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第117話 死臭

「さぁ掛かってくるといいです! 私は、王女の剣は逃げないですよ!」


 囮役を買って出たストブリが、声を高らかにあげて歩き出す。

 通常の魔物ですら強敵揃いの二十階層で、フロアボスを探して。

 不可視の獣がどこに潜んでいるかはわからない。周囲を隈なく調べる。


 メイド服を汚しながら、跳ねたりしゃがんだり。目立つ動きを繰り返す。


「……とは言ったものの、一人は寂しいです」


「シューシュゴー」


「そうです、フォルスを入れて二人でしたね!」


 フォルスも警戒モードで巡回し、危険な囮役としての役目を果たしている。


『まだ敵の気配がないとはいえ、油断するな』


「は、はいです!」


 破壊された休憩場近辺に、ロロアたちが身を潜めている。

 ティアマトと魔力の波長を合わせ、風で言葉のやり取りを行う。


 もし襲撃を受けた場合、まずは敵の情報をティアマトへ伝える。

 その後、倒せるようであれば交戦。味方が駆け付けるまでの時間を稼ぐ。


 最悪、敵の能力によっては助けに入れないというのも織り込み済みだ。

 その場合は自力で安全な場所まで逃げる。何としても生き延びる。


『主人は貴様を失いたくないと言った。死んでも戻って来い。約束を違えることは許さんぞ』


「ティアマト様はお優しい御方です。声だけですと平気です」


「シュー」


 気絶するほど恐ろしく威圧ある表情を思い出さないようにして。

 ストブリはフォルスの背中に乗って、別の地点に移動を開始した。


「フォルス、高速機動モードです!」


「シュゴゴゴゴ」


 フォルスの足元から車輪が飛び出した。

 背中から水を噴き出し加速。風の力で制御する。


 空気を切り裂いて音を置き去りにする。


 この方法で【地下深淵の塔】を高速で駆け抜けてきた。

 運搬ゴーレムよりも更に小型で速度があり、小回りが利く。


 人間では耐えられない加速度も【擬人化】の肉体なら平気だ。


「……っ、フォルス、緊急停止です」


 途中、微かな獣の臭いが風に紛れ込んでいた。

 透明化していても誤魔化せない要素の一つ。臭い。


 まだ不可視の獣のモノと決まったわけではないが。

 普通の魔物であっても、退治しておいた方が安全だ。


『どうした、何か異常があったか』


「臭いです。獣の臭いが近いです! 不可視の獣かもしれないです!」


 逐一報告をしながら、ストブリは敵の気配を探る。

 数秒後、見つけた。巨大な質量が空気を動かしている。


 目には見えない。空気を流れを読みながら、ストブリは姿勢を屈める。


「……臭いが強くなりましたです……どんどん近付いてくるです!」


 死臭が入り混じった刺激臭。そして、突風が横切った。


「そこですっ!!」


 透明の肉体と、ストブリの蹴りが接触する。

 確かな肉の手応えが足に伝わる。いる。ここに獣が。


「接敵したです! 四足の獣です!! 間違いないです!」


『了解した。そのままデータ収集に努めろ』

 

 通り抜けた獣を深追いせずに、同じ地点で待ち構える。

 更に臭いが強まった。死の臭い。全身が徐々に強張っていく。


 大きな振動がストブリを中心に巻き起こった。地面が膨れ上がる。

 瞬間、ストブリは目を見開いた。不可視の獣がどこかで咆哮している。


「こ、これは――――ティアマト様、臭いです、臭いに気を付け――――」


 ストブリは敵の能力に気付いた。だが、気付いた時点で手遅れだった。



 ◇ 



 大きな振動が元休憩所にまで響き渡っていた。

 距離は離れていたはず。それでも衝撃が足元に伝わった。


「ティアマトさん、ストブリは!?」


「たった今通信が途絶えた。意識を失ったか、追われていて通信に回す魔力をも惜しいかだ」


 交戦を開始してからまだ数分も経っていない。あまりに早すぎる。

 ストブリは僕たちの中で上位に入る強さだ。まだ無事だと信じたい。


「早く助けに向かわないと!」


「ロロアさんお待ちください。ティアマト。何か彼女は伝えていませんでしたか?」


「臭いだ。どうやら臭いが関係しているらしい。死を封入した臭いだ」


 ティアマトさんはそれだけを伝えると黙ってしまう。


「漠然としていますね……データとして不十分です」


「参謀、このままストブリさんを見捨てるつもりではありませんよね!?」


「当然です。しかし、全員で向かえば同じ過ちを繰り返すだけです」 


「また部隊を分けるのです?」


「あら~、戦力の逐次投入は愚策ではないですか~?」


「高い機動力を持つストブリちゃんですら不意を突かれたのです。闇雲に人数を増やせばいいというわけではありません。臭いという情報を元に、次なるデータを集めます」


 そう言って、ライブラさんはコクエンとエルに視線を向ける。


「コクエンちゃん、頼めますか?」


「……はい」


 躊躇なく頷くコクエン。早く助けに行きたくて仕方がないんだ。


「エルエルはコクエンちゃんに同行して、サポートをお願いします」


「はいです!」


 二人はすぐさま、震源地へと向かっていく。


「ユグちゃんとトロちゃんは、先に向かった二人から距離を十分に取って追いかけてください。臭いが目印です。最悪、自分たちの安全を優先して戻ってきてくださって結構ですから」


「わかりました~」


「わかた」


 ユグとトロンは、非情とも取れる作戦にも反論せず頷く。

 ライブラさんが汚れ役を買って出ていると理解しているんだ。


 作戦が失敗して仮に犠牲が出ても、ライブラさんがすべて背負うつもりだ。


「ライブラさん……ごめんね」


 本来、僕がそうあるべきなんだと思う。でも、僕にはできない。

 大を取る為に小を斬り捨てるやり方は。どうしても抵抗が生まれる。


「よいのです。これが私様の仕事ですから。王の手を汚させるわけにはいきません」


「ふんっ、ようやくらしくなってきたではないか。そういう戦略も、必要となる時がいずれ来る」


 ティアマトさんも淡々と、勇敢な戦士としての言葉を残す。


「――だが、それは今ではないな。安心しろ、我が全員を無事に連れて帰ると約束しよう」


「ティアマト?」


 ライブラさんが反応する前には、ティアマトさんが姿を消していた。

次の更新は1/28です→体調不良により2/1に延期します。申し訳ありません

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