漁師のシゲさん
生活用品や食料は週に一回、元島民だったシゲさんが運んでくれる。
島に居た頃のシゲさんは漁師だった。島を離れて本土にわたってからは、いくつもの商いを成功し、今は廃止された長者番付に毎年名前を連ねるほどにまでなっていた。
今は一線を退き、会長職として名をのこして次の世代に経営は任せ、若かりし頃を思い出して、舟を操作して漁をしている。
口実となる漁の仕掛けをした後、さくらたちに頼まれていた荷物を届けるため、島の港に舟をつける。
荷物を届けてくれる日の早朝、眠たい目をこすりながら荷物を受け取るのは、さくらの仕事である。
「ふぁぁ……シゲさんおはよう……」
あくびをしながら、半開きの目でさくらはシゲさんに挨拶をした。
「おはようさん! さくらちゃん、あいかわらず眠たそうにしているけど体調自体は悪くなさそうじゃねえか! やっぱりこの島の空気が合うんだろうなぁ」
「シゲさんも毎回ありがとう! これが今回のお代で、次回のお願いリストがこれです。また来週お願いします」
シゲさんに届けてもらった荷物のお代と次回持ってきてもらうものをお願いする。
「まかせておけ! さくらちゃんは夜遅くまでゲームやり過ぎるんじゃねえぞ!」
「うっ……わかってるもん!」
台車に荷物を載せ、さくらはおぼつかない歩き方で、稲荷神社までうんしょ、うんしょと運搬していく。
さくらと別れたあともシゲさんは漁船から、さくらの背中が見えなくなるまで見守っている。体調を崩して倒れたりしないか心配なのである。漁は趣味ではなく、さくらの元に生活品を届ける口実なのを知らないのは、さくらだけだった。おばあちゃんも、タマさんもシゲさんの優しさい援助を知っていた。
シゲさんが若くやんちゃをしていた駆け出しの漁師だったころ、先代の神主だったさくらのおじいちゃんに人との接し方や礼儀などを躾けられた。そのおかげで、島を離れてから商いで成功をおさめることができたと感謝している。
先代の神主が亡くなる少し前、シゲさんは呼ばれ……「さくらをよろしく頼むな」と言われていた。シゲさんは、先代からの恩にこたえるため、商いを次の世代にまかせることを決意したのだ。
シゲさんは、恩返しからはじめたが、今はやさしいくて、病弱でいつ命のともしびが消えるかわからないさくらが心配でたまらない。
しかし、人間の寿命は変えることなどできないものである。
シゲさんはさくらの残された時間を幸せにすごしていけるように、見守ることしかできなかった。