エスターとメルツ、二人だけの世界
【さくら神社】
エスター(人間)孤児院出身の元ゼフ王国大将。
メルツ(人間)孤児院の生き残り。エスターの親友。
昨日は、エスターが一人で寝た客間には、ワシ殿が布団を4組ひいてくれていた。
最初はフカフカのお布団に興奮し、枕を投げ合っていたケルンとフィルは、直ぐに寝息を立てていた。
(二人ともよく生きていてくれた)
お布団に入り、エスターはメルツに話しかけた。
「私のせいで、みんなに辛い思いをさせて、すまなかった」
「本当にそうだよ…黒い姿で現れた時なんて、天国から迎えに来たんだって思ったんだからね」
「私も、あんな変装させられるとは思わなかった」
「でも、似合ってたよ…ありがとう」
二人は本音を言い合える仲である。エスターが別れの挨拶をし、再会してから二人だけの時間が流れ始めた。
今度はメルツが、
「今日の朝は、こんな展開になるなんて思ってもいなかったんだからね。三日間何も食べれないし、お水だって飲めなかったんだよ」
「私だって、メルツ達が酷い目にあってるなんて、想像もしていなかったんだ、仕方ないだろ…」
「ここはタス村で間違いないんだよね?」
「あぁ」
「よく、私達のことわかったね」
「色の黒い男性のシゲさんいただろ」
「うん、年いってそうだけどワイルドな人だよね」
「あぁ、そのシゲさんが色々と情報収集して、今日わかったんだ」
「えっ!今日知ったばかりで、助けに来てくれたの?だって結構離れているよ?王都とここ…」
「不思議な能力を持った、もののけって言う者が居るんだ。領主の話だと、人間は領主だけみたいだ。そのもののけの助けが無ければ…どうなってたか…」
本当にそうである。
しばらく沈黙の後、再度メルツが話しかける
「エスターはタス村にいつ着いたの?」
「昨日だ」
「その時は、この建物やもののけだっけ?居たの?」
「無人の廃村状態で、途方にくれてた。私も領主も」
「それなのに、天国みたいなこの環境、1日で作り上げたね」
「作り上げたと言うより、異世界からの転生者の能力で、突然現れたみたいだった。本人もびっくりしていたがな」
「と言うことは…昨日の夜も美味しい異世界のご馳走食べたの」
「…あぁ」
エスターは気まずそうに答えた。
「どんな食べ物だったの?」
「カレーライスという、不思議な香りがして、食欲が止まらなくなる食べ物だった」
「ふーん…私達が、お腹ペッコペコにしてた時に、エスターは美味しい異世界の食べ物を食べてたんだ…」
「…あぁ」
エスターは、バツが悪いのか、メルツに背を向けるように寝返りをうった。
メルツはエスターの背中に指でツンツンしながら、話題を変えた。
「責めてるんじゃないよ、だって、今日のご馳走、すっごく美味しかったもん」
「凄く美味しかったな…」
「それに、ピーナッツ火山の主様だよ!ドラゴンなんて初めて見たんだからね」
「私も、それには驚いた。ドラゴンを見た者は、戦って死ぬか、ドラゴンスレイヤーの称号を手にするかだと思ってた」
「アーテル様を崇拝してる人達って、絶対にご利益なんて無いよな」
「無いだろうな」
「人化したちーさん、無邪気で可愛かったね」
「そうだよな、とてもドラゴンの化身だなんて思えない」
「ドラゴンってもっと凶暴だと思っていたけど、優しかったね」
「さくら神社は優しい人しか、居れないらしいぞ」
「それなら、エスターも優しいってことだね♪」
「それは…」
エスターは、そう言って誤魔化そうと、メルツの方を見ると…メルツは目に涙をいっぱい溜めて今にもこぼれそうだった。
涙を堪えているメルツは、話を続ける
「亡くなった子も悲しいけど、それがその子の運命だったと割り切る。子供の頃から一緒に育ったエスターが、死に場所を見つけたって言って別れたとき、心が張り裂けそうだったんだよ」
「……」
「ほんの半日前…エスターとまた会えて、一緒に寝れるなんて想像なんて出来なかったんだよ。私は、日々生きることが精一杯で、人生を楽しむことなんて今まで無かったけど、亡くなった子の分まで、人生を楽しむって決めた!きっとこの地なら出来ると思う…だから、エスターは死ぬことなんて考えないって約束して…お願い…」
「わかった。約束する。精一杯生きることにする。」
「私より先に死んじゃったら、ケルンとフィルに、いい歳までおねしょしてたことバラしちゃうからね!」
と言ってメルツはエスターに背を向けるように寝返りをうった。
二人が再開出来たのも、前向きになれたのも、座敷童の加護なのかもしれない。
初めての作品「さくら神社の防衛戦争」を読んでいただき、ありがとうございます。
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その応援がはげみになります。
予定を変更して、エスターとメルツの心許せる会話のお話にしました。
生きて再開出来た二人は、無言のまま寝れるわけないですよね。
次話こそ、さくら神社拡張のお話です。