第103話 散髪
屈強な男の人たちに囲まれていたユグを助け出して、休憩所を出ていく。
【深淵化】の影響を調べる為に、しばらくは運搬ゴーレムを地上で走らせる。
疑似太陽が沈んだ暗闇の世界を徐行運転で進む。地面に砂地が増えてきた。
魔塔の最下層近辺は必ず砂漠地帯になる。エネルギーを吸われているのだとか。
「先程は助けていただき感謝いたします~。たくさん呼び止められてしまいました」
「一人にしてごめんね。怖くなかった?」
女性の冒険者は少数だと何かと声を掛けられやすい。
ユグはお姉さんの見た目で内面の優しさが滲み出ているから。
「いえいえ。みなさんとてもよくしてくださいましたし。あっ、こちらをどうぞです~」
ユグが使い捨てのカンテラと燃料を渡してくれる。
地上では安価に買えるこれらも魔塔深部では貴重品。
「わたくしの気を引こうと贈り物をくださったのです。すべてロロア様に差し上げます~」
「あ、ありがとう。こんなにもたくさん」
ユグには男の人を惑わせる魔性の何かがあるのかも。
男の人たちも、贈り物が僕に辿り着くとは思っていなかったはず。
ちょうど数が足りていなかったので。ありがたく使わせてもらおう。
「…………じー」
「どうしたの?」
ユグが僕の頭をぼんやりと見つめている。
いつものほほんとしているから表情からは予想できない。
「ロロア様の髪が伸びていらっしゃいますね~」
ゆらりと後ろに回ると、ユグが僕の髪の毛を動かしていく。
そういえば最近切ってなかった。以前はアイギスに頼んでいたから。
「長いかな?」
「少し短くした方が良いかと思います~。ロロア様はよく動かれるので。引っ掛かっては危険です」
「自分で切るのは苦手なんだ。お願いしていい?」
昔は一人でやっていたけど。みんなと行動するようになって下手になった。
下手になったけど。それはそれで嬉しい。ずっと誰かが傍に居る証拠だから。
「お任せください~」
チョキチョキチョキと、心地の良い音が風に流れていく。
カンテラの光に照らされて。時々ユグの綺麗な指が視界に入る。
「痛くありませんか~?」
「ううん。上手だよ」
「あー! あるじさまがいつもよりカッコよくなってます!」
天幕から仮眠を終えたエルが出てくる。
僕の後頭部を手のひらで触って楽しんでいる。
「じょりじょりじょりじょり」
「おー。じょりりりりり」
そこにトロンも混ざって一緒にじょりじょり。
「はい。完成いたしました~。どうでしょう」
鏡で確認すると綺麗に整えられた前髪が。
アイギスとはまた違う、ユグ好みの髪型かな。
「ありがとう。頭が軽くてすっきりしたよ」
その場でくるりと回ると。ユグはいい仕事をしましたと満足げ。
「次はエルもお願いします!」
「……きりたい」
「あらあら」
髪を切って欲しいエルと、ハサミを使いたいトロンが。
ユグが隣でサポートしながら、トロンが指を器用に動かす。
「す、すごい……初めてだろうにもう使いこなしている」
「ちょきちょきちょき」
相変わらず器用万能だ。教わった技術はすぐに吸収してしまう。
目では捉えられない速さで、エルの髪型がみるみる変わっていく。
「かんぺき」
数分後、一仕事を終えたトロンも満足げな表情に。
「エル様。いかがでしょう」
「おぉ……! あるじさまあるじさま! エルはどう見えます?」
「とっても似合っているよ。うん可愛い」
「えへへ」
新たにショート髪になったエルはより可愛らしくなった。
僕の前で何度も感想を求めるところも。女の子って感じだ。
「おや。楽しそうですね。私様も混ぜてくださいよ」
運転席の方からライブラさんがやってくる。
僕とエルの髪型を褒め。私様もお願いしますと机に座った。
「次はエルが切りたいです!」
「がんば」
トロンからハサミを受け取り、エルがかちゃかちゃ音を鳴らす。
音だけで不慣れなのがわかる。ライブラさんの身体は小さいし難しそう。
「えっ、大丈夫なのでしょうか? 不安なのですが……」
「エル様~。試しにこの紙を丸の形に切ってみてください」
「はーい!」
じょきりと紙が勢いよく真っ二つに。それを見たライブラさんの顔が青く。
「らいぶらさんもすっきりさせてあげますね!」
「私様の首がすっきりしそうなので、ユグちゃんに頼みたいのですが……!」
「えー、エルがやります!」
「ひぃっ……ロロアさん、お助け下さい! エルエルに刈り取られてしまいます!」
「かおなしようせい?」
コクエンと似た悲鳴をあげてライブラさんが僕に泣きつく。
そのあとは僕がエルからハサミを没収して、ユグにお願いした。
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