け止めないといけないのが盾の辛いところだよね。
逃げ続けているとロックアントの集団が縦に長く伸びていく。そろそろ頃合いかな。
「エル、ここで反撃に移るよ!」
「はい、エルにお任せです! えいっ!」
エルが反転して、先頭のロックアントに強く体当たりする。
衝撃で足を止めたロックアントに、後列組が次々と衝突していた。
統制の取れた魔物の弱点だ。大きく陣形が乱れて混乱が始まる。
「動きさえ止めれば、慣れていなくても!」
僕は近い相手から【黒炎龍の短剣】で斬り付けた。
闇と炎の複合属性が、半端な装甲を削り取って致命傷を与える。
一匹、二匹、三匹と。正気に戻る前に数を減らしていく。
すると上空から、羽根を持ったロックアントが襲い掛かってきた。
着地の衝撃で木々が薙ぎ倒された。
羽根で音を鳴らし混乱した味方を鼓舞する。
「コイツが女王か、他と比べてひとまわり大きい。エル、女王以外の足止めを頼むよ!」
「わかりました!」
僕を潰そうと女王が大顎を開ける。盾を前にして防ぐ。
火花が散り、帯電効果で相手が怯んだ。すぐに短剣を振るう。
「あれっ……浅いかな、効果が薄そうだ」
盾を構えながらだと短剣の有効射程に入れない。
かといって近付き過ぎると質量で押し潰されてしまう。
魔力の炎で焼き尽くす? これも至近距離だと自分にも当たる。
「ロロアさん、こういう時こそ魔導銃ですよ! トロちゃんの出番です!」
「あ、そうか。待って、今準備するから……!」
まずは左手に持っていた【アイギスの神盾】を右手に持ち替えてと。
それから【黒炎龍の短剣】を腰ベルトに差して、魔導銃を用意して――
「あるじさま! 危ないっ!」
横から飛び込んできたエルに押し倒される。
さっきまで立っていた場所に別のロックアントが。
「ごめん、助かったよ。これでトドメだ……!」
両手で魔導銃のトリガーを引き、女王を一撃で撃破した。
頭を失った群れは慌てて逃げ去っていく。ひとまずは安心だ。
「ロロアさん、今のは間は危なかったですよ。ご自慢の足も動いていませんでしたし。私様の心臓が爆発するところでした!」
首筋に冷や汗を流して、ライブラさんが僕の鼻を突いた。
「盾を持ちながら武器を二つ同時に扱うのは難しいね……途中で思考が鈍るんだ」
僕は安全面から、アイギスを必ず持ち続けると事前に約束していた。
握力が足りていないので、盾は基本利き腕で持ちたい。
魔導銃は左手でも問題なく撃てるけど、短剣になると難しい。
左手では力が入らないから、近接戦闘の時は左右で持ち替えている。
そして今度は魔導銃に切り替える際に盾を右手に戻す動作が入る。
戦闘中に移動しながら、アイテムを動かすのは頭も腕も混乱するんだ。
「切り替え時でのみ、右手でトロちゃんを使えばよかったのでは?」
「それが、これまでずっと左で撃っていたから癖がついちゃったんだ。無意識だとダメだね。わかっていても自然と身体が慣れている方に動いちゃう」
「なるほど。状況ではなく、自分に合った動きを選択してしまうのですね」
「意識して矯正しないと。時間は掛かるだろうけど……」
手っ取り早いのは剣と銃のどちらかに僕が専念する事だけど。
それで一つ遊ばせるのはもったいない。どちらの子も優秀なんだ。
悩んでいる間、エルはずっと僕の腕にあるトロンを見つめていた。
「……いや、待てよ。そうか、エルにも武器を持ってもらえばいいんだ」
何もアイテムだからって本人の力だけで戦う必要はない。
どうして今まで気付かなかったんだろう。固定概念に囚われていた。
「エルがあるじさまみたいにですか?」
「うん、そうしたらエルの活躍の機会もたくさん増えるし。役割も増えてより戦いやすくなる!」
あとはエルに短剣か魔導銃、どちらを使ってもらうか。
「でしたら、エルエルにはトロちゃんをお勧めします。黒炎ちゃんはロロアさんが適任でしょう」
「そうかな? 不死身の器を生かしてエルが短剣でもいい気がするけど」
エルのスキルは防御特化で、僕を守ろうと前線に出てくれる事も多いし。
「ロロアさん、私様たちアイテムは序列を気にしますし、所有者の選り好みもします。黒炎ちゃんはあのお爺さんからロロアさんへと受け継がれたもの。きっと他の者が使っても真価は発揮できません」
「そういうライブラさんも、使い手を気にしたりするの?」
「もちろんですよ。この世界一可愛くて尊い肉体を、王たるロロアさん以外の人間に触れられようものなら。私様は舌を噛んで自爆します。死なば諸共です!」
「自爆はダメだよライブラさん、そこまで思い詰めないで!」
舌を噛んだらどう爆発するのか気になるけど。
「とまぁ、大袈裟に伝えましたが。それだけ潔癖な子もいる訳でして。その点、トロちゃんはエルエルと仲が良いのは明白です。ここは関係性を重視した方がのちに問題も起き辛いでしょう」
「君は、僕に使われた方が嬉しい?」
【黒炎龍の短剣】に語りかける。剣身が輝いたように見えた。
肯定してくれたのかな? うん、ライブラさんの意見を取り入れよう。
「となると盾を左手で持つ練習をしないとね。エルだけじゃなく僕も課題が山盛りだ」
【アイギスの神盾】を握り締める。やっぱりちょっと左だと力が入れにくい。
「アイちゃんは分類としては大盾ですから。ロロアさんの身長では、重さを支えるのに無理な姿勢を維持しないといけないのです。結果、次の動作に遅れが出て、頭で考える動きとズレが生じてしまうのでしょう」
「身長かぁ……そこはもう神に祈るしかないなぁ」
僕も現時点で成長期を迎えているから。毎日お祈りをしておこう。
「あるじさま。とろんさんはどう握ればいいです?」
エルも初めて手にする魔導銃を熱心に学んでいた。
お友だちの身体だからと慎重に触れる姿は微笑ましい。
試しに一発撃ってもらうと、僕の全力と遜色ない威力が。
そういえば今のエルの器には魔力回復薬が溜まっている。
途中で魔力充填する手間も省けるんだ。
もしかしたら、二人の相性は抜群かもしれない。
「おや、お二人とも。さっそく練習相手が出てきましたよ!」
茂みをかきわけて、硬い装甲を持つアーマービートルが飛び出す。
背後からも数匹。彼らの体当たりの威力は石造りの建物をも破壊する。
「エル、銃口を相手に向けてトリガーを人差し指で押し込んで!」
「はい!」
慣れない動きの連続で、エルが放った雷光弾の軌道がブレる。
が、そこは命中補正の誘導が掛かって狙いとは別の魔物に直撃する。
「当たりました~! あるじさま、当たりましたっ!」
誘導には気付いていないけど、エルは大喜びだ。
豊富な魔力を使って、更に連射を続ける。全弾命中。
「上手だよ。その調子で任せたから!」
僕は僕で別の相手と対峙する。【黒炎龍の短剣】に魔力を流し込む。
「喰らいつけ、炎牙!」
炎が獣の牙を形作ってアーマービートルを左右から挟み込む。
灼熱に包まれた相手はもがいて弱点のお腹を曝け出した。
一気に近付いて斬り付ける。そしてすぐに離脱する。
魔力の炎は消えにくく、巻き込まれると危険だ。
「流石に弱点でも硬い。でも同じ要領であと一撃を加えれば倒せそう」
「えいっ!」
もう一度短剣を構えたところで、後ろから雷光弾が。
アーマービートルの傷付いた腹部から装甲まで貫通していた。
「……エル?」
「すごいです! とろんさん強いです! わーい!」
僕が振り返る頃には、エルは次の標的を狙っていた。
バンバンバンバンと、現れる敵をひたすら撃ち抜いていく。
いつも攻撃を受けるばかりで、ストレスが溜まっていたのかな?
笑顔で昆虫種の魔物を抹殺していく姿は、ちょっと恐怖すら覚える。
「エルエルが早くも魔導銃の魅力に憑りつかれましたね。まぁ幼子はこういうのが好きそうですし。夢中になって先に進んでいきましたよ。ロロアさんすぐに追いかけましょう」
「……ライブラさん、もしかしてそれを狙ってトロンをお勧めしたの?」
「何事も本人のやる気を引き出すのが一番ですから。頭で考えるより、身体を動かす。ですよ」
ライブラさんがいたずらっぽく返してきた。
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