第118話 不可視の罠
更新が遅れてすみませんでした。
この時期に普通の風邪を引いてしまい、お医者さんに苦笑されてました。
「くっ、姿が見えないというのは、ここまで戦い辛いものなんですね……!」
「わぁあああああああああああああああ」
突風が吹き、強大な質量がコクエンの傍を通り過ぎる。
音を頼りに回避に成功したものの、逃げ遅れたエルが攫われた。
傍目からはエルが宙に浮かんでいるように見えるが、実際は獣に噛まれている。
「で、でも! 今がチャンスです! エルは負けません!」
本来なら肉体が爆散してもおかしくない威力。
それでもエルは雷霆の槍を握り締めて反撃に出た。
これまで散々魔物に吹き飛ばされた経験から、バランス感覚を得ていたのだ。
「えいっ、えいっ!」
槍の先端を透明な肉体に何度も叩きつける。稲妻が迸る。
不安定な姿勢からの攻撃は、敵の薄皮を削り取るだけだろう。
「そうです! エルさん、そのまま諦めずに攻撃を続けてください!」
エルの攻撃は通用しない。しかし、雷霆の槍の稲妻は派手な音を散らす。
その音を目印に、後方から援護射撃が。雷光弾が不可視の獣の肉体を貫く。
「グシュアアアアアアアアアアアアアアアア」
「よしっ、効いています! このまま押し切って――」
「にゃああああああああああ」
このままではマズイと判断したのだろう。
不可視の獣はエルを豪快に投げ捨て、逃走する。
「くっ、逃げられましたか……! 目標を見失いました」
「め、目が回りますぅ~」
どうやら通常の獣種よりも高い知性があるようだ。
粘つく液体が地面を覆っている。透明で見えない血痕。
「血液すらも不可視の力が働いているのですか……厄介です」
相手に痛手を与えれば、血を目印にできると考えていたが。
そう簡単に攻略できる相手ではないらしい。それに加えて――
「酷い……臭いです。何かが腐ったかのような……鼻がおかしくなりそうです」
「気持ち悪いですぅ~」
不可視の獣から零れ落ちた体液は、死臭を放っている。
これのせいで視覚と嗅覚が頼りにならない。音だけが味方だ。
「さて、この間にストブリさんを探しましょうか。きっと助けを求めているはずです!」
「はい!」
二人はそのまま探索を再開する。消息を絶ったストブリの無事を信じて。
見えない敵がいつ迫るのか。緊張感を保ったまま。耳を澄ませていく。
「グシュアアアアアアアアアアアアアアアア」
「今度は向こうからですか! 血は誤魔化せても、痛みは誤魔化せないようですね!」
「こくえんさん、同じ方法で迎え撃ちましよう!」
風に乗って、獣の声が迫ってくる。それは頭の中に反響していた。
目も鼻も役には立たない。近付く気配に、エルが槍を構えて迎え撃つ。
獣の敵意を前面に押し出した、鋭い圧力が迫る。
――――そして、闇の魔力がエルを覆った。
「えっ!?」
獣の体当たりを受け止めようとしたエルが、困惑した声を出す。
それもそのはず。最初の接敵では巨大な獣に噛みつかれた。
しかし、今回は違う。不可視の小さな身体にぶつかったのだ。
「グシャアアアアアアアアアアアアア」
小さな獣がエルを蹴りつける。闇と風の魔力が殺到した。
エルの不死身の器だからこそ防げているが。殺意に塗れた攻撃だ。
「こ、この魔力は――――ストブリさんです!?」
「んなっ、ですが、姿が見えません! それに声だって獣のもので……! どうして仲間がこちらを攻撃するのですか!?」
不可視の獣が入れ替わっている。謎の現象に二人は冷静さを失う。
そして、今度こそ巨大な質量が迫る。本物の不可視の獣がコクエンを襲う。
「ぐっ……!!」
勘を頼りに安全な場所へと転がる。すると、目の前の地面が膨れ上がった。
蔦だ。後方で支援してくれているユグの蔦が、コクエンを狙っているのだ。
「な、何故!? どうしてユグさんが私めを!? ――エルさん気を付けてください! 何かがおかしいです!!」
何とか蔦の拘束を逃れたコクエンは、唯一ハッキリと味方だと断言できるエルに警告を促す。
「……? こくえんさん何を言っているんですか?」
そんなコクエンに対して、エルはまたしても困惑した声を。
「何をって、今さっき、ユグさんが私めを狙って蔦を、エルさんだって見ていたはずです!」
「エルは何も見てないです。コクエンさんが突然一人で転がりだして、大丈夫です?」
エルが心配した表情のままコクエンに近付いてくる。
おかしい。そもそもエルは透明なストブリに襲われていたはずだ。
どうして平然としているんだろう。ストブリと不可視の獣は一体どこへ消えた。
「コクエンさん……大丈夫――――――――逃げてください!!」
「えっ――――」
コクエンの全身に衝撃が走った。遅れて、エルの悲鳴が脳を震わせた。
身体が宙を回っている。地面に叩きつけられて、あまりの痛みに呼吸もできない。
目の前の景色が変わっていた。今度こそ、エルがストブリに襲われている光景が見えた。
「くたばるです! 殺された冒険者様の仇です!!」
「よくもこくえんさんを、許さないです!!
ストブリは目の前のエルを、エルとして認識していなかった。それはエルも同じ。
お互いを不可視の獣だと思い込んでいる。コクエンも先ほどまで同じ症状を経験していた。
痛覚が狂った脳を覚醒させたのだ。そしてすべてを理解した。相手の能力を。
「そうか幻覚……臭いを吸い込んだ時点で……すべての感覚を掌握された……んだ。伝え……ないと」
恐ろしい能力だ。自分では自覚ができず、気付いた時点で手遅れになる。
気を失う前に右腕を必死に動かす。そうしてコクエンは限界を迎え、意識を手放した。
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