第16話 最後に立っていた者
「アレは【情報板】に記録される声帯データを組み合わせた、ライブラ様の百ある必殺技の一つです!」
「酷い、それのせいで僕は街の冒険者全員を敵に回したよ! 今後誰ともパーティを組めないよ!?」
格下に威張られて、名誉を傷つけられたと怒りに燃えている。
クルトンたちが悪い噂を広めるのと、結果は変わらないのでは?
「組む必要がおありなのですか? ロロアさんには私様たちがついているのですから。わざわざ弱っちくて、愚かで、馬鹿な人間と仲良くなる必要はございません。王には王に相応しい臣下を選ぶべきです」
「ライブラさんって、もしかして人間不信?」
「純粋無垢な子供が、触れただけで暗黒面に堕ちるほどのデータはたくさん蓄えていますので」
おお……とても深い闇を感じた。触れない方がいいかも。
「多少強引だったのは謝罪しますが。ああでも言わないと、アイちゃんが意地を張って過去の発言を撤回できませんから。よろしいですか、ロロアさん。神話級に到達するアイテムというのは……至極面倒な方が多いのです。人の世界でも天才は奇人揃いだと言うでしょう? どうか寛大な御心で受け止めてあげてください」
それってライブラさんも奇人に含まれるよね。
「えっとアイギスさ――――アイギス」
言い慣れない呼び方で、僕はアイギスを隣に誘う。
ライブラさんに、男らしく話した方が喜ぶと教えられたけど。
「なーにロロア、疲れたの? 私が背負ってあげようか?」
アイギスがとても甘えた声でくっついてくる。
こちらも全然慣れない。どういう心境の変化だろう。
僕たちは今、魔塔都市にある闘技場を訪れている。
普段は武術大会などの催しで利用される場所だ。
何故か今からギルドが貸切って個人の私闘に使われるけど。
フロアボスを討伐した功績は、それほどの影響力があるらしい。
「ロロア、自分の発言に責任を持てよ。俺たち全員を相手すると言ったんだ、手加減しないからな」
集まったのは総勢四十を超える男たちだ。
「うるさい蠅ですね。ロロアさん、王として目に物見せてやりましょう!」
切っ掛けを作ったライブラさんは瞳を輝かせる。
「一人相手でも勝てないのに、向こうはたくさんだよ! 殺されちゃうよ!?」
僕には逃げ足はあっても、肝心な敵を倒す腕がない。
というかこの人数差じゃ何をしても押し潰されちゃう。
「大丈夫です! あるじさまにはエルたちがついてます!」
エルはそう言ってくれるけど。隣に居てくれたら心強いけど。
偽僕が一人で倒すと豪語しちゃった以上、仲間は連れて――――
「ロロアさんお忘れでしょうか、私様たちは貴方を助けるアイテムですよ?」
ライブラさんは宙でクルリと一回転してウィンクをした。
「ロロアが私に相応しいマスターとなるのなら。私はそれに恥じない神話級の盾となってみせるわ」
アイギスは僕の前に立って、手を握って白い光に包まれる。
手元には立派な盾が残された。国宝級の価値があるアイギスの神盾だ。
「ん……マスターの敵、撃つ」
続けてトロンも魔導銃の姿に。両腕に戦う力が宿った。
「あるじさまが言っていました。「道具は僕の半身」だって。エルたちも同じ想いです!」
エルも相棒のエリクシルの空瓶の姿に。水龍の魔力水がまだたくさん残されている。
――ああ、そうだったんだ。
だからあの時アイギスは怒ったんだ。「私の身体に触れるな」と。
「私様の王は愛されていますね。これでは過剰戦力で勝負にならないかもしれません」
◇
「なっ、これは何の冗談だ……! どうして街一番の俺の剣がロロアに通じないんだ!?」
目の前の男が、繰り出す剣技を【アイギスの神盾】が受け止める。
お返しに魔導銃を放ち刀剣を粉々に砕く。衝撃で相手は地面を転がる。
「まずロロアが盾を使いこなすなんて聞いた事がないぞ! アイツ荷物持ちしかできないんじゃなかったのか!?」
斜めから飛んで来る斧を受け流して後退する。
距離を取ればこちらが一方的だ。トロンが光を放つ。
(説明しましょう! 高位の武具は使い手を選びます。それは言い換えると、選ばれ、愛された人間はまるで手足の如く武具を使いこなせるのです、以上っ!)
初めて握った盾は、僕の半身を固く覆って。
見た目とは裏腹に軽くて思い通りに動いてくれる。
(ロロアさん後ろです!)
「よっと」
背後から迫る槍を避けていく。得意の逃げ足は健在。
今はそれに加えて盾が隙間を埋めてくれる。相性は抜群だ。
「近接距離が駄目なら、コイツを喰らえ! アイスニードル!!」
「無駄だよ!」
【アイギスの神盾】には魔法障壁が備わっている。
単発の下位魔法なら触れただけで消滅する威力だ。
『目の前の僕は残像だ、後ろは取ったぞ!』
「なにっ!?」
敵の魔法士たちが偽僕の声を聞いて背中を見せる。
ライブラさんの声真似だ。好きな場所から出せるみたい。
「よし、今のうちに」
水龍の魔力水が入った【エリクシルの空瓶】に口をつけて、魔力を充填。
雷光弾を発射。地面を抉り魔法士八人を結界ごと吹き飛ばした。
「えーい!」
「ガハッ……!」
「グハッ!?」
足を止めていた人たちを【エリクシルの空瓶】で殴り付ける。
本人から鈍器としての使用許可は貰っているけど、頑丈だから痛そうだ。
「瓶で……殴り倒すだと……? コイツはロロアじゃない……怪物だ……暴虐の王だ……ぐふっ」
最後の一人もきっちりトドメを刺して。
エルに付着した汚れを綺麗に拭いてあげる。
「……あれ。勝っちゃった」
自分でも無我夢中で戦い続けた。
最後まで逃げずに戦うのは初めてで。
闘技場のあちこちで倒れた冒険者たちが呻いている。
最後まで立っていたのは僕一人だった。




