第25話 キングオーガ
「少年、君から見て右方向から一体が近付いてきたぞ!」
二本の角を生やした、人型の魔物が山道を疾走する。
邪魔な枯れ木を肉体で押し倒し、太い腕で大岩を砕いた。
獲物を見つけ興奮状態から、血管が浮かび全身が赤く染まる。
オーガは殺戮を好む危険な魔物だ。
獰猛な肉食獣で、人も食料の一部として見ている。
痩せている僕なんて食べても美味しくはないけど。
空腹なのか、涎を落としながら汗を飛ばし湯気を放つ。
「上手くこちらに誘いこむのよ! お姉さんが応援しているわ!」
僕の後方、山の高所に陣取った冒険者たちが迎撃の準備を整えた。
動きの速いオーガに、闇雲に攻撃を放っても簡単に避けられる。
僕は囮として敵を有効射程内まで導く。そして同時に足止めも行う。
「こっちだよ!」
落ちている石を投げつけて、僕を常に視界に収めさせる。
「ヴオオオオオオオオオオ!」
激昂状態のオーガは僕の背中を追ってきた。
あくまで誘導なので、距離はあまり離せない。
拳が振り下ろされる。大地が割れて揺れが伝わる。
「おおっと」
身体が宙に投げ出された。瞬間、ふわりと柔らかい空気に包まれる。
事前に魔法士のお姉さんにかけてもらった浮遊魔法だ。衝撃を和らげてくれる。
「そこっ」
僕は低空から雷光弾を一発撃ち込む。
無理な姿勢からでも命中補正で押し通した。
腕に当たりオーガは上半身が仰け反った、更に二発追加。
「ヴヴヴ……ヴアアアアアアッ!!」
両足を傷付けて動きを止める。僕は合図を送った。
「今です!」
「一瞬冷や冷やしたが、やるじゃねぇか! 総攻撃だ!」
僕は退避する。高所から冒険者たちの一斉攻撃が降り注いだ。
硬質な皮膚を持つオーガも、一方的な物量に押し潰されていく。
嵐のあとに残されたのは亡骸一つ。
動かない事を確かめ、手を振って応える。
「無事に討伐できたみたいです!」
「よーし、この調子でキングの前に残りのオーガ二体も片付けてしまおう!」
「やるじゃない! もう、可愛くて強いって反則ね……」
「油断は禁物だぞ、ロロア少年。キングは別格だからな」
もたらされる賞賛に心を昂らせながらも。
冷静に身体の不調がないか確認する。うん、いける。
オーガは動きは早いけど、動作が大雑把だ。筋肉頼りというか。
身体が小さい僕に対して大振りに腕を振るうので、隙を突きやすい。
「次のオーガ用に魔力充填をしておいて……」
エルの中に入った魔力回復薬に口をつける。
(いつも思うのですが……瓶に直接口をつけるのは、エルエルとの口付けと同義ですよね?)
「ぶぅー!」
ライブラさんの呟きを聞いて吹き出してしまった。
あぁ貴重なケルファさんの魔力回復薬が、ごめんなさい。
(まぁそれが瓶本来の用途なので、特にエルエルは意識していないでしょうけど)
「僕が意識しちゃうんだよ! ライブラさんの意地悪!」
エルの僕に向けてくれる穢れのない笑顔とか、柔らかそうな唇とか。
頭を振って脳内イメージを追い払う。今度から顔が見れなくなっちゃうよ。
「ヴヴヴヴ……ヴヴヴオオオオ!」
そうこうしている間に、二体目のオーガが近付いてきていた。
(とまぁ、ほどよく緊張感をほぐしたところで、次の獲物を狩りましょうか!)
「……アイギスにあとで怒られても知らないからね?」
二体目のオーガも同じ要領で誘い込んで討伐する。
残るは通常のオーガとフロアボスのキングオーガのみ。
『グヴオラアアアアアアアアアアアアアアアアア』
今までとは別格の、王者の叫びが異世界内を轟かせた。
安全圏に待機している冒険者たちですら、身震いしている。
「キングと遭遇する前に、最後のオーガを倒しておきたかったけど……」
何事も上手くはいかない。仲間の死を嗅ぎ付けたんだ。
「来たぞ、キングだっ! 残りのオーガも従えてやがる! 二体相手に同じ手は通用しないぞ!」
「流石に同時討伐は無謀よ!? ロロアくん、早くこちらに逃げていらっしゃい……!」
「ここまでよくやってくれた。我々の事はもういい、君は自分の命を優先するんだぞ!」
たくさんの人の心配の声を掛けられる。こんな経験は初めてだ。
嬉しくて涙が出そう。だからこそ、足は頑なにその場を維持し続ける。
僕がここで逃げたら、逆にみんなが危ない。逃げちゃダメだ。
そのまま前方の巨体に向かって、【アイギスの神盾】を構えた。
「いかんっ! 避けるのだ!!」
「ヴヴヴオラアアアアアアアアアアア!」
キングオーガの豪腕が迫る。時間が遅く感じる。
盾から伝わる経験を、彼女の動きを思い出す。
そして僕は――――技を放った。
「とりゃあっ!!」
盾で傾斜を作り、腕の力を横に流して押し付ける。
その際、焦げ付くような臭いが伴った、帯電スキルだ。
バランスを崩したキングオーガの体毛に火がついていた。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオ!?」
「あれは、シールドバッシュか!? なんて無茶な真似を……!」
「雷属性の盾だなんて、どこまでも痺れさせてくれるわね!」
「チャンスだ、体勢を立て直させる前に、我々も援護に加わるのだ!!」
後方でキングオーガに対して攻撃が放たれている。
僕の前には最後のオーガが、盾越しにトロンを構える。
「ヴヴオオオオ!」
「邪魔はさせないよ!」
(ロロアさん、あのオーガは右腕の動きが鈍い。怪我を負っているのでしょう。狙うなら左側面からです!)
キングを守ろうと動くオーガを雷光弾で威嚇し。
左側から接近、右腕の振りを躱して懐に飛び込んだ。
銃口を腹にくっつけて、トリガーを押し込む。
超至近距離なら硬い皮膚だろうと衝撃は防げないはず。
一発、二発、同ヵ所に撃ち込み、致命的なダメージを与える。
身体の小さい僕だからできる戦法。お前の動きはもう覚えたよ。
「ヴヴ……ヴオ……」
「これで、おしまいっ!」
最後に盾で顔面を叩きつける。オーガは倒れて動かなくなった。
「うわあああああああああああ!?」
「な、なに!?」
高所の方で悲鳴があがった。冒険者たちのものだ。
振り返ると、キングオーガが指弾で小石を飛ばしていた。
ただの石ですら、人体を貫通する威力がそこにあった。
足を負傷して動けなくなった人もいる。もう彼らは逃げられない。
「キングオーガ、僕が相手だ!」
「グヴオオオオ……」
体毛を燃やした僕への、強い憎しみが眼光に宿っている。
これだけの強敵だ、長期戦にしてはいけない。一撃で倒す。
「ロロア少年、いけない。奴には生半可な技は通用しない!」
「わかっていますよ、ケルファさん。だから全力をぶつけるんです!」
残りの魔力回復薬を飲み干して、トロンに全魔力を込める。
「君はわかっていない! 奴は我々十二人の全力をも防いでみせたのだぞ!?」
(今さらそんな情報が何だというのです。私様の王はやると言ったら決めてくださる方です!)
「さぁ、僕が憎いだろう。やれるものなら僕を殺してみせろ!」
「グヴオラアアアアアアアアアアア!!」
キングオーガが憎しみを前面に出して、自ら得意とする接近戦を選んだ。
狙い通り、厄介な指弾を封じる事ができた。次にアイギス、頼むよ。
盾を構えてキングオーガの一撃を、今度は正面から受け止める。
衝撃が骨まで響いた。脳が震える。それでも盾を握り受け続ける。
「グヴオオオオオオオオオオオオ!!」
何度も何度も、拳を打ち付けてくる怪物の王。
目の前の障壁を叩き潰す事にしか、思考が回っていない。
アイギスは流石は国宝級だ。傷一つ付かず防いでくれる。
だけど、僕の握力が先に限界を迎える。盾を弾かれてしまった。
「くっ……!」
「グヴヴヴオオオオオオオオオオオオオオ!!」
尻持ちをついて倒れた僕を見下ろし、
キングオーガは勝利の雄叫びを上げていた。
(今ですよ、ロロアさんっ!)
「最後に油断したね――――トドメだよ」
僕は【改造型魔導銃トロン】の銃口を、上へと向ける。放つ。
一筋の光が、キングの口内から頭までを貫通して、飛び出していた。
「ヴヴオ……グオッ……」
キングオーガが、口から血泡を吹いて倒れた。
脳を直接雷で焼かれて、その命を失ったんだ。
「表面が硬い皮膚で覆われていても……身体の内部は生物共通の弱点なんだ。上手くいったね」
(流石はロロアさん。ちょっと心臓に悪かったですが、最後はきっちり決めてくださいましたね!)
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』
遅れる事、冒険者たちの歓喜の叫びが届いてきた。
みんな僕を称えて手を振ってくれている。僕も笑顔で返した。
「なんて少年だ……あのフロアボスを一人で打ち倒すだなんて。こんな偉業を他に聞いた事があるか?」
「はぁ……私すっかりあの子のファンになっちゃった」
「我々は、未来の英雄を目の当たりにしているのかもしれんな」
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