恋は前途多難
「ねータオル置いとくよー」
「おーサンキュ」
お風呂に入っている彼に声を掛ける。
石けんの匂いが心地いい。
今日は、2週間ぶりに彼の家にお泊り。
久しぶりに来ると、部屋の中はめちゃくちゃ…のはずなのに…
「…結構、きれいにしてるじゃん」
キョロキョロ…
「洗濯物いーれよっと」
ベランダに出て、バスタオルを抱える。
端のほう濡れてないかな…?
手を押し当てて確認。
「んー乾いてるっ!よいしょっ」
っと…☆
バスタオルを置いた横で、彼の携帯が光ってる。
ブーブーブー…
「電話かな?」
条件反射。
鳴り止まない携帯をつい手に取るわたし。
「ユカ?」
赤く光る画面に点滅する聞いたことのない名前。
直感で会社の人を呼び捨てで登録するはずないって感じて、携帯を開ける。
誰?
友達?
嫌な予感がして、胸がざわめく。
電話の着信履歴…ユカの名前がずらっと並んでいる。眉間にシワを寄せてカチカチカチ…
いや、もしかしたら、職場の人かもしれない。
わたしの勘違いかも…
浮気…なんて…
彼氏の携帯勝手に見るのはルール違反だとわかっていても、一度怪しいと思い出すと止まらなかった。
わたしはそのまま、メールの受信BOXを開ける。
ユカ
ユカ
わたし
ユカ…
7割はユカ、残りはわたしと会社の同僚や先輩の名前。
ううん、待って。
わたしの勘違いかも…
どんなメール?
ただの業務的なことかもしれないし…
微かな希望を抱いて、ボタンを操作する。
―――この前話したお店週末に予約したよ
―――彼女に会わなくていいの?大丈夫?
―――今日は会えて嬉しかった
ユカの甘いメールが、鋭いトゲとなってわたしの心に絡み付く。
「はぁぁ…嘘でしょー…」
パリンっと心が砕けて、心音がバクバクと体中を駆け巡った。
同時に、フツフツと腹の底から怒りと悲しみが沸いてくる。
「お待たせー♪」
ホカホカと湯気をまといながらお風呂から出て来た彼。
「あちー!」
冷蔵庫を開けて、ビールを取り出し、ぷしゅっと泡が吹き出す。
わたしは、脳天気な彼がより一層腹立たしく感じた。
「……ねぇ!これ何っ!」
怒りで震える手で、携帯を投げつける。
「いてっ」
携帯が胸元に当たった衝撃で、肩に掛けていたバスタオルがずり落ちていく。
「ユカって誰!?」
「えっ?」
彼の顔色が曇っていく。
わたしの形相と点灯したままの携帯電話の画面を見て、やっと状況が飲み込めたらしい。
「わたしには仕事が忙しいって言っておきながら、ユカと会ってたの?」
「いやっ…あーこれは…その…色々あって…」
しどろもどろになっている姿が余計勘に触る。
「信じてたのにっ!嘘つき!」
わたしは興奮して、掴めるものをバンバン投げつける。
悔しい!
悔しい!
こんな男だったなんて!
「わたしは…寂しくても我慢してたのにっっ!」
大粒の涙が視界を狭めて、頬を濡らしていく。
「泣くなよ…」
慰めようとしたのか、近付いてきた手をパシッと振り払う。
サイテー!
許さない!
絶対許さない!
「頼むから、落ち着いてオレの話聞いて」部屋がキレイなのもしょっちゅう女が出入りしてたからなんだ!
「話さなきゃって思ってたんだよ…」
何を?
別れようって?
まさかユカと付き合う気?
「何も聞きたくない!」一言叫んで、わたしは膝を抱えて小さく丸まった。
「……麻衣」
「嘘つき!嘘つき!うそつきぃ…」
こんな時、どうしたらいいかわからないんだろう。
彼はピクリとも動かず、黙ってわたしの泣き声を聞いていた。
―――しばらくして…彼は話し出した。
「麻衣…顔上げてくれよ」
「……ぐすっ」
彼に腕を掴まれて、涙でくしゃくしゃになった顔をゆっくり上げる。
だんだん視界が広くなって、彼の顔がハッキリ見えてくる。
「麻衣、こっち見て」
「………」
「嘘ついて会えないって言ってゴメンな」
「………」
「オレ、不器用だから麻衣のこと悲しませてばっかで…本当にゴメン」ペコッ。
軽く頭を下げる彼。
「本当は…麻衣の誕生日に渡そうと思ってたんだけど…」
そう言いながら、机の引き出しから何か取り出した。
「はいっ、プレゼント」
「……?」
わたしの手のひらに、赤いリボンがかかった小さな箱。
「な…何これ…?」
思わぬ展開に、わたしは目が点。
「いいから。開けて」
「………」
計算高いわたしは、箱の大きさから中身の検討が付いた。箱に巻かれた赤いリボンをするするほどいていく。
その間、ぐるぐると混乱した気持ちを整理する。
な…なんで…?
誕生日プレゼント?
リボンを解いて、箱を開けるとジュエリーケースが出てきた。
何…これ…
今までわたしが欲しいって言っても、アクセサリー買ってくれなかったのに…
なんで今さら…
「どうした?」
「………いらない」
「え?」
「いらないって言ってるの!」
ぐいっと彼に押し戻す。
「あーもうっ!」
彼がぐしゃぐしゃっと頭を掻く。
「ユカにあげれば」
わたしはツンッと目を反らす。
「だーかーらー誤解なんだって!」
「どこが?」
「ユカは妹!」
「妹?いたっけ、妹」
「大学まで遠いから一人暮らししてるって話しただろ」
「そうだっけ?」
「ったく…彼氏の家族構成くらい覚えとけよ…」
「わたしの家族じゃないもん」
「妹も麻衣の家族なの!!!」
「ハァ?意味わかんないっ!!!」
カッとなって、振り返る。
すると、
「…………!?」
ビックリ。
目の前がキラキラ光った。
わたしの瞳の先にあったものは―――
「指輪……?」
素人目にもわかる高そうな指輪だった。
きっとダイヤモンド。
ぐるっと1周、ダイヤモンドが付いている。
あまりの輝きに、指輪に釘付けになる。
「……キレイ……」
「びっくりした?」
「…こんな高い指輪…どうして?」
「どうしてって…麻衣、25才になるだろ」
「そうだけど…」
「25才で結婚するのが理想…なんだろ?」
彼が照れくさい微笑みを浮かべる。
その言葉にドキンっ。
心臓が跳ね上がる。
彼は、一度まぶたを深く閉じて
「結婚しよう」
真っすぐな眼差しでプロポーズしてくれた。
「………健太………」
トクンっ…
目頭が熱くなって、どんどん涙が溢れてくる。
わたしは…
胸がいっぱいになって
「うわぁぁぁん」
大声で泣いた。
「ご…ごめっ…わたし…わたし…」
まさか、プロポーズされるなんて思ってなくて。妹いたの忘れて疑って。
携帯覗き見して。
サイテー。
嬉しい気持ちとごめんって気持ち。
恥ずかしい気持ちが入り混じって、胸がきゅーっと鳴いた。
そんなわたしを、彼はぎゅっと抱きしめてくれた。
「麻衣。返事、聞かせて?」
「ぐすっ……子どもは27才で産みたい」
「ぷっ。何だよ、それ」
「……2人産むんだからっ」
「うん。わかった。早く家族作ろうな」
「うん…」
「愛してるよ、麻衣」
「ん……」
キスをしながら、そっと左手の薬指に指輪をはめてくれた。
……幸せ……
―――プロポーズから半年。
誕生日を迎えて、25才になった。
「麻衣、行こう」
「はい…」
桜の花びらが舞う日、わたしたちは結婚式を挙げた。
そして…
「お兄ちゃぁぁぁん、カッコいいー!!!きゃぁぁぁ」
「これっ!由香!静かになさい!」
健太=お兄ちゃん大好きな由香ちゃんがわたしの妹になった……
「お兄ちゃぁぁぁん(号泣)毎日会いに行くからねー!!!」
いや、来なくていーし……マジで。
―――幸せなはずの結婚生活は前途多難……かも。
「お兄ちゃぁぁんっ!!!」
「…………」
いかがでしたか?今回は感動+笑えるお話にしてみました☆最後に評価・感想お願いします(^^)ノ




