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第109話 正体不明の狩人

 夜中になっても暑さは変わらず、寧ろより蒸し暑さが酷くなっていた。

 湯気のように蜃気楼が景色を歪めて、止まらない汗に喉の渇きも頻繁に。


 ユグの作成した氷で覆った家で僕たちは何とか凌いでいるけれど。

 対策を講じても尚過酷な環境だった。僕もギリギリ気合で耐えている。


「早く先に進みたいけど。二十五階層と二十階層のフロアボスは不明か……。ライブラさんも知らないみたいだし。【深淵化】の影響力を考えると避けて通りたくはないなぁ」


 ライブラさんの蓄える情報はどれも【情報板】を通して冒険者から集めたもの。

 つまり冒険者と一度も交戦していないフロアボスとなる。非常に稀有な存在だ。


 考えられる要素として、臆病な種。もしくは恐ろしく強力な種だ。

 瞬殺。相手を視認できない場合では【情報板】は作用しないからだ。


 念には念を入れて、ティアマトさんとユグが辺りを巡回してくれている。

 夜なのでトロンの目は使えず。コクエンは万が一に備えて僕の護衛に。


 ライブラさん、トロン、エルは氷の家で休憩中。

 僕も本来は休憩時間だけど。眠れる感じではない。


「ご主人様、お水をどうぞ」


 コクエンが革袋に入った水を渡してくれる。


「ありがとう。貴重だから大切に飲まないとね」


 砂漠地帯が続いて、少なくなった水を分け合う。

 魔塔内では人が飲める水源はそれほど多くないので。


 この熱帯雨林でも、川は見つかっているけど有毒性の成分があった。

 エルが毒を抜く能力を持つものの、一度に大量の水は処理しきれない。


 僕たちは人数も多いので消費量の方が上回っている。暑さのせいもあるけど。


「うっ、ぬるいね」


「この暑さですから……」


 命の水もあまり美味しくはない。それでも飲まないと渇きで死んでしまう。


「でしたら主様(・・)、氷はいかがですか!」


「あれ? まだ見張りの交代時間じゃないよ」


 エルがまたニヴルヘイムの氷を持ってきてくれる。

 ひんやりとした空気が流れて、それだけで少し楽になる。


「エルさん、ありがとうございます」


 コクエンは受け取ると、フードの中に入れていた。


「主様もどうぞ!」


「お昼でも言ったけど。遠慮しておくよ」


「でも、我慢はよくないです!」


 エルが前のめりで氷を勧めてくれる。今夜はやけに積極的だ。

 暑さで頭もやられているのか。僕を呼ぶ声色も若干違うように聞こえて。


 どうしようかちょっと悩む。本音では欲しいけど。だけど、身体は拒絶して。


「エルエル。ロロア様がいらないと仰っておられるのですから。私様がいただきますよ」


「たべる」


 氷の家から顔を覗かせたライブラさんとトロンが。

 お昼の時のようにエルから大量の氷を貰い、身体や口に入れていた。

 

「…………?」


 みんなの様子を、エルはにっこりと見つめていた。

 僕は感じた違和感に導かれるように、氷に視線を向ける。


 夜の闇に紛れ禍々しい色が残されている――――毒が抜けていない!?


「だ、ダメだ! それを口に入れては!!」


 僕はすぐさま警告を出すも、既に手遅れだった。

 三人とも身体はおろか体内にまで毒を含んでしまった。


「あいたたたたたたた、お肌が焼けるように痛いです!! いたたたたた」


「うっ……ご主人様……申し訳……せん」


「ますた、おなかいたい。いたい……」


 すぐに症状に現れ三人が苦しみもがき始める。


「くくく、あははははははははは」


 その様子をエルが邪悪な笑い声で打ち消していく。

 

「お前は……エルじゃないな!? 正体を表せ!」


 僕はただ一人、偽物のエルと対峙する。一体何者なのか。 


「正体? エルはエルですよ――――ご主人様」


 偽エルは身体を変形させて、今度はコクエンの姿に。

 同じ格好でフードを被り。炎を宿した手刀を向けてくる。


「なっ、姿を模倣する能力!?」


「ご主人様、死んでください」


 偽コクエンが、闇の炎を両手に纏い接近してくる。

 僕は転がり回避――できない。能力もコクエンと同じだ。


 僕とコクエンが、正面から戦っても勝負にならない。


「弱い弱いご主人様ですね、潔く死ね」

 

「くっ」


 少しでもダメージを防ごうと両腕を構える。

 片腕を失う覚悟で守りの姿勢に。手刀が迫る。


「させません……!」


「ちっ、しぶとい」


 僕の間に本物のコクエンが滑り込み、偽物を押し返す。

 炎と炎がぶつかり合って、周囲の氷が溶け始めていた。


「ご主人様、ご無事ですか!?」


「だ、大丈夫。ありがとう」


 この隙にアイギスの神盾を手元に持ってくる。これで僕も自衛できるぞ。


「私めの姿を借りて、ご主人様を害しようなど、許せない……! 決して許すものかっ!!」


「死にぞこないが!」


 毒を怒りで誤魔化しながら。コクエンが吠える。

 再びの数秒間の攻防も互いに互角。決着は付かない。


「……まさか、毒を受けても死なないとは。今回は随分と頑丈な人間だ」


 偽物も驚いた表情で、戸惑いを見せていた。

 コクエンたちが普通の人間ではない、【擬人化】だと知らないんだ。


 そして――今の台詞で相手の正体もある程度掴めた。


「コイツは今、僕たちの事を人間と呼んだ。つまりは魔物」

 

 人に化ける魔物を僕は知らない。これほど厄介な能力を持つのに。

 ライブラさんも知っていたなら、事前に警告してくれているはずなのだ。


 ライブラさんの知識にはなく。そして強力な模倣の力を持つ魔物。


「そうか。二十五階層フロアボスの正体は――自分の姿を持たない模倣する者(ドッペルゲンガー)なんだ!」

次の更新は1/1です

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