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第111話 慢心

「はっはっ、まずは二人を見つけて合流しないと。異変に気付いて二人も動いているはず」


 鬱蒼と生い茂る木々と足場の不安定な大地を駆け抜ける。

 後方では二発目の雷光砲撃が、夜空に眩い光が拡散される。


 ミミックによる魔力吸収で一瞬にして雷光は霧散していた。

 ひとまず偽トロンの砲撃は防げている。僕は額に流れる汗を拭う。


「あと何発分防げるんだろうか……急がないと時間は限られている」


 最優先は毒の治療ができるエルの捜索。けれど一人で探すには魔塔は広すぎる。

 ティアマトさんの風の力が必要だ。ユグの創造領域も。敵はフロアボスだけじゃない。


 ティアマトさんなら、真っ先に僕の元を目指しているはず。

 彼女が模倣する者(ドッペルゲンガー)と接触しないように僕の方で距離を取らないと。


「くそっ、邪魔だよ!!」


 【深淵化】したケイブゴブリンが襲い掛かってくる。

 通常種よりも全体的に強化された魔物の牙を盾で防ぐ。


「ギギギッ」


「よっと」


 振りかざしてきた剣を避け、その腕を踏み台に飛び越える。

 イメージするのはコクエンの動き。優秀な教師になら恵まれている。


 下半身の動きを意識して、最小限のステップを踏む。

 群れを潜り抜けて、純粋な足の速さでは僕は負けない。

 ケイブゴブリンをやり過ごすと、今度は地面が揺れ始める。


「それは読めているよっ!」


 割れた大地から、地中に住み着くアースイーターが。

 姿勢を下げて頭上を通り抜けた魔物を盾で叩きつける。

 

 グチャっとした感触が腕に残り、アースイーターは地上で痙攣していた。


「まったく、キリがないよ……」

 

 すぐに追いつてきたケイブゴブリンが弓を構える。

 その前に射線上から移動して、僕はひたすら走り続けた。


 【深淵化】しても、基本的に行動が変わらないのは理解している。

 特に武器を使う種は、結局は武器の性能に依存した動きしか取れない。


 弓を持てば弓兵の動きからは逸脱せず、予測しやすい。

 だから脅威度は、僕一人でも対処できる範囲に留まっている。

 後方で三度目の雷光砲撃。そろそろ敵も痺れを切らし接近戦に切り替えるはず。


 負傷したコクエン一人では長くは持たない。早く、早く。


「あれ。花の匂いが」


 ふと、甘い匂いが鼻腔をくすぐった。

 誘われるようにそちらに足が動き出す。

 

「……これはティアマトさん?」


 風の力といえば彼女の得意分野。ユグなら匂いを放つ植物を生み出せる。

 明らかに自分の居場所を誰かに知らせる行動だ。僕は唾を飲み、覚悟を決める。


「ティアマトさん!」


 しばらく進むと、真っ赤な髪の女性が佇んでいた。

 こちらに目をやり、ティアマトさんが片腕を上げた。


「主人よ、無事だったか。探していたぞ」


「お願いだ。エルを今すぐ探して――――」


 最後まで言葉を紡ぐ前に、全身からぞわっとした寒気が。ユグが居ない。

 ほぼ野生の勘でアイギスを前方に構える。直後不可視の刃が盾とぶつかる。


 間接的な衝撃に筋肉が悲鳴をあげる。それでもアイギスのおかげで助かった。


「お前は……偽物だな!」


「チッ、勘の鋭い人間め」


 偽ティアマトの表情が歪む。敵は神話級すらも模倣するらしい。

 またも夜空に雷光が走った。おかしい。模倣する者(ドッペルゲンガー)は目の前に居る。


「ま、まさか……フロアボスは一体だけじゃないのか……!」


 偽ティアマトの背後に、見覚えのある繭の殻がある。

 クイーンと同じだ。単独で繭を創り出し繁殖できるんだ。 


 本物の二人はもう一体の模倣する者(ドッペルゲンガー)に襲われていた。間に合わなかった。

 

「くっくっくっ。この身体は最高だ。溢れんばかりに力が漲ってくる!」


「最悪だっ!!」


 心強かったみんなの力が。最悪の敵となって襲い掛かってくる。

 今までで一番の絶望的な状況だ。勝ち目があるのか、わからない。


「ううん。まだだ。まだ何か手があるはずだ……」


「可能性など存在しない!!」


 偽ティアマトが不可視の刃を繰り出してくる。

 防御を固めて対処。移動しながら対策を考える。


「死ね死ね!! 人間ごときがこの我に敵うものか!!」


「うぐっ」


 アイギスの加護がある限り、命は繋がり続ける。

 まだ諦めるには早い。何か、弱点はないのか……。

 

「……ん? おかしい……ぞ」


 攻撃を受け続けていると、僕は違和感に気付いた。

 あまりに敵が遠距離攻撃ばかりで、時間を掛け過ぎている。

 少なくともティアマトさんの能力なら。人間相手に接近戦の方が有利。

 

 よく目を凝らすと、偽ティアマトの身体の一部が変色している。

 そうか。やはり神話級を完全に模倣するのは【深淵化】でも厳しいんだ。


 ポロポロと崩れる肉体を誤魔化しながら、偽物は風の魔法を放つ。

 自傷するとわかっていても、強者の姿を借りる方が最善だと思ったのか。


 それは人間を見下しているからこその慢心だ。通常の魔物には存在しない心の隙。


「……いける。これなら僕だって!」


「なにっ!?」


 放たれた刃を盾で受けずに紙一重で躱す。すると偽物は驚き硬直した。

 まさか僕が反転して攻めてくるとは思わなかったんだろう。中身も未熟だ。


「うわあああああああああああ!!」


 気合を入れて懐に飛び込み、アイギスのスキルリンクを発動。 

 僕自身の魔力を増幅させて、一時的に驚異的な身体能力を発現させる。


 持って二秒ほどの強化だ。それだけあれば十分。


「どれだけ力を真似たところで、中身がまるで追い付いていないんだよっ!」


「ば、馬鹿な!?」


 拳をぶつけて、片足を吹き飛ばした。

 間髪入れず顔面を殴り、そしてトドメを刺す。


 偽物は驚愕した表情のまま消滅した。

 力に固執して、防御を捨てたのが敗因だった。

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