第115話 不得意
「それじゃストブリは、今回の救援部隊の一員になっていたんだね」
「はいです。私とフォルスは先んじて要救助者を保護し、可能であれば原因の排除を任されましたです」
平穏を取り戻した二十五階層で。毒も治療してしばらく休息を取る事に。
改めて再会を果たしたストブリは、王国の重要な戦力として立場を高めていた。
他国の魔塔への救援部隊に組み込まれているんだ。半端な人材は送れないだろうし。
三十階層で足止めを受けていた冒険者の誰かが地上へ帰還し、助けを求めた。
それが今から三ヶ月ほど前の出来事らしい。つまり僕たちが魔塔に挑戦する前後の話で。
「リンドウ王国では武芸に精通した人物は少なく、自前の軍も小規模です。友好国であるガーベラ王国へ力を貸して欲しいと依頼を受けたです。ちょうどその頃、フォルスの最終試験の真っ最中だったので、こちらとしても都合が良かったのですです」
「なるほど。昇格試験で出会った時よりもゴツゴツしているね」
フォルスには装備がたくさん装着されている。どれも地上世界最新の武器だ。
魔導銃と同等の拡張性を持った人型兵器。更にフロアボスの能力まで宿している。
「人間の魔導技術力も馬鹿にはできませんね……」
興味深そうにライブラさんがフォルスの周囲を飛び回る。
「またゴーレムか……」
ティアマトさんは機械音痴を気にして、近付かず視線だけ向けていた。
「でもまさか、創造主様と再びお会いできるとは思ってなかったです!」
「僕もだよ。元気そうでよかった」
「レイリアが知ったらきっと羨ましがるです。毎日創造主様を想って祈りを捧げていますですから」
ストブリは一人ずつ僕たちの顔を確認していた。
そして初めて会う、ユグとティアマトさんに気付く。
「創造主様の新しいお仲間様です?」
「あらあら。相変わらず可愛らしい方ですね~」
ユグがストブリを抱き寄せて頭をなでなでしている。
抱きしめられたストブリは困惑していた。
「お姉さん……どこかでお会いしましたです?」
「ユグはね、レイリアから授かった創造の樹杖なんだ」
「わわっ、そうだったんですか!」
アイテムだった頃の期間も入れたら、二人は僕たちより付き合いが長いはず。
「はい。そうなんです~。ストブリお姉様、お会いしたかったです~」
「私がお姉様です!?」
【擬人化】が発動した順でいえばそうなるけど。
どう見てもユグの方がお姉さんの見た目をしている。
ギュッと後ろからストブリを捕まえ、ユグが甘えていた。
「そ、それで、そちらの赤髪のお姉さんは?」
ユグをくっつけたまま、ストブリはティアマトさんに注目する。
「地上世界で長らく失われていたとされた【七神宝】。ティアマトだ」
「ひえっ、【神槍ブリュンヒルデ】と同格の【滅龍双盾ティアマト】ですか!? ご無礼をお許しくださいです!!」
王女の剣であるストブリは当然、【七神宝】の価値を知っていて。
その場に慌ててひれ伏した。国王と同じ権威を持つアイテムなんだ。
人目がないから僕たちはティアマトさんと気軽に接しているけど。
地上世界なら極刑にされても文句は言えない。そんな立場の差がある。
「ティアマト風情に頭を下げる必要はありませんよ! 埃を被って、地上では殆ど権威を失われた存在ですので。というより、私様も【七神宝】ですのにこの対応の差はちょっと納得がいかないですよ!!」
「参謀はそもそもスペアですし……。妖精女王の姿でないと教官と比べてまず威厳が……」
「コクエンちゃんも言うようになりましたね!? ちょっと生意気ですよ!!」
「煩い羽虫め。……今の我は主人の盾でしかない。顔を上げろ」
「は、はいです……!」
緊張気味にストブリは顔を上げて、そして早足で僕の背中に隠れた。
「すとぶりさん、てぃあまとさんが怖いです?」
「怖いです……。畏れ多いです。ぶるぶるです」
胸を押さえて、息も絶え絶えに。顔を蒼くさせる。
ストブリもすっかり貴族社会の価値観に染まっていた。
「ストブリお姉様、お可哀想に……」
「可哀想です……」
「かわいそ、ひどい」
「我は何もしておらんぞ……?」
ジトーっと視線を向けられて。ティアマトさんが責められる。
「主人よ、何とかしてくれ」
「う、うーん。もう少し親しげに話してみるとか?」
「まずティアマトは顔が怖いのですよ。いつも不機嫌そうに見えて。それではお子様が泣いて当然です。一国の王が常に民を睨んでいると思いますか? 時には優しさも表に出しなさい」
「……親しげに……顔を変えて」
頬をピクピクと痙攣させて、ティアマトさんがニコリと笑みを作る。
怖い。とんでもなく怖い。頑張っているけど、口が引き攣り過ぎだよ。
「ひえっ」
「あひっ」
ストブリとコクエンが同時に悲鳴をあげて倒れてしまった。
白目で泡を吹いている。恐怖が限界を超えてしまったみたいだ。
龍威圧より効果があるような……。まぁ誰にだって不得意な事があるよね。
「……我は本当に怒ってもいないし、何もしておらんぞ……何故だ……!」
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