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第116話 不可視の獣

 心強い味方であるストブリとフォルスと合流して、僕たちはついに二十階層に辿り着く。

 連絡が途絶えたという休憩所には、ギルドの魔物避けの強力な結界が張られている。

 それは本来、フロアボスですら容易に突破できないはずのものだった。


「壊滅……している。結界が壊されている……!」


「うぐっ、腐敗臭が凄まじいですね。戦闘からもう数日は経過しているようで……!」


 目の前に広がる景色は想像を絶するものだった。

 圧倒的な力による暴力ですべてが薙ぎ倒されている。

 壮絶な死闘を繰り広げ、息耐えたのであろう残骸が散らばる。


 どれも原型がない。性別すら判断が難しい。あまりに酷い死に様だ。


「このまま放置しては可哀想です。勇敢な戦士の魂が安らげる静かな場所へと運びますです!」


「エルもお手伝いします!」


 周囲に敵の気配はなく、とにかく今は破片を可能な限り運び出す。

 どれも酷い噛み傷が残されていた。敵は獣型だろうか。足跡も付いている。

 遺体と遺品を一ヵ所に集めておく。最終的には救援部隊の本隊に任せるつもりだ。


「おかしい。この場で戦闘があったのは確かだが、あまりに手際が良すぎる」


 運び出す中で違和感に気付いたティアマトさんが遺品を指し示す。


「見ろ、防具の破損状態は酷いものだが、武器の方は原型を留めている。これが一人二人の話ならあり得なくもないが……。殆どの者がまともに抵抗した痕跡がないのだ」


 よくよく見ると、武器の方にそれらしき血痕が付いていない。

 防具も同じで。敵の返り血がないんだ。どれも持ち主の血痕だけで。


「襲われた方は、おおよそ十三人です。教官の仰る通り、一人も反撃できずに終わるというのは考えにくいです。彼らは当然の如く猛者でしょうし。武器は時に盾として扱う場合だってあります」


「つまり、可能性として考えられるのは、犠牲者の全員が不意打ちで倒されたということ?」


「獣型の魔物にそのような芸当が可能なのでしょうか~?」


 これが人型の、クイーンのような知恵を働かせる種族ならわかるけど。

 四足の獣型では、冒険者への不意が付けるような隠密行動は難しいはず。


「とくしゅのうりょく?」


「当然、その獣には隠密行動を補助する機能が備わっていますね。透明化、でしょうか。冒険者が相手を視認して戦闘をしていれば、情報板を通して本体の私様にデータが残されているはずですから」

 

 みんなの推理から、二十階層のフロアボスは不可視の獣だと発覚した。

 敵が見えないとわかると、何もないとわかっていても、緊張感に襲われる。

 

「重要なのは、不可視の獣にも【深淵化】の影響があるという事だね」


 二十五階層のフロアボス、模倣する者がそうであったように。

 ここから先の魔物はすべて、強化されている前提で考えるべきだ。


「また、たくさん?」


「目に見えない大軍……想像するだけでも恐ろしいです……!」


 これまでの【深淵化】したフロアボスはもれなく増殖能力を持っていた。

 そこに透明化が加われば苦戦必須なのは間違いない。見えないというのは厄介だ。


「どうやら増殖能力はないようだぞ。歯形がすべて一致している」 


「足跡も同じですねぇ……少なくとも休憩所を襲った敵は、一匹であると断定してよいかと」


「ほっ、一匹だけなら大丈夫そうです!」


 安心したように、ストブリは胸を撫でおろしていた。

 僕は逆に心配になる。増殖能力の代わりに別の何かを得たのではと。


 増えるのは厄介だけど、既存の能力であれば事前に対策ができる。

 知らないモノには後手後手に回りやすい。最初の接触時が、すべてだ。


「――部隊を分けるべきですね」


 僕と同じ考えだったみたいで、ライブラさんが冷静な判断を下す。


「らいぶらさん、どうしてですか? すとぶりさんも居るんです、みんなで戦う方がいいと思います!」


 純粋なエルは、力を合わせる方がいいと主張する。

 普通の相手ならそうだけど。特殊能力系は逆に危うい。


「部隊を分けるのは最悪の事態に備えてです。敵が新たに習得した力が不明である以上、全員が一ヵ所に固まるのは悪手。透明の相手は、ほぼ確実に先手で動けるのです。初手ですべてが決まります。最初に逃げ足の早い子で敵を寄せて、攻撃力のある子たちで刺す。それが最善でしょう」


「……ふんっ、ハッキリと言えばいいだろう。囮部隊を出すと」


「なっ、ティアマトはもう少し言い方をですね……!」


 ライブラさんが遠回しに伝えたかった内容を、ティアマトさんが言い切った。

 つまり敵の能力を解析する為の犠牲。僕たちの仲では伝え辛い作戦だった。

 

「囮でしたら、エルにお任せください!」


 不死身のエルがここぞとばかりに名乗りでる。


「エルエルにはもちろん頼りにしていますが……!」


 今回に限っては、ただ不死身なだけではダメなんだ。

 敵の能力を解析しないといけない。エルは――その辺り苦手だと思う。


「……私が、フォルスと共に出ますです!」


「ストブリ?」


 次に名乗り出たのはストブリだった。


「創造主様には多大な恩を受けているです。喜んで、この身を捧げますです。それに私は、救援部隊として派遣されました。本来、私が戦うべき相手なのです」


 覚悟を宿した瞳だった。ストブリなら、敵の能力を見抜く洞察力がある。

 風の力を駆使して、速さを生かした戦闘を得意とし。動体視力も優れている。


 同じく風の力を持つティアマトさんは、僕を守るのが最優先だから。


「……僕の為に、犠牲になったらダメだよ。危ないと感じたらすぐに逃げて」


 囮役を選ぶ段階で、何を甘い事を言っているんだという話だけど。

 この子もそうだけど、僕の為なら平然と命を捨てられる子ばかりなんだ。


 少しでも、無事でいられるよう言葉を掛けるようにしたい。後悔はしたくないから。


「わかりましたです。私も、王女の剣としてまだまだ果たさねばならない使命があるですから!」

次回更新は1/24です

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