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第26話 受け継がれるもの

「よくやってくれた! ロロア、お前って奴はもう最高だぜっ!」


 僕は大人たちに囲まれて全身を揉みくちゃにされていた。

 冒険者の熱烈な祝福だ。もうなすがままに受け入れていた。


(ひいっ、ライブラ様の小さくて可愛らしい身体が、暴走した民衆によって押し潰されてしまいます!)


 上着ポケットの中で暴れるライブラさんを守りつつ。

 ぐちゃぐちゃになった髪を整える。撫でられ過ぎて熱いや。


「ほら見て、キングオーガの魔石よ! フロアボスの魔石なんて生まれて初めて触ったわ!」


 アクアドラゴンと同じ輝きを放つ宝物だ。きっと価値も同じくらい。


「ふむ、ここにいる全員で山分けしたとしても、三ヵ月分の稼ぎにはなりそうだな」


 報酬の配分をどうするかで盛り上がっている。一番楽しい時間だ。

 僕はその様子を後ろから見つめながら、預かってもらっていた荷物を背負う。


「僕の取り分は必要ありませんので、どうかみなさんで分けてください」


 報酬を置いて行くのはもったいないけど。

 今は換金の為に地上へ戻る暇なんてないから。


 他人と協力して討伐したという、経験だけでお腹がいっぱい。


「ちょっ、ちょっと待ちなさない! 一番活躍したのはロロアくんじゃないのっ!?」


「そうだぞ! 冒険者が遠慮なんてするなよっ! ほら、君が七割というのでまとまったんだ」


「取り分が七割もなんて、とてもありがたい話なんですけど――」


 呼び止めてくれる人たちに、僕は急ぐ理由を伝える。

 危険を冒してまで上層に向かった友人を救いたいのだと。


「そうか、友人の為に君はフロアボスを……おい、お前たち――――構わないよな?」


 分厚い鎧を着込んだ男性が周囲を見渡して、そして笑みを浮かべた。


「ロロアくん、これを受け取って!」


 魔法士の女性から投げ渡されたのは――キングオーガの魔石だった。


「えっ……? どうして!?」


 落とさないように両腕で受け止めて、彼らに真意を問う。

 冒険者が手に入れたお宝を手放すだなんて、普通は考えられない。


「ふっ、キングオーガを倒すところまでは勇ましかったが、こういうところの鈍さは年相応だな? 俺たちは冒険者である前に、分別のある大人だぜ?」


「そういう事よ。一番の功労者を除外してまで報酬を貰おうだなんて、格好悪いじゃない」


「まぁな。稼ぐだけなら別にもっと安全で安定した仕事だってあるんだ。俺たちはな、冒険者として魔塔探索に名誉を求めているんだよ。未来ある子供の前で、みっともない姿なんて見せたくないだろう?」


 『そうだそうだ』と、周囲の人たちも納得したように頷いていた。


 クルトンたちのように悪事に手を染めて、財宝を得ようとする者もいれば。

 彼らのように目には見えない、形のないものを求める人たちだって存在する。


 冒険者もそれぞれ魔塔を登る目的が違う。僕は当然の事に気付いてなかった。


 名誉――僕は手のひらの重みを何度も確かめる。記憶に刻み付ける。


「まっ、もし次に地上で再会した時には、その際は手に入れた報酬で酒の一杯でも奢ってくれや!」


「ふふっ、逆にお姉さんの方からロロアくんを誘ってあげるわよ?」


 初めて触れる、同じ志を持った冒険者たちの言葉に、暖かい気持ちになる。


(……これもロロアさんの人徳がなせる業なのでしょうね。暴虐王からは……遠ざかっていますが)


 とても優しげな声色で、ライブラさんが冗談を交えて笑っていた。


「ありがとうございます! はい、是非、また地上でお会いしましょう!」


 ◇


「待ちたまえ、ロロア少年! おーい! 止まってくれー! ぜぇぜぇ……」


 冒険者たちと別れて、十六階層のゲート手前までやってきた。

 そうして次に進もうとしたところで、背中に掛けられる声に気付く。


 ケルファさんが全身に汗を流しながら、息も絶え絶えに腰を押さえていた。

 

「はぁはぁ……君は、足が凄まじく速いな……身体強化魔法何重にもかけて、やっと追い付けたぞ」


(ええ、ええ。気持ちはとても理解できますよ。私様も何度も吐きかけました)


「ごめんなさい! 走るのに夢中で気付きませんでした!」


「フロアボスとやりあったばかりだというのに。若さは強さだな……!」


 落ち着きを取り戻したケルファさんが、ゆっくりと言葉を紡ぎ出す。


「君はこれから最上層を目指すつもりなのだろう。そこで一つ、老婆心ながら警告を」


「警告ですか?」


「ああそうだ。君も冒険者ならば、能力喰らい(スキルイーター)の存在を聞いた事があるはずだ」


「もしかして、上層五十階で複数パーティが行方不明になったという話でしょうか?」


 ギルドでヘラさんから教えてもらった。

 最近の能力喰らい(スキルイーター)絡みの大きな事件はそれくらい。


「ふむ、既に知っていたか。ならば話は早い。我々も魔塔で長期間過ごしているが、つい先日下層の方で冒険者の死体が数体見つかった。どれも見事な太刀筋の斬撃痕が残されていたようだ。死体も綺麗に残されていた」


「斬撃痕……」


 普通魔物に殺された生物は凄惨な状態で発見される。原型を留めるのは稀で。

 逆に綺麗なままで見つかるという事は、人の仕業である証拠になるんだ。


「襲われたパーティの生存者数人の証言では、犯行に及んだのは二人組の男女のようだ。男の方は片目に眼帯を付け刀を使いこなし、女の方は杖を持った魔法士の恰好をしていたと」


「生存者がいらっしゃるんですか? ああ、でもそうか。目撃者がいなければ、ここまで早く噂も広がらないですよね。特にケルファさんたちはずっと魔塔にいらっしゃったようですし、僕と違って地上で情報を集めた訳でもない。情報源が魔塔内にも存在している」


 ギルドから休息所まで、支援物資を届ける人たちもいるけど。

 そういうのは雇われ冒険者の仕事だし。滞在期間も少なく。

 彼らから地上の情報をもたらされる機会はあまりない。


 でも、その場合ちょっと妙な話になるかも。

 能力喰らい(スキルイーター)の手口は、僕も被害者だったからわかるけど。

 ターゲットとなる者を一人決めて、仲間で囲い魔塔内に誘い込む事。 

 

 ターゲットもスキルを持つ冒険者なのだから、万が一抵抗されると無傷で済まない。

 

 だから常に狙う相手は一人まで。それが奴らの手口なんだ。

 つまり被害者と生存者の二つが同時に出てくるのは不自然で。


 初犯、素人の犯行の可能性は……いや、上層の熟練冒険者も被害を受けていることを考えると、敵は手慣れだ。

 

 自分たちの犯行を隠そうとせず、寧ろ生存者を残し広めている。

 かなりの腕利きで、そして正常な思考じゃない。恐ろしい相手だ。

 

「これはあくまで勝手な推測だが、私はこの犯行を【理の破壊者】の仕業だと考えている」


「【理の破壊者】……初めて聞きました」


「なら覚えておくがいい。いずれ各国の魔塔都市で耳にする機会があるはずだ。最近台頭してきた新興の犯罪組織であり、奴らの目的は文字通り世界の理の破壊。人に定められた可能性の限界を取り除き、神の領域へと神化することなのだ」


 僕たち人間は異界の神に授けられたスキルという可能性を秘めている。

 だけど、人によって器の限界があり、身に付けられる数にも限りがある。


「限界を取り払うだなんて、人間である事を辞めると言っているのと同じだ」


「ああそうだ。だからろくでもない連中なのだよ。人の限界を無理やりに超えて、神になろうとするだなんて。まともではない危険思想だ。だからこそ君の身が心配なのだ。ユニークスキルなんて、特に奴らが欲する可能性の塊だからな」


「ケルファさん、もしかして最初から僕のことを……?」


「私も地上では魔法道具の専門店を開いていてな。以前から君の噂を客の話から聞いていた。【擬人化】というユニークスキルの話も。愚か者たちが流していた嫉妬という悪評もな。心底くだらないと思っていたよ」


「……そうだったんですね」


「私は常々思うのだ。どうして神は唯一無二の才能(ユニークスキル)を生み出したのか。きっとそこには意味があると。君がこれから歩む道に答えがあるはずだ。……決して辛い事だけに目を向けるな。自分の納得できる結末を掴み取れ。可能性に負けてはならんぞ。まぁ、君自身はとっくに自覚し行動していると思うが」


 その言葉をレイリアさんにも伝えたいと思った。

 僕もユニークスキルのせいで辛い事が多くあったけど。

 だけど今は報われている。結局、自分が納得できるかどうか。


 一度芽生えた可能性は消えないのだから、向き合う事から逃げてはいけない。


「急ぎだというのに、呼び止めて悪かった。この先も気を付けて進んでくれ。これは餞別だ」


 最後に、ケルファさんから魔力回復薬(マナポーション)を受け取る。

 そして布に包まれた武器――――熱を宿した短剣も。


―――――――――――――――――――――――――――――

 黒炎龍の短剣☆3.5


・炎牙

・黒炎陣

・龍威圧

・???

・???

・???

―――――――――――――――――――――――――――――


「少年の持つ雷属性の盾と魔導銃だけでは苦労も多かろう。単属性は有利不利がハッキリするからな。特にこの先の植物系の魔物には雷よりも炎属性が有効だ。補助武器として持っていても損はない」


「☆3.5ってキングオーガの魔石以上に貴重品じゃないですか、こんなの貰えませんよ!」


「ロロア少年よ、私は今回の探索を最後に冒険者を引退するつもりだ。後衛の魔法士とはいえ老いには勝てなくてな。それに本業の店の方に専念したい。これまで惰性で続けていたが、最後に君のような子に出会えて嬉しく思うよ。どうか私の魂を、君にこそ受け継いで欲しい!」


「ケルファさん……」


 布越しに【黒炎龍の短剣】を握り締める。引退者が装備を譲る重み。

 本当に心を許した相手だけだ。それを今日出会った僕に託してくれる。


 それだけの期待を受けたんだ。僕は頷いて腰のベルトに短剣を差した。


「ふっ、俗な事を言えば、これは先行投資のようなものだ。君がいつの日か世界に名を知らしめるほどの、英雄――生きる伝説へと上り詰めた暁には。私の店の宣伝をしてくれると助かるよ。老後が豊かになる」


「その時は大々的に、全世界に宣伝しますよ! はい、必ず!」


 最後に固く握手を交わして、僕たちは別れを告げた。

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