メモリー2 これがスキルか(3)
僕はあまり期待せずに一ページ目を開いてみる。初めのページにはこう書かれていた。
―――ここに書いてあることは長年の考察と研究の末に私が導き出した結論である。荒唐無稽と思うだろうが、この本に書いてあることは紛れもない真実である。
願わくばこの本を手に取った者の誰かがこの結論が間違っていなかったことを証明してくれることを願う。
一ページ目から願いを託してくるなんて中々重い本だな、そう思いながら僕はその本を読み進める。
―――まず初めにスキルとはシステムであり、その全容を理解することができれば誰でも再現することが可能である。スキルは膨大な式から構築されている。それを全て理解し紐解き、自らの頭の中で構築することが出来ればスキルは再現することが出来る。
んー、つまり頑張ればスキルは誰でも使えるようになるってことか?
でもそれはおかしくないか、それならスキル至上主義の社会になんてなってないはずだ。みんなが与えられたスキルによって人生を決めているのはスキルは与えられたものしか使えないからじゃないのか。
読み進めながら様々な疑問が浮かぶ。
しかし、その疑問の答えは次のページに書かれていた。
―――しかし、私はこの研究結果を実証することは叶わなかった。いや、もしかするとこれから先、証明することは永遠に不可能なのかもしれない。
なぜなら、スキルを構成する術式はなぜか分からないが憶えられないのだ。スキルを解読しようとあらゆる方法を試したが全て失敗に終わったのだ。
このことから結論づけられるのはスキルは何者かにより作られているということ。そしてそれは隠蔽されているということである。
なるほど、まあ筋は通ってるな。
ただ、1つ違うのはスキルが憶えられないという点だ。実際、僕は今日ジャイル達にボコボコにされた時にスキルをいくつもみたがその全てをしっかりと憶えているし、鮮明に思い出すことが出来る。
考えられる理由は1つ。
「僕の完全記憶のおかげか……」
つまり、僕ならスキルを解読することが出来るかもしれないってことか……。
まあ、この作者の言うことを信じるならの話だけどね。
…………試してみる価値はあるか。どうせこのままじゃ僕の人生詰みみたいなもんだしなぁ。
そう考えた僕は、早速街中を駆け回って街の人に手当り次第スキルを見せてもらった。
みんな生暖かい目で僕のことを見ながらスキルを見せてくれた。
これが同情の目というやつか。……だる。
まあ、そんなわけで自宅に帰ってきた訳だが、今僕の頭の中には多種多様なスキルの術式がある。戦闘系から料理や掃除までよりどりみどりだ。
まずは何から手をつけるか……。そうだな、ジャイルの<炎生成>からやってみるか。ジャイルのスキルを構築する式はやはりと言うべきか比較的簡単な作りになっていた。
まあ、そりゃそうだろう。ほんとにマッチ程度の火しか出てなかったしな……。
ジャイルのスキルは単純で炎を作るもの。それでも比較的簡単と言うだけで膨大な式である事には変わりない。
ジャイルのスキルの特徴と言えば火だから、まずは火の意味の術式はどれなのか調べるか。
他に俺が得たスキルの知識の中で火を扱うものと言えば……。
「これだな、スキル<料理人>、<火消し>、<鍛冶師>、<炎操作>、<炎属性付与>。あとはこの<温度調節>ってのも炎に関係するのかな」
他にも<ファイヤーマン>なんていうスキルもあったが使った人がその後、服が全て燃えて全裸になっていたのでこれは今は外そう。
この中で共通して出る術式がこれだから多分火の術式はこれだな……。
えー、で
10時間後、僕はついにやり遂げた。
「はぁ~、たった一個のスキル解読するのにどれだけ時間かかるんだよ……」
後は、ほんとにスキルが発動するかだな。…………よし、やるか!
――――ゴクリ。
僕は覚悟を決め、頭の中でジャイルのスキル<炎生成>を構成していく。
属性:炎 威力:0.1 規模:0.1 強度:0.1 etc...
――――頼む!!出てくれ炎!!!!ていうか出ろよ、十時間もかかったんだぞ!!!!!!
目をつむり、神にでも祈るというよりは射殺さんばかりの必死さで願いながら術式を構成する。
…………炎は、出てないか?まあ、出るわけないか。
何も感じられないので、そう思い半ば諦めながら目を開けてみると
「って炎出てるんですけどぉぉ!!!」
僕の手の上にはジャイルが出していたものと同じ炎が出現していた。