空腹の孤児、異世界の食事をする
※今回の登場人物
【さくら神社】
さくら(人間)異世界へ転生者した女の子。タス村の領主兼さくら神社神主。主人公。
エスター(人間)孤児院出身の元ゼフ王国大将。
おばあちゃん(座敷童)ドラマ好き。
タマさん(九尾の狐)武術に長け、料理上手。
シゲさん(ぬらりひょん)漁師から色々な商いをしてスグクルの創設者。
さーちゃん(コロボックル)兄妹の妹。
【孤児院】
メルツ(人間)エスターの親友。
ケルン(人間)男の子の孤児。
フィル(人間)女の子の孤児。
「ほらぁ、エスター…さくら神社に着いてホッとして終わりじゃねぇぞ。飯食わせて元気が戻るまでが作戦のうちじゃ。」と言って、シゲさんは二人の子供を担いだまま、エスターさんと同じくらいの年齢の女性に肩を貸して止まっているエスターさんに向かって言って、エスターさんを追い越して縁側に二人の子供を降ろした。
「お前達、よく辛抱したなぁ、ここはお前達をいじめる者は、居やしねぇから安心しろ。俺はシゲってもんだぁ。」と言って、シゲさんは二人の子供の頭を撫でて、ニカっと笑った。
(色黒でゴツい体の漁師がニカって笑うのは、歳とっていても似合うね)
「ほら手を貸してごらん」
と言って、女の子の手を取り、蒸しタオルで優しく拭き、手が終わったら新しい蒸しタオルで顔も拭いてあげた。
「あったかくて、気持ちいい…ありがとうございます」
女の子は礼儀正しくお礼を言った。
「今度は、お坊ちゃんだよ、手を貸してごらん」
と言って男の子の手を取り、蒸しタオルで同じく手と顔を拭いてあげた。
「お坊ちゃんなんかなじゃない…ボクはケルンだ…あったかくて気持ちよかった、おばちゃんありがとう」
男の子は、ケルンと言うらしい。
女の子は、はっとして、
「私は、フィルです」
と慌てて、自己紹介をしてくれた。
(突然連れられてきた場所で、きちんと挨拶出来るなんて、えらいね。)
「私はさくら!この神社の神主で、タス村の領主だよ!よろしくね!」とさくらも挨拶をした。
おばあちゃんも「おばあちゃんの名前はワシじゃよ。これからよろしくしておくれ」とおばあちゃんも続いた。
女性に肩を貸して歩いているエスターさんを急かすように、さーちゃんが手を引っ張って縁側まで連れて来る。
「私は、さー!」と言ってエスターさんの足の後ろに隠れてしまった。
(さーちゃんは、人見知りだもんね。)
おばあちゃんから蒸しタオルを渡されたエスターさんが、肩を貸して連れてきた女性の手と顔を拭いていた。
「エスター、ここは天国じゃないの?タス村の領主って…あの子が異世界からの転生者?」
「あぁ、そうだ、ここはタス村で、あの子が私が補佐をするよう命じられた異世界からの転生者、さくら殿だ」
説明を聞いても、狐につままれたような顔をしている。
「私は、メルツと言います。エスターと同じ歳の孤児で、今は孤児院の運営をしています」
(この人は、エスターさんと一緒に孤児で育って、そのまま孤児院に残って孤児の母親代わりをしていたんだね。)
台所から、タマさんが豚汁の入った大鍋を持って居間に入って来た。豚汁のいい匂いがする。
「私は、タマぞえ!詳しい自己紹介は後にして、まずは、腹ごしらえするぞえ」と言って、豚汁をよそっていく。
メルツさん、ケルン君、フィルちゃんのお腹が同時に「ぐうぅ〜」となった。でも汚れた服で座っていいものか戸惑っていた。
「ほら、遠慮するこたぁねぇ!ほらそこに座って、飯をたらふく食うのが、お前達の今やることだぞ」と言ってシゲさんが、先ずはケルンとフィルを料理が並ぶ座卓の座布団に座らせた。
メルツさんも、エスターさんに促されて座布団についた。
三人の前に、タマさんが豚汁を配膳しただけで、豚汁の匂いにやられ三人とも口が半開きになる。
「ここのしきたりで、ご飯を食べるときは、手を合わせて、いただきますって言ってから食べるんだよ!」
とさくらが教え、自ら手を合わせて…
「いっただきまーす!」と言って、へそ稲荷寿司を一口食べ…
「タマさん美味しい!」と言ったのをきっかけに、メルツさん、ケルン君、フィルちゃんもさくらを真似て、
手を合わせて『いっただきまーす!』と声を揃えて言い、ケルン君とフィルちゃんが堰を切ったかのように箸を動かした。
さくら神社は、元々島にあった神社である。台風が来たとき、シケで漁の船が転覆して救助したときなど、避難所として解放したり、炊き出しをするのは慣れている。豚汁とおいなりさん又はおにぎり、卵焼きは神社の炊き出しの定番だ。命からがら避難してきて、汚れたまま迎え入れるのも、神社では当たり前のことである。ここではそんなことを気にする者は居ない。
男の子だけあって、ケルン君はソーセージと甘いだし巻き卵に夢中だ。
フィルちゃんは、甘いだし巻き卵と豚汁とへそ稲荷寿司のローテーションをしている。
メルツさんは箸を持ったが、ケルン君とフィルちゃんの食べる姿を見ている。
(きっと、安心して自分の空腹も忘れちゃったんだよね…)
そんなメルツさんに、エスターさんが豚汁を手渡して、食べるように促した。
「メルツが一番食べて元気になってもらわないと、ケルンとフィルだって困るんだぞ」
「うん、そうだね。」と言って豚汁のお椀に口を付けて飲む。
自然とメルツさんの口から「優しい味がして…美味しい…」と言って涙を流した。
それからはメルツさんも箸が動き出し、それぞれの料理を満遍なく食べていく。
見守って居たさくら神社の住人も食べ始めた。
大人数で食べる食事っていつ以来だろう…
慣れたようにエスターさんの膝の上にちょこんと座った、さーちゃんもエスターさんから小さくしてもらって食べさせてもらっている。
(ソーセージを両手で持って食べる姿のさーちゃんがワイルドで…ギャップ萌えするよぉ)
あっという間に、大量に作った料理も全て無くなり、豚汁も空っぽになった。
「どう?異世界の料理はお口にあったかな?」とドヤ顔で質問するさくら。
「ボク、こんな美味しい食べ物…生まれて初めて食べました!」
「私も、甘いもの、しょっぱいものがこんなにする食べ物…生まれて初めてです!」
ケルン君とフィルちゃんは興奮して答えてくれた。
「さくら領主様、こんなもてなして頂いて…明日から私達、タス村で何でもします。移住を認めて下さい」
とメルツさんは懇願した。
「うーん…三人に、タス村でやってもらうと言っても、タス村は、モンスターが徘徊して居て、ほぼ廃村状態なんだよねぇ…」
「そんな…私達はエスターと違ってモンスター退治なんて…」
何でもすると言ったものの、やれることが無いと知り、メルツさんはうなだれ、ケルン君とフィルちゃんは今にも泣き出しそうになる。エスターさんも不安そうな表情でさくらを見ている。
さくらは元気よく、
「そうだ!タス村の領主の命令として、メルツさん、ケルン君、フィルちゃん、今から死んでもらいます!」
突然の宣言にエスターさんが詰め寄る。
「死んでもらうって、助け出したのに、そんなことをさせるのか!」
「うん、そうだよ!エスターさんも一緒に死んでもらうよ?タス村の領主の命令としてね!」
「異世界からの転生者はそれが狙いだったのか…」とさくらを睨むエスターさん。
エスターさんが、他の人からの助け舟を求めるように、さくら神社の面々を見るが、平然としている。
「さくら殿、私の命は差し出すが、この三人はどうか見逃してもらえないだろうか」
とエスターさんは頭を下げて来た。
「エスターさん、頭なんか下げないで!最後まで聞いて!四人には、ゼフ王国としての民として死んでもらい、さくら神社の住人として生活してもらいます!」
まだ四人はキョトンとしている。
「エスターさん、忘れちゃった?さくら神社は近い将来ゼフ王国から独立するんだよ?その独立する国の住人になってもらうよ!ゼフ王国の戸籍として死んでもらうってことだよ」
エスターさんは、さくら神社の将来独立を思い出し、納得してくれた。
「メルツさん、ケルン君、フィルちゃん、ゼフ王国の民でいることに未練残ってる?」
三人とも首を振る。
「私達と一緒に生活してもらえる?」
三人とも頷く。
「ギルド登録みたいなものなんだけど、氏子って言うこの神社のメンバーに入ってくれるかな?」
タマさんが追い討ちをかけるように、
「ここで生活すれば、今のような食事が毎回出来るぞえ!」と言うと…
三人は、さらに大きく頷いた。
(タマさん…胃袋鷲掴みにして落とした…)
「ちょっと頭の中に声が聞こえるけどびっくりしないでね」
と言ってさくらはスマホの【神社アプリ】から三人に氏子申請をした。
直ぐに氏子リストに、メルツ、ケルン、フィルの名前が表示された。
(よし!これで神社レベルアップ出来る!)
さくらは心の中でガッツポーズをした。
「お腹が満たされたら、今度はさっぱりしてくるぞえ!エスター、お風呂に入れてあげるぞえ!」
とタマさんがエスターさんに促した。
「お風呂に入っている間に、着替えは私がお取り寄せしておくね!」
とさくらはエスターさんに伝え、三人を連れてお風呂場に向かわせた。
「ゆっくりあったまってくるんだよ」
とおばあちゃんが声をかけた。きっとお風呂にもびっくりしてくれるに違いない。
初めての作品「さくら神社の防衛戦争」を読んでいただき、ありがとうございます。
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次話は、フィルちゃん視点の救出からお風呂上がりまでのお話です。