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第101話 絶対勝利

 ロロアたちが各自情報収集に出向いている間に。

 ティアマトはゴーレムを見張っているライブラを捕まえる。


 唐突な要件。そして表情から察したのか、ライブラは笑みを浮かべた。 


「おや、ようやく気付いたのですか。ロロアさんの秘密を」


「……エリクシルの瓶と行動を共にしていた時点で気付くべきだった」


 ティアマトはため息混じりの声を出した。

 ライブラは答え合わせをするかのように語りだす。


「エリクシルの効果は長年不老不死とされていました。されていた、というのは。エリクシルを実際に服用した人物が存在したという記録がなかったからです。まず使用条件として死者にしか効果がなく。時の権力者たちが生きているうちには争いの種にしかならなかった。そして信頼できる者に預けても、死後持ち逃げされるといった事例が相次いだ。昔のエルエルは欲望を煽る悪女のようなものです」


 そうしてエリクシルは国を滅ぼし各地を転々としていた。

 いつしかその消息が途絶えて。多くの伝説だけが残るように。


「しかし今になって空瓶だけが見つかった。誰かが服用したのだ。考えるまでもない単純な答えだ」


「はい。ロロアさん本人には自覚がないのでしょうが。あの方は一度亡くなられている。その上で、何者かにエリクシルを投与された。そう考えるのが自然でしょう。それが誰なのかは……今のところ手掛かりはありませんので、ひとまず置いておくとしましょう」


 主人が一度死んでいる事実に、ティアマトは表情を強張らせる。

 盾としての誇りと、仕えるべき相手に親愛を抱きつつあったのだ。


「私様――本体の方ですが。ロロアさんが冒険者となった際、空瓶を所持している事に気付き。エリクシルを服用しているのではという疑惑を持ち、動向を常に見守り続けていました。その役割は今の私様が引き継いでいますが。データを集めていたのですよ」


「主人は魔塔探索中一度たりとも怪我らしい怪我を負っていない。エリクシルの効能は単なる不老不死でもないようだな?」


 ティアマトが驚いたのは、ロロアがそれを当然のものと認識していた事だ。

 当たり前だがどれだけ熟練した使い手でも無傷で戦いに勝利するのは難しい。 

 

 時には強敵を前に敗走だってする。それを運がいいで済ませるのは異常なのだ。

 

「その通りです。エリクシルの本来の能力は不老不死どころの騒ぎではありません。ロロアさんが何者を相手にしたとしても、それが絶体絶命の状況化であろうと――必ず勝利に結びつくよう運命が捻じ曲げられている。それを無意識に行使しているのです。あまりに馬鹿げた能力ですので、私様も認識に時間を要しましたが……」


 これまでも考えてみればおかしな点が幾つも存在したのだ。

 ロロアが以前よりも強くなったのは、疑うまでもない事実だが。


 それにしてもここまで、驚異的な速度で戦果を挙げ続けている。

 これまでも危機的状況が訪れるたび、彼はそれを上回る成長を見せた。


 【理の破壊者】や【深淵化】したクイーンアントも。

 ただの一少年が生き残れるような甘い相手ではなかった。

 

「【絶対勝利】か……それでは我の護衛も不必要なのだな」


「おや、寂しそうですね。案外可愛らしいところがあるではないですか」


「黙れ」


 否定をしないところに彼女の本音が垣間見えた。


「安心してください。この能力も完全無欠ではありません。明確な弱点も存在します」


 それは安心してもいいものなのかはさておいて。


「ロロアさんがエルエルを擬人化する以前の話ですが。三人組の冒険者に奴隷のように扱われていた時期がありました。その前後で【絶対勝利】が発動したという記録は残されていません」


「……気分のいい話ではないな」


 もう彼らは存在しませんよと、ライブラは冷たく言い放つ。


「つまりその時点では能力に目覚めていなかったのではないのか?」


「いえ、そのあとのアクアドラゴン戦では明らかに運命が捻じ曲げられた形跡がありました。アイちゃんやトロちゃんと巡り合えたというのも。話が上手く出来すぎなのです」


「……条件があるのだな?」


「はい。私様のこれまでに得られた情報から推測するに、【絶対勝利】はロロアさんの精神面、主に自信と繋がっている」


 ロロアが負けなくなったのは、彼が仲間に恵まれ自信を付けてからだ。

 エルたちと出会うまでは、それまでは本人も逃げてばかりだったという。


「絶対に死なない。負けないという強い意志が、勝利を引き寄せるトリガーとなっています」


「わかりやすいようで、何とも曖昧な基準だな」


「もっと喜んだらどうですか? ロロアさんが、ティアマトを含めた仲間が傍に居るからこそ、強い意志を持ち続けられている。あの方が勝利し続ける事、即ち私様たちへの信頼の厚さの表れなのですよ。これほど支え甲斐がある主君は中々お目に掛かれません」


 それは彼一人では決して得る事ができなかった最強の力だ。

 ここからが本番だというように、ライブラは真剣な表情となる。


「ただの不老不死の少年なら、珍しくとも騒ぐほどのものでもありませんでした。【絶対勝利】もあくまで戦闘面では最強格ですが。ロロアさんは温厚な方ですし発動しない、または無駄になる事も多いです」


「そこで【擬人化】が絡んでくるのか」


「アイテムを私兵へと変える【擬人化】は数ある可能性の中でも最上位に君臨します。無限に近い軍事力を一個人が保持し続けるのですから。ただし欠点もありました」


「ああ。あくまでスキル所有者は無力な人間だ。王を討てばすべてが無力化する」


 ユニークスキルはそれ一つしか所持できない。他の防衛手段がない。


「はい。それが【擬人化】本来の弱点でした。ですが、ロロアさんは不老不死であり。そして――」


「【絶対勝利】を持つ不死の王。そこで無数の不老強兵を従えてしまえば、もはや何人たりとも止められんな」


 すべてが上手く噛み合い、可能性の塊を生んでいた。

 ロロアとエルが合わさる事で無敵の国家が出来上がるのだ。


 一個人で英雄となる者が居ても、国家単位の英雄なんて前代未聞だ。


「――ライブラよ。貴様の目的はなんだ。主人を利用して何を為そうとしている」

 

「……私様は、あくまで大賢者ライブラの意志を引き継いでいるだけですよ。封印された厄災の完全消滅。かつて偉大な七賢人ですら成し得なかった偉業を果たす。ロロアさんにはそれだけの可能性がある。いえ、もはやロロアさんでしか厄災を止められない。きっと、私様が何かするまでもなく。ロロアさんは厄災と戦う事になります」


「ふん、その割には随分と甘い……遠回りをしているようだな?」


 目的を果たす為ならロロアに真実を伝えた方が早い。

 だがライブラはそうはしない。大切に守ろうとしている。


「迷いもあるのですよ。厄災を滅ぼす意味を。その重さを理解していますから。……私様の願望を勝手に背負わせてしまっているのです。対価として、すべてを捧げる覚悟があります。あの方の望みを可能な限り叶えたいと」


 地上世界を襲う厄災の脅威は今も語り継がれている。

 ではその厄災を滅ぼす英雄は、その後どうなるのだろうか。


 ――物語の終わりの続き。役目を終えた勇者の行方は?


「ロロアさんはいずれ世界を敵に回します。厄災を越えし大厄災として。故に急ぎ大国に対抗できる戦力を整える必要性があるのです。その点、冒険者の身分での魔塔探索は都合が良かった。【擬人化】に適合するアイテムを無限に探し出せますので」


「【絶対勝利】を抱えて、今以上に戦力を整える必要性があるのか?」


「良くも悪くもロロアさんは常識的な一少年である事に変わりありません。ただの強敵を相手にするのと大国を敵に回すのでは訳が違います。常に自信を持ち続けろというのは酷な話ですし。不老不死の肉体でも精神を擦り減らしていけば。最悪は廃人となり無限の苦しみを与えてしまう」


「その前に我らの国家の基盤を作り上げるのだな。仲間を探し国を相手できる兵力を持つ。それが主人への負担を減らし。無理のない自信へと繋がる」


 いつの日か王の処遇を巡って戦争に発展するかもしれないのだ。


「ティアマト。貴女の役目も重大ですよ。ロロアさんもエルエルも果てのない向上心をお持ちです。何もさせないのもストレスを与えてしまいます。かといって目立たせ過ぎてもいけません。【絶対勝利】と【擬人化】、エリクシルはあまりに完美な匂いを漂わせている。悪い虫は徹底的に排除してください」


「言われずとも。汚れ仕事はすべて我が受け持ってやる。他の連中には荷が重いだろう」


「ティアマトも随分とロロアさんやコクエンちゃんたちに甘いのですねぇ」


「ふんっ。そこはお互い様だろう」

次の更新は12/13です

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