第104話 闇の大軍
「ふむ……これは想定以上に危険な状況やもしれません。二十階層の人間は絶望的ですね」
現在【地下深淵の塔】二十九階層。
目の前で広がる惨状にライブラさんが息を呑む。
乾いた大地には中身のない繭が無数に転がっていた。
本来魔物も少ないはずの砂漠地帯には闇を纏う生物で溢れている。
「一体どれだけの数の魔物が【深淵化】したんだろう……!」
見える範囲で空の繭は数百を超える。この先、その数倍は隠れているはず。
ある程度ここで減らしておかないと三十階層の人たちが危ない。
今のところは【深淵化】した魔物はそれぞれの種族で固まっている。
各個撃破していけば。ちょっと強化された魔物程度の存在だ。
でも女王のような統率者が現れたら。一転して危機的状況になる。
「けしとばす」
トロンの雷光砲撃によって前方の群れを蹴散らす。
光に誘われ地面が動き出した。三匹のアースイーターだ。
大きな口を開けて僕たちを捕食しようと高速で近付いてくる。
「ふんっ」
ティアマトさんが竜巻を発生させ砂ごと空中に吹き飛ばす。
風に乗ってコクエンが宙に浮かぶアースイーターを切り刻んだ。
「……地中の大蛇も、釣り上げてしまえば無力ですね」
「まだ来ます!」
前方に走っていくエルを追いかけるのはグランドウォーカーの群れ。
目算で三十は超える獣たちを誘き寄せていく。トロンが再度砲台を向ける。
「とろんさん、エルごと撃ってくださ~い!」
「どーん」
「わあああああああああああ!」
躊躇いなく放たれた砲撃によって、エルもろとも光に沈める。
クルクルと回転するエルを、ユグの蔦が捕まえ地上に連れ戻した。
「め、目が回ります~眩しいです~」
「大丈夫? 怪我してない?」
「エルは、不死身です、から……」
衝撃で頭を揺らすエルを抱きかかえる。囮作戦は効果的だけれども。
心が痛むというか。本人が望んでいる以上は僕からは何も言えない。
「エル様、とても素晴らしい活躍でしたよ~」
「うん」
ユグもトロンも気にしている様子はない。
頑丈な瓶がその役割を果たしているだけだから。
寧ろ、喜ばしい事であって。まだまだ価値観の違いに慣れない。
「えへへ。あるじさまにギュってされて元気が出ました! もう一回、行ってきま~す!」
また囮として走りだすエル。見た目は武器を持たない普通の女の子なので。
簡単に魔物が誘き寄せられていく。トロンが砲台を向けて魔力を蓄えて……。
――ぷすり
黒い煙だけが出てきた。トロンはぼんやりと僕を見つめる。
「おなかへった」
「えっ?」
「トロちゃん、魔力切れなら早く伝えてくださいよ! エルエルがもう行っちゃいましたよ!」
「ひゃああああああああああああ」
エルがおびただしい魔物の群れに押し潰されてしまう。砂に埋まった。
大丈夫なのは理解できるけど。不死身じゃない僕らが近付くのは危険だ。
「ライブラさん、魔力回復薬ってあったかな!?」
「既に全部切らしています。エルエルの龍の魔力水も尽きてしまったもので。――ティアマト!」
「我が動くのは最後の手段だぞ。余力があるうちは他の者に頼め」
盾として有事に備え、力を蓄えるのがティアマトさんの流儀だ。
「ええいっ、冷たい奴ですね! ユグちゃん頼みます! コクエンちゃんもカバーに」
「はい、頭上注意ですよ~」
「今のうちに砂地に慣れておかないと……」
ユグが創造領域を広げて、木杭の雨を降らせる。
傷を負って逃げ出した魔物をコクエンがトドメを刺す。
「お~い、エルはどこにいったの!」
砂漠に全身を沈めてしまったエルを探して砂を掘る。
しばらくして片足が見つかった。みんなで引っ張り上げる。
「けほっけほっ、息苦しくて暑かったです……」
口から砂を吐くエルは、全身が砂塗れだ。
取れる範囲で払ってあげて。背中におぶる。
「ごめんね。すぐに助け出せなくて」
「……ごめん、なさい」
トロンも隣で頭を下げている。エルは気にしていません! と答えていた。
「しかし魔物の数が多すぎますね。トロちゃんも魔力不足になりがちですし」
「わたくしも、そろそろ限界かもしれません~」
トロンもユグも疲労が抜け切れていない。
範囲殲滅を得意としている二人の消耗が激しい。
「ただでさえミミックへの餌遣りで消耗している中での戦闘だからな。いい訓練にはなるが」
「先に進むのは厳しそうです……。【深淵化】した魔物はこちらへの敵意が異常ですし……」
「アイちゃんのスキルリンクでは、私様たちの魔力を増幅させているに過ぎないですからね。元が尽きれば効果が薄くなりますし、アイちゃん自身の復活も遅くなる欠点が。ロロアさん、ここは――」
「そうだね。一旦三十階層に戻ろうか」
物量が違い過ぎて闇雲に進んでも厳しそうだ。戻って作戦を練り直さないと。
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