小人のくーちゃん
リモート授業の合間に、おばあちゃんと一緒に縁側でひなたぼっこをしていると、時々庭の草むらから、どこかの民族衣装をまとった小人さんが遊びにくる。
おばあちゃんが言うには「もののけだよ。もののけは優しい子にしか心を開かないし、見えやしないものなんだよ」と教えてくれた。
今では、さくらとおばあちゃんとタマさんの三人しか島民がいない島には、もののけが住みやすい闇が多く残っているそうだ。
さくらは、小人さんのことをくーちゃんと呼んでいた。
いつもクーちゃんは人懐っこい笑顔をして、草むらからちょこちょこと小走りに寄ってきて、ひなたぼっこをしているさくらの太ももに座る。くーちゃんが、下からさくらの顔を見上げてニコニコしている姿は、愛おしく、いつもぎゅーって抱きしめてしまう。
時々抱きしめる力がつよいと、くーちゃんはじたばたと暴れて苦しさをアピールする。
「くーちゃんごめん!」と抱いている力を弱めると、ニコニコではなく、ほっぺをぷっくり膨らまして、下からさくらの顔を見上げる怒り顔のくーちゃんも可愛いとさくらは思う。
おせんべいを手渡すと、くーちゃんは怒り顔をやめ、おいしそうにパリパリ食べる。さくらなりのご機嫌取りであった。
くーちゃんは、さくらと紙風船を使って、バレーボールのパスラリーをする遊びが好きだった。
「くーちゃん! 紙風船でバレーボールしよう!」
くーちゃんは、言葉は発さないが、にこにこしなが懐から折りたたまれた紙風船を取り出し、ぷーって息を吹き込む。普通の紙風船は顔より小さい大きさだが、くーちゃんが持ってくる紙風船は、バランスボールほどの大きさになる紙風船。顔を真っ赤にして、一生懸命に膨らませているくーちゃんの愛らしさが、さくらの心を鷲づかみにしてしまう。さくらは、くーちゃんが何をしても、そのかわいさにメロメロなのだ。
紙風船の準備が出来て、さくらとくーちゃんは紙風船のラリーをする。
相手が紙風船を落とさないように、できるだけ相手に向けてパスをするのだが、軽い紙風船は、風で不規則な動きをするため、くーちゃんは紙風船を追いかけて、右へ、左へとちょこちょこと追いかけては、必死にさくらに向かってパスをする。どんな動きをしても、やっぱりくーちゃんはかわいいとさくらは思う。
おばーちゃんも二人を眺めながら、お茶をおいしそうにすする。いつものほのぼのとした光景だ。
リモート授業が再開するちょっと前の時間にセットしたアラームが鳴った。さくらは授業に戻らなければいけない。くーちゃんもそのことを理解しているのか、紙風船遊びを終わらせ、遊んでもらったお礼に名前を知らない甘い野イチゴのような果実をくれる。
「くーちゃん、ありがとう」とさくらは果実を受け取ると、嬉しそうに照れながら、くーちゃんは草むらの中に帰っていく。
病気を少しでも遅くしてくれる神秘な果実なことをさくらは知らない。
くーちゃんも遊んでくれるさくらが大好きだった。