エロ漫画転生! ~コンビニで万引きしようとしている美少女を呼び止めたら、恋がはじまった件について~
僕はコンビニの前にいる。
なんの変哲もないコンビニだ。
見覚えがあるなーっと思うが、そりゃそうだ。
日本人なら誰でも知っているコンビニだから。
でも、見覚えがあると感じたのは別の理由だ。
この状況に見覚えがあったのだ。
コンビニの中には美少女がいた。
僕と同じ高校、同じクラス、そして学年一の美少女。
彼女の名前は佐藤ゆめ。
文武両道。
医者の娘であり、品行方正。
性格も良いためクラスの人気者。
彼女の周りにはいつも人が集まる。
完璧人間だ。
それに対して、僕は普通だ。
名前は夏目勇一。
黒髪の中肉中背。
運動は苦手。
勉強はそこそこできる。
友達は少ないけれどいる。
社交的ではない。
部活動は帰宅部。
つまり、部活には入っていない。
平凡な少年が僕だ。
自分語りして少し恥ずかしい。
そんな僕はコンビニでキョロキョロとしている佐藤さんを見つけ……。
とんでもないことを思い出した。
僕の頭に前世の記憶が流れ込んできたのだ。
だけど、前世の記憶と言っても、ほんの一部。
それも、エロ漫画を見ている男の記憶だ。
実にくだらない。
男のオ○ニーしてるときの記憶なんて蘇らなくても良い。
でも、案外、それが重要な記憶で。
エロ漫画の状況と今の状況が合致していたのだ。
漫画の内容は凄くシンプル。
美少女が万引をしようとして、それがコンビニの店長に見つかり……。
と、そんな感じの話だ。
エロ漫画のヒロイン?の名前が佐藤ゆめ。
僕の目の前にいる少女と同じ名前だ。
顔も一緒。
二次元と三次元だから、多少の違いはあるけど同一人物とわかる程度には似ている。
ここまでの条件が一緒なら、だいたい察しがつく。
ここはエロ漫画の世界だ。
そして、今から佐藤さんは万引きをしようとして、店長のハゲ親父に見つかってしまう。
ダメだ。
前世の僕はそのシーンを見て、お世話になっていたけど。
でも、そういうことじゃない。
現実の佐藤さんがそんなことになるのはダメだ。
佐藤さんはみんなのあこがれの佐藤さんだから。
ハゲ親父なんかに渡してたまるものか。
僕は勇気を振り絞ってコンビニに足を踏み入れた。
すると、佐藤さんと目があった。
佐藤さんの手には36枚入のボディシートが握られている。
夏の時期だから、汗拭きたくなるよね。
その気持ちはわかるよ。
でも、なんでボディシートをスクールバックの中に突っ込もうとしているのかな?
それ、まだ買ってないやつだよね?
「佐藤さん……?」
と僕が佐藤さんの名前を読んだときだ。
……スポン。
佐藤さんの鞄の中にボディシートが入った。
「え……? 夏目くん。何かな?」
いや、なにかな? じゃないよね。
今、僕の目の前で堂々と万引したよね。
佐藤さんの目、めっちゃ泳いでいるし。
ていうか、顔も真っ赤だし。
もう、バレバレじゃん。
そんなんで、どうして誤魔化せると思ったの?
「じゃ、じゃあ、また明日ね。ばばい、ばい」
ばばい、ばいってなんだよ。
どこのドラ○エの呪文だよ。
佐藤さんは僕の横を通り過ぎようとする。
ちらっと、店長を見た。
ハゲた店長はにやってしていた。
あ、これはあかんやつだ。
「ちょ、佐藤さん。待って」
僕は勢いで佐藤さんの手を握った。
「え……ちょっと。なに?」
「なんかの手違いで、まだ買っていないボディシートが鞄の中に入っちゃったみたいだよ。このままだと万引きになっちゃうから、早く戻したほうが良いと思う」
ここでポイントなのが、佐藤さんを責めないことだ。
「…………」
佐藤さんがフリーズしている。
と、そうしているときにも、ハゲ親父がこちらに向かって歩いてきた。
……これはやばい。
僕はとっさに佐藤さんの鞄の中に手を突っ込んだ。
「な、夏目くん……!?」
「いいから黙ってて」
鞄の中からボディシートを掴み取って、
「はい、これね。佐藤さんはおっちょこちょいなんだから」
あははっと笑いながら、佐藤さんにボディシートを渡した。
僕の後ろでチッと舌打ちをするハゲ親父。
「あ……うん、ありがとう」
佐藤さんは小さな声で言った。
クラスにいるときの佐藤さんはもっと元気で、リーダーシップがあって凄いけど。
今の佐藤さんは子供のように見えた。
なんだか、僕は家にいる妹と佐藤さんが重なって見えた。
妹も悪いことしたあとは、シュンとなる。
ちょうど今の佐藤さんと同じような顔で。
だから、
「元気だして」
僕はよしよしと佐藤さんの頭を撫でていた。
佐藤さんが大きな目を僕に向けてきた。
「あ……ごめん!」
すぐに手を引っ込める。
いきなり女の子の頭を撫でるとか、アウトだよ。
恋人とか、それに近い関係だったらアリかもしれないけど。
僕と佐藤さんはただのクラスメートだ。
「別に……」
佐藤さんは顔を俯けながら呟く。
うーん、怒らせちゃったかな。
「か、代わりに僕がそのボディシート買ってあげるよ」
万引したいくらいだから、相当欲しかったんだろうな。
あれ?
でも、佐藤さんって医者の娘だよね?
お金に困ってないはずだ。
なんで万引なんかしようとしたんだろ?
きっと佐藤さんなりの事情があったんだよね。
「大丈夫! 自分で買うから!」
「うん。わかったよ」
そういう訳で佐藤さんがボディシートを買い。
ハゲ親父が僕を睨んでいたけど、僕は知らんぷり。
漫画の中なら、今からハゲ親父は色々と楽しめただろうけど。
こんな男に佐藤さんを渡してたまるものか。
コンビニを出ると、佐藤さんがもじもじしていた。
普段見られない佐藤さんを見られて、ラッキー。
きっと、クラスメートはこんな佐藤さんを知らないんだろうな。
ちょっと得した気分だ。
「ん、じゃあ、また明日」
僕の家と佐藤さんの家は、ここからだと反対方向にある。
僕は佐藤さんに別れを告げてから歩き始める。
「あ、あの!」
しかし、すぐに佐藤さんに呼び止められた。
くいっと服を掴まれながら。
僕は後ろを向く。
「どうしたの?」
佐藤さんは俯いていて表情が見えない。
「お……お友達になってください!」
お友達か……。
佐藤さんは友達が多い。
佐藤さんの周りに人が集まるのは、彼女の明るい性格のおかげだと思う。
万引を止めたお礼として、佐藤さんのお友達になれる。
それは、僕にとっても嬉しいことだ。
「喜んで」
僕は笑顔で応える。
すると、佐藤さんが顔を上げた。
「ほんとに!」
「ほんとだよ」
「ほんとに、ほんとに、ほんとに!?」
佐藤さんがぐいぐいと顔を寄せてくる。
「も、もちろん」
僕は若干引き気味で頷いた。
僕以外にも友達なんていっぱいいるだろうに。
でも、佐藤さんがぱぁっと顔を輝かせて嬉しそうにするから、なんだか僕も嬉しくなった。
そんな表情されたら、僕みたいなモブはイチコロだよ。
まったく、人たらしなんだから。
「じゃあ、また明日ね!」
佐藤さんはくるっと回転し、タッタッタッと駆けていった。
そして、途中で振り向き、
「今日はどうもありがとう!」
と佐藤さんは手を振りながら言ってきた。
僕は軽く手を振り返した。
翌朝。
僕はいつもどおり、学校に行き教室に入った。
教室の雰囲気はいつもどおりだった。
佐藤さんがみんなに囲まれている。
僕は佐藤さんをちらっと見た。
一瞬だけ、佐藤さんと目があったから会釈だけしておく。
そして、席に着いた。
すると、直後。
足音が聞こえてきた。
振り向くと、そこには佐藤さんがいた。
「おはよう、夏目くん」
「お、おはよう……」
僕は戸惑う。
まさか、教室で佐藤さんが話しかけてくるとは思わなかった。
クラスメートたちが少しざわついている。
そりゃあ、そうだよ。
だって、昨日まで僕と佐藤さんはほとんど関わりがなかったんだから。
「なんで、無視して通り過ぎていくかな?」
「ちゃんと会釈したよ」
「それは挨拶じゃないよ。挨拶というのは、おはよう、とかこんにちはって言葉にして伝えるものだよ」
へー、そうなんだ。
さすがは人気者の佐藤さん。
コミュニケーション能力が高い。
僕みたいなちょっと根暗な人間は会釈イコール挨拶だと思っている。
でも、郷に入れば郷に従え、だ。
ここは佐藤さんルールに合わせておこう。
「ごめん、今度からちゃんと挨拶するよ」
「うん、それでよし。それでね、夏目くん。今日一緒に帰らない?」
「……どうして?」
僕は首を捻る。
すると、佐藤さんがぷくーっと頬を膨らませた。
そんな姿も可愛いと思う。
「だって、私たちはお友達でしょ」
「そうだね。昨日なったばかりだけど」
「余計なことは言わなくて良いよ……。それでね、お友達なら一緒に帰るもんじゃない?」
「でも、僕たちの家って方向違うよね?」
「昨日のお礼よ。まだ、お礼してなかったから」
「大丈夫。お礼はすでに貰ってるから」
「何もあげてないよ……?」
「僕は佐藤さんと友達になれただけで嬉しい。それだけで十分お礼になってるよ」
だって、あの佐藤さんだよ。
クラス一、いや、学年一の美少女だよ。
そんな佐藤さんと友達になっただけでも、モブの僕からすれば大ニュースだ。
これだけで十分満足。
その上お礼なんてしてもらったら、佐藤さんに悪いよ。
「夏目くん……そういうのずるい……」
佐藤さんが顔を赤くしながら、もじもじした。
「でも、私はやっぱりお礼がしたい。ダメ?」
佐藤さんが上目遣いで見てきた。
うん、これはダメだ。
何がダメだって?
これを断れる男はきっと地球上に存在しない。
そのぐらいの破壊力があった。
ずるいのはどっちだろう?
と、思いながらも僕は首を縦に振っていた。
「う、うん。いいよ」
すると、佐藤さんが満開の桜が咲いたような笑顔を見せる。
そんな笑顔をされたら、僕も嬉しくなる。
「じゃあ、今日の夕方ね!」
佐藤さんは軽やかな足取りで自分の席に戻っていった。
僕は万引きを止めたことがきっかけで、佐藤さんと仲良くなった。
これから佐藤さんともっと親しくなっていく予感がしている。