第113話 援軍と最凶の敵
「エル、どこに居るの!? 今すぐに返事をして! みんなが大変なんだ!」
二人と合流した僕は、すぐにエルの捜索に切り替えた。
模倣する者によって肉食魚が住む毒沼に沈められたらしいけど。
「エル様、見つかりませんね~。声も届かない沼の奥に沈められたのでしょうか~?」
「早くしないと、ライブラさんたちが限界だ」
偽物が複数で、運搬ゴーレムに向け雷光砲撃を繰り返している。
ミミックの許容量を超えるまで、もうそれほど時間は残されていない。
風の力でエルの行方を探っていたティアマトさんが、僕の方へと向き直した。
「主人よ、エルは我が責任を持って見つけ出す。主人はユグと共にライブラの元へと急ぐのだ!」
「一体どうしたんですか?」
「どうやら奴らは、我らを脅威と判断し人質を取るつもりだ。コクエンが限界だ!」
「ッ! 急がないと」
「ロロア様、わたくしの腕に掴まってくださいませ~! 飛びますよ~」
ユグが僕の身体を支えて巨大樹を創造する。
そうして一気に運搬ゴーレムを目指して蔦を伸ばした。
◇
「ぐうっ、ああああっ」
小さな悲鳴が上がった。コクエンが腕を庇い後ろへと下がる。
背中に闇の炎が襲い身体が焼けていた。風の刃に切り裂かれる。
「がはっ、偽物の自分だけでなく、偽教官まで……毒さえ……なければ」
血反吐を吐いてコクエンが呻く。次々と偽物たちが集う。
敵は一体だけでなく無数に、数百を超える数に増えている。
どうやらトドメを刺すつもりはないようだ。人質目的だろう。
「コクエンちゃん!」
コクエンは身体を蔦で覆われて身動きも取れない。完全に詰みだ。
偽物たちは運搬ゴーレムを占領して、もう次の狙いに切り替えている。
「参謀、トロンさんを連れて、逃げてください……私めは、もう……」
「何を諦めているのですか!! もう少しで救援が――」
「邪魔だ。煩い蠅め」
反論するライブラに向けて、偽物のコクエンが刃を振るう。
「……っ」
トロンが雷光弾で刃を弾いた。すぐに別の偽物が迫る。
毒で負傷したトロンはゴーレムから弾き出され地面に落ちた。
「トロちゃん! くっ、こうなっては、私様が本気を出すしか……!」
「駄目です、参謀はここで本気を出しては。まだ、まだ温存しておいてください!」
スペアの情報板は既に失っている。ここでライブラが本気を出せば。
それこそ次に彼女が復活するまでに、半年以上の歳月が掛かるだろう。
模倣する者以上の強敵が、まだこの先の階層に控えているかもしれない。
ロロアの許可も取らずに本気を出していいのか。
その一瞬の判断の遅さが、致命的な隙を生み出した。
「死ね!!」
「しまっ――」
目の前に迫る凶刀。それを止める手段を今のライブラは持っていない。
無防備の妖精の肉体が切り裂かれる。そんな未来が数秒後に訪れるだろう。
「させ――ません!!」
直前で火花が散った。小さな身体が宙を舞い、偽コクエンが飛ばされる。
突如として現れた人物は、目にも止まらない速さで模倣する者たちを切り裂く。
その動きに誰もが見覚えがあった。メイド服が翻り、少女が風の力を纏っている。
「まさか、貴女は――ストブリちゃん!?」
「お久しぶりですです! みなさん。お元気でしたでしょうか!」
「シューシュゴー」
変わらない元気な挨拶を飛ばして、ストブリが降り立った。
ストブリの隣では白い魔導ゴーレムが起動している。
星渡りの塔最強のフォルネウスの力を宿した機械人形だ。
「元気、ではありませんが。今は細かい話は抜きにして、この状況を打開しましょう!」
「はいです! 王女の剣がお相手致しますよ!」
突然の増援に対して、模倣する者たちの判断が鈍りだす。
相手の能力を模倣する存在であるが故に。ストブリの力に興味を示したのだ。
戦闘中であるにも関わらず、本能には逆らえない。
その僅かな隙を、敵の油断を見逃す王女の剣ではなく。
神速の動きで息の根を止めていく。またフォルスも動き出す。
「シュゴゴゴゴゴゴゴ」
水属性の三本レーザーで背後の密林ごと抉り飛ばした。
強化に強化を重ねて、フロアボスの力を完全に制御している。
「お前の力、いただいたぞ!!」
「真似っ子さんですね。でも、甘いです!!」
生き延びた模倣する者が、さっそくストブリの姿に変化していた。
互角の身体能力で闇属性の蹴りがぶつかり合う。そこにフォルスが乱入。
「フォルス、援護を頼みますです!」
「シュシュー」
「ぐごああっ」
フォルスの拳を受けて、偽ストブリが粉々に砕け散った。
ストブリの隙を埋めるように、息の合った動きでフォローする。
以前地上で見掛けた時よりも、数十倍も完成度が上がっている。
「あのお姫様は、とんでもない兵器を生み出したものですね……!」
当然、軍事利用も検討されているのだろう。
第二第三のフォルスもいずれ生まれるはずだ。
「ば、馬鹿な……模倣できないだと!?」
「レイリアの努力の結晶が、簡単に真似できるものではないです!」
模倣する者が模倣できるのはあくまで生物だけだ。
機械の身体までは模倣できず、二人の連携に圧されている。
「トドメ――です!!」
目の前の最後の一体を片付けて。ストブリは小さく息を吐いた。
圧倒的な強さだった。彼女自身もまた、以前よりも成長していたのだ。
「ストブリちゃん。本当によくぞ、助けに来てくださいました」
「いえいえ。急いで走ってきた甲斐がありましたです! えいっ」
「はぁはぁ……」
「酷い怪我です。早く治療しないとです」
コクエンを捕らえていた蔦を解いて。
ストブリは荷物から治療薬を取り出していく。
しばらくして、何者かの気配がこちらに近付いてくる。
「まだ生き残りが居ましたですか!」
ストブリは警戒を強める。奥から一人の人物が現れた。
少年だった。この場に居る全員がよく知る。最凶の能力を持つ。
「酷いじゃないか。みんな。僕に敵意を向けるんだね」
――偽物のロロア。
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