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第11話 決別

「どうして貴方はあれだけ好き放題言われて、一つも言い返さなかったのよ!?」


 アイギスさんが僕に詰め寄ってくる。

 三人がいなくなってからも、怒りが収まらず、声も腕も震えていた。


「地上ではああいう人も多いんだ。冒険者はいつも競い合うから自分より下の人を見て安心する。弱者を虐めて、自分はまだ大丈夫なんだと言い聞かす。強そうに見えて、内面は弱い生き物なんだよ」


「だからって存在そのものを否定しなくてもいいじゃない! 誰だって失敗はあるでしょ!?」


「一度の失敗で誰かが死ぬかもしれないんだ。仕事ができなくて責められるのは正しいよ」


「正しいとか、正しくないとか私は知らない。けど悔しくないの? 見返してやりたいと思わないの!?」


「アイギスさん、僕は本当に気にしていないんだ。だから落ち着いて」


 違う、本心は悔しいと思っている、けど感情的になっても負けなんだ。

 時には我慢も必要で。耐えて耐えて耐えて、それでいつの日か…………。


 ――このままで僕は変われるのだろうか。これではいつもと同じなのでは?


「自分の使い手を馬鹿にされて悔しくない武具はいないわ。私は……盾なのよ? マスターを傷付けられるのを、黙って見ていられるようにできていないわ! 私は奴らを、絶対に許さないから……!」


 アイギスさんの声が弱まり、両頬が濡れていた。

 僕の為に泣いてくれている。全部の激情を僕の為に。


「僕をマスターと呼んでくれるんだね?」


「ち、ちがっ、まだ認めてない……貴方を無条件に慕っているエルが可哀想なだけよ」


 バッと勢いよく離れていくアイギスさん。


「エルは怒ってます。あの人たちに!」


「おや、エルエルまで。当然、私様も怒りで燃えていますけど」


 エルとライブラさんも、冷静だけど激しく感情を出して。


「ありがとう。何度でも言うよ、僕は強くなるから」


「思うだけじゃ駄目なのよ。変わりなさい。そうじゃないと、私は素直に……」


 変な噂を流されないようにと、監視の意味も含めて同行を提案したけど。

 それも今考えると消極的だった。そうだ、僕はまだアイツらに怒っていない。


 自分を隠す事が強さだと思っていた。でもそれは弱さを誤魔化しているだけだった。


「うん。僕、もう一度あの人たちの所に行ってくる。それでしっかりと言いたい事を伝えて決別してくるよ! 僕は頑張って、アイギスさんにも認められる人物になってみせるから!」


 そうと決まれば急いでアイツらを追いかけないと。

 拳を握り締める。一発くらい殴っても――許されるよね。


「エル、すぐ戻るから荷物を見ておいてね!」


「あるじさま、エルもついていきます!」


「これくらい僕一人で十分だよ! すぐに戻るから!」


「え、ちょっと待ちなさいロロア、思い切りが良すぎよ!? 待ちなさいって!」


「あーあ。ロロアさんは変なところで律儀ですから。これはアイちゃんの責任ですよ」


「私たちもすぐ追いかけるのよ! って、あの子足早っ。もうあんなに小さく――――」


 僕は全力疾走でクルトンたちの元を目指した。ここから真の意味で変わるんだ!


 ◇


 クルトンは二十九階へと続くゲートの前で立っていた。

 他の二人の姿がない。まさか魔物にやられたとは思わないけど。

 

「あ? なんだ、嘘吐きロロアか。一人で何の用だ?」


「えっと、忘れ物があって。物というより言葉だけど」 


 いざ目の前まで来ると、緊張で胸が苦しくなる。

 魔塔で二ヵ月以上も一方的に虐められていたんだ。


 身体が拒絶するのもわかる。でも、心は負けていない。


「お別れだよ。僕はお前たちを――――」


 ここだ、決めてやると。意を決してお腹に力を入れた瞬間だった。


「馬鹿め、一人でノコノコ現れやがって!」


「わあっ」


 何だか嫌な予感がしたので屈む。


「このガキ避けやがった! 背中に目でもついてるんじゃないか!?」


「いきなり何をするんですか! 当たったら死んじゃうじゃないですか!」


 頭の上をシーザーの剣が通り過ぎ、髪の毛一本を失った。


「当てるつもりで狙ったんだよ! くそっ、ふざけたガキだ……」


 僕は転がって距離を取る。あと一歩、二歩おまけで。

 すると、一瞬だけ足をつけた地面が何度も爆発していた。


「設置罠も避けられた……? 足を奪ってやるつもりが、面白くないガキだね……!」


 奥から隠れていたロースも出てくる。


「ちっ、揃いも揃って失敗しやがって。どう見ても絶好のチャンスだっただろ!?」


 クルトンが二人を怒鳴りつけている。

 僕を殺そうとしたんだ。どういう理由で? 


「まさか、お前たちは能力喰らい(スキルイーター)……!?」


 他人のスキルを無理やり奪い取る武装盗賊集団。

 でも、どうして今まで行動に移さなかったんだろう。


 寝ている時とか、チャンスならいくらでもあったはずなのに。


「あ……もしかして、ユニークスキルが奪えないと知らなかった感じですか?」


 所有者が希少で情報自体が規制されているから、案外知らない人が多い。

 それで二十五階まで粘っていたんだ。我慢強いというか、マヌケというか……。


「うるせぇ! 奪えないなら別の宝を奪うまで。お前が【擬人化】を使ったのはわかっているぞ!」


「コイツらエルたちが狙いなのか……! 逃げなきゃ……!」


 能力喰らい(スキルイーター)は、魔塔に挑む冒険者にとって天敵ともされる最悪な犯罪者だ。

 

 盗られたあとに殺される場合もあるし、スキルを失って魔塔に放置も処刑と同じだ。


「――でも、その前に」


 僕はすぐに逃げるフリをして、一気に前へ詰める。

 クルトンもまさか接近してくるとは思ってなかったのか。


「は?」


 至近距離で呆然と僕を見下ろしていた……いただき。


「ぐあっ!?」


「この嘘吐きの卑怯者め、お前にはその潰れた顔がお似合いだ!」


 僕はそのマヌケな男の顎に、頭突きをお見舞いしてやった。

 当たり所が良かったのか、鼻血を出して、醜い顔が更に醜く。


「くっ、殺すッ、コイツだけは、決して逃がすなよ!?」 


「ロース、魔法を使え! 足を止めたら俺が叩き斬ってやる!」


「発現せよ――ファイアーボール!!」


 後ろから炎の玉が飛んで来る。横に、斜めに飛び跳ねて避ける。

 前回と違い重たい荷物を持っていないから、全力で身体を動かせる。


「アイツ、やっぱり背中に目でもついてるだろ! すばしっこすぎる!」


「シーザー、ロース、油断はするな。ロロアは戦闘に参加しなかったとはいえ、探索中怪我らしい怪我を負わなかった。逃げ足と直感だけは無駄に優れたガキだぞ!」


「過大評価をありがとう。初めてクルトンに褒められた気がするよ」


 僕みたいな弱小が魔塔で生き残るには、とにかく足と勘を働かせる必要がある。

 ただ生き残る事だけに特化して、それを部外者は卑怯者だの、臆病者だの笑うけど。


 笑いたければ笑うがいい、最後まで立っていた者が勝者なんだ。


「よっと!」


 足を急停止させて振り返る。直線状にロースとシーザーが。


「僕だって、偶には反撃してみせたり?」


 お借りしてきた【改造型魔導銃トロン】を取り出し、二人に対して銃口を向ける。


「それは魔導銃か、はっ、お前の魔力程度じゃ蟲さえ殺せないよ」


「驚かせやがって、所詮ガキはガキだな。飛び道具を持って強くなったと勘違いしたか?」


 そうそう、忘れずエルから貰った水龍の魔力水を飲んでっと。

 徐々に増幅していく魔法陣の数に、二人の当初の余裕が失われる。


「な、何よこの魔法陣の数は!? 本職の魔法士でもこの規模の魔法弾は創造できないわよ!?」


「一体どんな魔法を使いやがった! まさか、その銃も神話級なのか!?」


「答えは――自分の身体で受けてからのお楽しみだよ」

 

 僕は迷いなくトリガーを引く。ロースの耳元を雷光が通り過ぎた。

 今回の標的は小さいから当てるのが難しい。次弾装填は間に合わないか。


「うそ……でしょ?」


「な、なな……なんだこりゃあああ!?」


 雷光弾を放った後には、地表に大きな窪みが長く続いている。

 腰を抜かして放心している二人を置いて、僕はまた駆け出した。

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