第108話 強敵は暑さ
数多の軍団を壊滅させてついに僕たちは当初の目標であった二十五階層へ。
「あれ……急に砂漠じゃなくなったね」
眼前に広がるのは鬱蒼と生い茂る熱帯雨林。深層で緑地が残るのは珍しい。
魔塔は階層毎に独立した世界なので、偶に法則を無視した環境があったりする。
「どちらも暑くて嫌になりますねぇ……私様の麗しい身体からも玉の汗が止まりませんよ」
じめっとした空気から逃げるように、ライブラさんは布を被る。
何もしていなくても体力が奪われていく。服も脱いでしまいたい。
けど、こういう環境は魔物以上に病気が怖い。肌は露出させない方がいい。
「主人よ。顔が赤いが大丈夫か?」
「あまり……ちょっと辛いかも。じめじめした暑さって苦手だ」
「盾である我には、日陰を生み出すしかできないが」
「ありがとう」
ティアマトさんの大きな影に入れてもらい、汗を拭いていく。
それでも我慢しようにも限度がある。頭が熱さでおかしくなりそう。
以前も雨で熱を出した経験があるけど。僕にとって環境が一番の強敵だ。
「あるじさま~この子を使えばひんやりしますよ!」
エルが魔導銃ニヴルヘイムから氷弾を撃ち出して、その残骸を持ってくる。
氷弾にはおぞましい色をした液体が眠っている。氷と毒の属性を持つ銃だから。
そんな危険な氷をぷにぷにほっぺにくっつけて、気持ちよさそうに目を閉じている。
「あらあら。眺めているだけでも涼めますね~」
「人間の僕が真似したら、肌が溶けちゃうよ」
「私めも触れる度胸はありません……でもいいなぁ……」
元がアイテムである【擬人化】の子たちには毒の効果は薄そう。
それでもわざわざ危険物に触る理由がないので遠巻きに見ている。
「だったら、こうすればいいんです!」
エルは氷の毒を器へと吸い取ってしまう。液体を蓄えるのが空瓶の力だ。
次々と毒を取り除いて、氷の山を築いていく。もしかして今のエルは毒属性?
「はい、どうぞ!」
「ひえひえ」
無害になった氷をさっそくトロンが口に含んでいる。
僕も受け取ると、冷気で身体の熱が奪われるのを感じた。
「魔導銃の弾なだけあって普通の氷と違って溶けにくいね」
みんなで氷を分け合って、肌につけたり服の中に入れたりして涼む。
これでもだいぶマシになったけど。もっと効率のいい方法はないかな。
ユグに相談してみると。にっこりと、お任せくださいと返事をしてくれた。
「わたくしがより快適に過ごせる家具を創造いたしましょう~」
「エルもお手伝いします! あいぎすさんにも協力してもらいます!」
エルは次々と材料になる氷塊の山を生み出して
ユグが創造領域を広げて鋭利な木で氷を削っていく。
スキルリンクを利用してユグとニヴルヘイムの魔力を上げたんだ。
瞬く間に運搬ゴーレムの上に氷の世界が誕生していた。
他にも僕と瓜二つの彫刻だったり、机や椅子も。氷だらけ。
「おお、視覚的にも涼しげな空間に!」
「ふむ。これは水を入れる氷のカップか、よくできている」
ティアマトさんが握った瞬間、バキっと音が鳴り破裂してしまった。
力を入れ過ぎたのかな? 静かにやってしまったと。彼女は諦めの表情に。
「脳筋馬鹿は何をしているのですか! 力が制御できない子供じゃあるまいし!」
「我は何もしておらんぞ……! コレが勝手に壊れたのだ」
「壊した者はみなそう言うのです! 理由もなく壊れるはずがないでしょ!?」
やいやい言い争う二人を前に、コクエンは僕の彫像の足に頬擦りしていた。
「ふあっ、ご主人様は氷のお姿でも凛々しいです……ご主人様、心からお慕いしております」
「うまうま――うっ、あたま、いたい。いたい……」
氷を食べていたトロンがおでこを押さえる。
みんな暑さでストレスが溜まっていたのかな。
一旦冷静になって、僕はこのままじゃいけないと自覚する。
「今日は無理せずここで一泊して身体を慣らそう」
【深淵化】した魔物の数を見ている限りでは。
二十五階層のフロアボスも間違いなく【深淵化】している。
強敵との戦いを前に、暑さに負けているようではどうしようもない。
「あるじさま、お疲れでしたら氷のベッドがありますよ!」
「ううん。僕はこのまま我慢して寝るよ。一日くらい平気だから」
戦闘中も常に氷を持ち運ぶ余裕なんてないだろうし。暑さには慣れないと。
「ロロア様~氷枕はいかがでしょう~。わたくしのお膝も冷えてますよ~」
「我慢……!」
ひたすらに僕を甘やかそうとエルとユグが誘惑してくる。
密着されると、氷で冷たいのか体温で暑いのかわからない。
「快適ですねぇ~」
目の前でライブラさんが氷に抱き着いている。
羨ましいけど、ここで楽を覚えたらきっと後悔する。
だから僕は無心となって。暑苦しい熱気をやり過ごしていた。
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