表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/81

孤児院救出作戦 後編

※今回の登場人物


【さくら神社】

エスター(人間)孤児院出身の元ゼフ王国大将。

シゲさん(ぬらりひょん)漁師から色々な商いをしてスグクルの創設者。

さーちゃん(コロボックル)兄妹の妹。


【孤児院】

メルツ(人間)エスターの親友。初登場。

ケルン(人間)男の子の孤児。初登場。

フィル(人間)女の子の孤児。初登場。

 草むらに入ったと思ったら、直ぐに草むらを抜け、見覚えのある孤児院の裏手に出た。

エスターは表の通りの方を見ると、いつものように人通りがある。孤児院は、王都ゼフの中心地から外れた場所に有るが、一般的な街中にある小さな平家の建物である。孤児院は特に見た目は、最後に見た時と外観は変わりない。


 隣家との隙間から見える表通りを、普段の平和な日常の様に行き交う人々が見える。孤児院で餓死したり、空腹で死の直前の者が居るなんて、エスターは到底思えなかった。何かの間違いなのでは無いだろうかと…


「誰かに見られちまう前に、孤児院に入るぞ」

エスターは無言で頷く。


 シゲさん殿は、もう一個キャラメルをさーちゃん殿に渡して

「さーは、草むらの中で待っていてくれ」

「シゲ!了解!」

敬礼をしたさーちゃん殿は、草むらに戻って行った。


(裏口も普段は鍵をかけているはずだが…)


 シゲさん殿は、懐から何か細い棒を二本取り出し、鍵穴に入れたと思ったら、すぐに鍵を開けてしまった。

(シゲさん殿は、凄腕の盗賊なのか?)


「誰かに見られちまう前に、孤児院に入るぞ」

エスターは無言で頷く。


 孤児院の中に入ったエスターは、あまりの異臭に鼻を押さえる。死体の腐敗した臭い、汚物の臭いが充満していた。シゲさん殿は、直ぐに裏口のドアを閉めた。


 エスターは裏口の扉を開けようとしたが、シゲさん殿に腕を掴まれて止められた。

「シゲさん殿、なぜ止める。こんな悪臭の中に居たら…助かるものも助からないのでは…」

「この悪臭が漏れて、誰か来たらどうするんだい?今は隠密行動してるんじゃねぇのか?」

「そうだった、すまない…」


 エスターは、自分が育った孤児院なので、屋内は何回も見ているし、数日前も見たばかりなのだが…全てが無くなっていた。家具、カーテンが何も無い。


 エスターは台所を見たが、食糧どころか、調理器具一式無くなっている。

(まるで空き家じゃないか…どういうことになっているんだ…)


 次の部屋に入ってエスターは言葉を失った。

部屋の片隅には、亡くなった孤児が並べられて、すでに腐敗が始まっている。床には汚物なのか腐敗による液なのか、遺体の下が濡れている様だった。

その対角線の部屋の片隅には、左右に子供を抱えて座っている、痩せ細って顔色の悪いメルツが居た。


 エスターは、すぐに近寄り、視線が定まらないメルツの頬を叩き…

「メルツ!しっかりしろ!ほら!メルツ!」と呼びかけた

「あなたは、だあれぇ?」力なく答えるメルツ。


 メルツの姿の変わりように、思わず駆け寄ったエスターは、マスクもウィッグも外していないことに気がついた。変装を外して、目に涙を溜めて、エスターは、メルツの肩を叩く。

「私だ、エスターだ!メルツ、私がわかるか!」

「あぁ…エスター…もう王都には戻って来ないって言っていたのに…死に場所見つけたって…エスター死んじゃったの?それが死んだ人の姿?黒ずくめになっちゃうのね…でも、私を迎えに来てくれたんでしょ?あの世に連れて行ってくれるのがエスターでよかった…」と力なくメルツが話す。


 エスターは、さくらと王都を旅立つ前に、孤児院に来て、メルツに最後の別れをしていた。エスターは、これから死地に赴き、もう王都には戻らないだろうと…今まで死んだ仲間ことを思い、自分だけが生きていることを恥に思い、ようやく自分の死に場所を見つけたと心の内を伝えていた。


 エスターとメルツは同じ歳の女同士だったので、小さい頃から仲が良く親友であった。


 メルツの左右の子供も、エスターを見て、

「エスターおねぇちゃん、天国に連れてってくれるの?」と男の子のケルンは、力なく言った。

「エスターおねぇちゃん、私も一緒に天国に連れてって…」と女の子のフィルもエスターに懇願して来た。


 戻ってくるはずの無いエスターが、初めて見る黒のラバースーツを着て目の前に現れたのだ。死んだエスターが死後の世界へと迎えに来たと思ってもおかしくは無い。


「たった数日で、何でここまで…」と呟いたエスターに、メルツが答えた。

「エスターが旅立ったあと、冒険者ギルドからの依頼と言った人達が来て、ぜーんぶ持ってっちゃった…そして私達、その人たちになんか魔法かけられちゃったみたい…」

(状態異常魔法か…酷すぎる…)

「靴すら持っていかれちゃって、井戸に水汲みに行こうとしても、玄関には冒険者ギルドから来た人が見張ってて、家から出してもらえないの…」

(飲まず、食わず、状態異常のまま放置…こんなことを考えれる人間こそが、モンスター以下の鬼畜だ…)


「確かに表には、人が見張っている奴らがいるみてぇだな」

姿を見えなく出来るシゲさん殿が確認して来たようだ。


 今の惨状の理由がわかったエスターに、

「早くそいつらに、ご利益のある水を飲ませて、少しでも楽にさせてやりな。」とシゲさん殿がエスターに呟き、龍神様のご利益のある水が入れられた吸飲みを渡した。

メルツ、ケルン、フィルには、シゲさん殿は見えていない。


「メルツ、先ずはこれを口にして」と言って、エスターは龍神様のご利益のある水を飲ませた。

続いて、ケルンとフィルにも飲ませた。

悪かった顔色は少し戻り、朦朧としていた意識も少し改善して来たようだ。

それもそのはずである。龍神様のご利益のある水は、その辺で入手出来るハイポーション以上の効果があるのだから。瞬時に状態異常は無くなり、ヒールをかけた状態になる。


 続いて、エスターは、シゲさん殿から受け取ったキャラメルを、三人の口の中に入れた。

「エスターおねぇちゃん、これ凄く甘いよぉ…」とフィルは力なく微笑みながら言った。

「本当だ…優しい味がする…」とメルツも思わず顔の力が緩む。

ケルンは、声を発することなく目を閉じているが、口が微かに動き、どのに飲み込む動作が見える。

(この三人は、まだ助かる…)


 エスターは、マスクとウィッグを付けて、メルツに肩を貸し裏口へ向かった。

「エスター…天国って歩いて行くもんなんだね」と言いながら、おぼつかない足で歩くメルツ。

「天国はそこの草むらの先だよ」と言って、二人は草むらに入った。


 エスターは直ぐに「さーちゃん殿、お願い申す」と言って呼ぶ。

すぐに小さな手がエスターの手を握り、

「エスター!お帰り!」と言って手を引っ張った。


エスターは、さーちゃん殿の案内でメルツを連れて、さくら神社の縁側前に戻って来た。


シゲも、まだ力なく、ぐったりとしているケルンとフィルを肩に乗せて裏口を出る。

裏口の扉の外に、「当孤児院は、エスターを頼りタス村に移住します」とタマが書いた半紙を張り、裏口の鍵をかけた。そしてそのまま草むらに入り、


「さー!待たせたなぁ」

「シゲ!お帰り!」と言ってシゲの手を引っ張って、さくら神社に戻った。

豚汁の美味しい匂いが鼻を刺激する、さくら神社に。


計画通りに、無事三人をさくら神社に救出完了である。

初めての作品「さくら神社の防衛戦争」を読んでいただき、ありがとうございます。

タイムリミットある中、異世界でのさくらの活躍を応援してください!


さくらの活躍を応援していただける方は、ぜひ評価(下部の☆☆☆☆☆)にて後押しお願いします。

その応援がはげみになります。


ブックマークが7→9

評価ポイントが32→36

になりました。本当に嬉しいです!ありがとうございます!


試しとして、今回から前書きに、その回に登場する人物の簡単な紹介を入れてみます。

私は、色々な話を読んでいると、登場人物が混ざって、わからなくなっちゃうんですよね。

少しでも読みやすくなれば、幸いです。


次話は、救出されてお腹ペッコペコの孤児院メンバーの食事のお話です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第9回ネット小説大賞のコンテストに
「さくら神社防衛戦争」
参加中

処女作ですが、皆様の応援、誤字脱字報告のおかげで一次審査を通過しました。心より御礼申し上げます。

「さくら神社防衛戦争」の感想
お待ちしています!

小説家になろう 勝手にランキング



新連載始めました。
『ブラック企業の次は零細ギルドでした』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ