表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

107/118

第107話 努力

 サンドホエールを討伐してから続く二十八階層。

 ここでも砂漠の各地に移動要塞が隠れ潜んでいた。


 次々と湧き出る魔物を蹴散らしながら。

 同じ要領で砂中から釣り上げ討伐していく。


「はぁはぁ……これで、四匹目でしょうか……もう腕が上がりません」


 地上戦はほぼコクエンに頼っているので、疲労で倒れそうになっている。

 トロンとユグは邪魔な取り巻きを殲滅するのに集中していて援護もなしだ。


「ここで力尽きるにはまだ早いぞ。休憩を取っている合間にも雑兵が溢れている。次で最後だ」


 ティアマトさんは有無を言わさず砂中に衝撃波を送り込む。

 五匹目のサンドホエールが空へと浮かんだ。トロンが撃ち落とす。


「ひぃひいいいい……教官は鬼です!」


「こくえんさんあと少しです、頑張りましょう!」


「エルエルは小さいのに元気ですねぇ」


 汗だくで座り込むコクエンの隣で、エルが槍をブンブン振り回す。

 不死身だけでなく無尽蔵の体力もエルの強みだ。汗すらかいていない。


「はい。水だよ。あとこの布で汗を拭いて」


「ご主人様、ありがとうございます……」


「辛かったらエルに任せてもいいからね」


 エルは不器用だけど、不死身なだけに恐れを知らず戦える。

 ひたすらに試行回数を重ねられるので経験値をたくさん得ていた。


 時間は掛かるけど、エル一人でも倒せない相手じゃない。

 何でもすぐに吸収していくエルは、いずれ槍使いになるかも。


「エルさんに……?」


 ゴクリと一度で全部飲み干してコクエンは立ち上がる。

 そして、紅の瞳でエルを見下ろした。唇を強く真横に結ぶ。


「……まだやれます。エルさんに任せられません!」


「ほう。では行ってくるがいい」


「教官も見ていてください! 私めの底力を!」


 足に力を入れると、コクエンは一人で駆け出していった。

 

 もしかしてエルに対抗心を燃やしている? 

 居場所を奪われると思ってしまったんだろうか。


「あー待ってくださ~い!」


 エルも慌ててその背中を追いかけていた。

 追い付く頃にはコクエンはトドメを刺している。


「嫉妬の力は凄いですねぇ。コクエンちゃんの成長がとどまる事を知りません」


「頑張り過ぎじゃないかな……?」


 コクエンは素直過ぎる子だからちょっと心配だ。

 期待に応えようとして無理をしているんじゃないかと。


 今も立ったまま気絶しそうになってる。意識が朦朧としていて。

 一人でそこまで頑張らなくても。助け合う方法じゃダメなのかと思う。


「もしもの時は、コクエンちゃんが辛そうにしていたら。ロロアさんが一言、そのままでいいのだと声を掛けてあげてください。きっと彼女には一番効果的でしょうし」


「そこで成長が止まる可能性も高いが。最後の選択は主人に任せよう」


「責任重大だ……」


 戦闘面で優れた子が増えてきて、仲間の関係も常に変化する。

 僕の今後の役割は、そういう精神的な方面でのケアになりそうだ。


 ◇

 

 二十八階層の大半の【深淵化】した魔物を討伐して。

 今度こそ休憩に入る。気絶していたコクエンが目を覚ました。


「あ、あれ……ここは……?」


「目が覚めた?」


 僕の膝を枕にコクエンが頭を揺らす。髪がくすぐったい。

 他のみんなも離れた場所で休憩を取っている。二人だけだ。


「ひゃいっ、ご主人様、今の私めに触れては汚れて……!」


 砂と汗を気にしてコクエンが逃げようとする。

 けど疲労で弱々しい。押さえて僕はおでこを撫でる。


「冒険者は汚れるのが仕事なんだから。気にしないよ」


「うぅ……あまり見ないでくださぃ」


 恥ずかしそうに頬を染めて腕で顔を隠してしまう。

 そんな様子が可愛くて、つい笑ってしまった


「いつもありがとう。今日もいっぱい頑張ってくれた」


「……私めはまだまだです。才能ある方ばかりに囲まれて。油断していてはすぐ追い抜かされてしまいます。努力しないと……ご主人様の懐刀の座もエルさんに……」


「そんなことは……」


 ないと言いたいけど。ここで否定しても意味がない。 

 本人が納得するだけの何かを得られないと。言葉は気休めだ。


「――ちゃんと見ているからね。エルだけじゃない。みんなの事も」


「ご主人様……?」


 顔を胸まで引き寄せて包み込む。僕にできる事は少ないけど。

 無言のままでずっと背中を撫でる。気持ちが伝わるように。

 

「……絶対に譲りません。負けたくないんです」


「うん」


「常にご主人様に頼られる武器でありたい……教官にだっていずれは……!」


 彼女の本音を傍で聞き続ける。僕は時々相槌を打って。

 最後には満足したのか。僕の手のひらを握って寝息を立てていた。


「ライブラさんも酷いなぁ……」


 こんなにも一生懸命な子に、そのままでいいよなんて死んでも言えない。

 僕も酷い人間だった。壊れる覚悟で努力を続ける彼女に嬉しいと感じてしまう。


「僕だって、ずっと隣に居て欲しいと思ってるからね」


「…………っ」


 一瞬、手のひらに力が籠った気がした。

 僕は気にせず休憩が終わるまで頭を撫で続けていた。

次の更新は12/26です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ