第100話 無敗の少年
――――【地下深淵の塔】三十階層。
ギルドの支援を受けられる最後の休憩所だ。
運搬ゴーレムを目立たない位置に停めて支援物資を貰いに向かう。
今回は僕とエルとティアマトさんの三人だ。あとはお留守番。
賑わいを見せる天幕を越え、ギルドの関係者から荷物を受け取った。
途中で変な妨害を受ける事もなかった。それもそのはず。
四十階層よりも滞在しているパーティの数が三倍ほど増えている。
みんながここで足止めを受けている証拠であり。
道中三十五階層のフロアボスは討伐された後だった。
人が多く集まるというのは、周囲は比較的安全なんだ。
「いっぱい見られてますね」
「見られない事の方が珍しいよ。僕たちのような子供は」
あと僕の後ろを歩くティアマトさんの龍威圧が凄まじいから。
近付く輩は討ち取る勢いで。盗人の件で警戒心があるんだと思う。
「この程度の圧に屈するなど揃いも揃って軟弱者ばかりだ。大賢者ドラウフトも嘆いておるだろう」
「神話級の圧に耐えられる人の方が少ないと思います。周りを見ても僕より数百倍強そうな人しかいないや」
みんな試練で立派に成長したけど。僕は終始見ているだけで。
人間は急には成長できないし。ただ置いていかれる一方だ。
ライブラさんは、僕には何もしなくていいと言ってくれるけど。
怠惰な人に周りが付いて来てくれるとは思えない。僕も強くなりたいよ。
「しかし主人は、我を前にしても平然としているではないか。今でも十分胆力が付いていると思うが」
ティアマトさんが僕を見下ろして、少し怖い表情を作っている。
だけどそれは作り物だとわかるから。特に何も感じず普通に話せる。
「? 龍威圧は仲間には効かないのでは?」
「そのような便利な認識機能はないぞ。味方だろうが弱き者はこの瞳を覗いただけで意識が呑まれる。だからこそ我と行動を共にするには、強き心が、試練が必要だったのだ」
そうだったんだ。今まで気付きもしなかった。
「……エルはどう? 龍威圧が怖かったりする?」
「エルも気にした事がなかったです!」
「君は力を失っているが元神話級だ。当然だろう」
「あれ、だったら僕は、どうして効かないんだろう……? 普通の人間だけど」
他の屈強なパーティが恐れている時点で、人間にだって通用する力だ。
僕が龍威圧に耐性があるのは、何か大きな理由があるんじゃないのかな。
「あの小うるさい羽妖精の言葉を借りるなら、主人が王の器である証明。自覚がないだけでこれまでの経験が息づいているのではないか。少なくとも我には特別――主人に試練を与える必要性はないと感じたが」
厳しいティアマトさんですら、僕を特別視している。
だけど、その判断理由については曖昧で、変な感じだった。
「……ん? 何故我はそう感じたのだ。相手は人間だぞ」
そしてその不可解さは、ティアマトさん本人も自覚しているようで。
自分で自分の発言に驚いているような、何かに気付いたような表情に変わる。
「……主人よ、一つ質問をするが。これまでの魔塔探索、いや記憶の中でだ。一度でも戦いに敗れた経験はあるか?」
「えっ?」
戦いに負けるって、その場合普通は死んでいるんじゃないのかな。
僕は今日まで生き残っているから。戦ってきた相手には全員勝ってるよね。
「質問が悪かったな――――戦闘中に怪我らしい怪我を負った経験は?」
「うーん。僕って逃げ足が速くて結構運がいいから。熱を出す事はあっても怪我はないかなぁ」
多分、掠り傷ですらあまり記憶にないかも。うん、運がいいな。
「そういえば、あるじさまの怪我を治す機会は一度もなかったです! まるでエルみたいですね!」
「流石に不死身と比べられるものじゃないよ」
「えへへ」
エルがニコニコして、とても良い事ですよねと。喜んでくれる。
対してティアマトさんは、恐れを帯びた瞳で僕をただ見下ろし続ける。
「そうか……そういう事か。エリクシルの瓶に加えて【擬人化】か。これはまたとんでもない逸材を見つけたものだな。あの羽妖精め。王の器だと? 馬鹿を言うな。その程度で収まるべき者ではないぞ。奴は主人を利用して世界でも滅ぼすつもりか」
「あ、あの……結局僕はどういう――」
「今の質問はすべて忘れてくれ。すまなかった。それから一つだけ伝えておく。主人は、もうこれ以上強くなる必要はない。これ以上は何もせず、何も望まず。素直に仲間を頼って欲しい」
そのまま僕とエルを置いて、一人で戻っていってしまう。
ティアマトさんは護衛の為について来てくれていたんじゃ?
「何だか様子が変だったね? ライブラさんと同じような事を言っていたし……」
「はい。どうしたんでしょう?」
二人で首をかしげるしかない。
「僕だってみんなの役に立ちたいんだ。せめて身体だけでも鍛えておきたいかな。それくらいなら許されるかな……?」
「エルもです! 一緒にもっともーっと強くなりましょう!」
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