表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/81

第一回 さくら神社会議 前編

 「さくら、早く起きるぞえ」

神社では、毎朝響くタマさんのお決まりのフレーズだ。

さくらは眠い目をごしごしと擦り、トイレを済ませ、洗面をしてから外に出た。

「ヒヒィン!」

(あれ?馬の鳴き声が聞こえた?変なのぉ〜)


寝ぼけた足取りで手水舎に向かい、手と口を清め、お賽銭箱の上に取り付けられている本坪鈴をカラカラとならし、二礼二拍手一礼をした。

(お稲荷様、今日も一日よろしくお願いします。)

心の中でお稲荷様への朝の挨拶が終わり、住居用玄関に戻ると、玄関脇には、元の世界には無かったはずの【スグクル宅配ボックス】があった。


(私、異世界転生していたんだ!)


急いで家の中に戻り、エスターさんが寝ているはずの客間の前に行く。

「エスターさん、起きてる?」

2度、3度と呼びかけてみるが反応は無い。

「失礼するね。」と一応断ってから扉を開けた。そこにはエスターさんの姿はなく、布団も綺麗に畳まれていた。ただ、窓際には、昨日ゴブリンにボロボロにされたうさぎのぬいぐるみが悲しそうにうなだれて座っているだけだった。

(エスターさん、ボロボロになっても、うさぎのぬいぐるみ大切にしてるんだね。試しに注文したぬいぐるみなのに、何か思い入れがあるのかな?)

そう思っていると、居間の方から

「さくら、朝ごはんできてるぞえ!」と催促の声が聞こえた。

「はーい!今行くー!」と言って、さくらは居間に行く。


おばあちゃんだけでなく、エスターさんも座っていた。

さくらは、エスターさんに「エスターさん、洗面とかわかった?」と聞くと

「朝起きて、馬に水をやりに出たところを、おばあちゃん殿に声を掛けてもらい、洗面方法や朝のお詣りを教えていただいたのだ」

本当は、早く起きてさくらがエスターさんにする予定だったが、数日ぶりの自分の枕で寝たため、タマさんに起こされるまで爆睡していた。


座卓の上には、これぞ純和食という物が並んでいた。

鮭の塩焼き、だし巻き卵、ほうれん草のおひたし、納豆、なめこと豆腐の味噌汁、炊き立ての白いご飯。中央にはおいなりさんが大皿に盛られている。


この世界もお箸、スプーン、フォークはある。エスターさんもお箸を使うのに抵抗が無くてよかった。

さくらは、納豆の食べ方をエスターさんに教えてあげた。

お箸でよくかき混ぜて、付属している出汁入り醤油とカラシを入れてさらに混ぜる。糸がほどよく引く様になったら、箸で納豆をすくい、箸を引っ張って納豆の糸が切れたらパクリと口に入れ、続いてご飯を食べて見せた。

エスターさんもさくらを真似して、納豆とご飯を口に入れた。

(こんなネバネバした食べ物は初めてだ…白いつぶつぶしたものも、噛むほどに甘みを感じて…お、い、し、い…)


エスターさんは味噌汁を手に取ったが、キョロキョロしている。

「お味噌…このスープはそのまま口を付けて飲むんだよ!スプーンは使わないよ〜」

と言ってさくらは飲んで見せた。

(タマさんの味噌汁の味だぁ♪お袋の味ってやつだよね!)


エスターも真似て味噌汁を飲んでみた。

(このキノコはとろみをまとっているのか…しっかりとした塩味だけでなく、深い味のするスープなんて初めてだ!)


日本食は出汁の文化である。タマさんの朝食作りは、本枯れ節を削る所から始まる。粉末の出汁パックなど使わない。


その出汁で卵をといて、砂糖を入れた甘いだし巻き卵は、さくらの好物である。

(鮭の塩焼きも美味しい!脂が乗っているから、海外の養殖のやつだよね。私は塩引き鮭よりこっちが好きなんだ!)


お味噌汁をおかわりし、ご飯が無くなれば、おいなりさんに手を伸ばし…さくらもエスターも満腹になるまで箸が止まらなかった。


おばあちゃんが入れてくれた食後のお茶を飲みながら、エスターさんが聞いてきた。

「さくら殿、この様な贅沢な食事が毎回続くのか?」

「そっかぁ〜…食文化が違いすぎるもんね…これが元の世界では普通の食事だよ。お祝い事とか有れば、さらにご馳走が出るよ!」

「さくら殿、これより上があると申すのか!」

あっさりとさくらは「そうだよ〜」と返す。


(異世界を呼び寄せた【おいなりさま】というアーティファクト…恐ろしい能力じゃないか…)


「朝食のお片付け終わったら、今後のことについて話したいんだけどいいかな?」

「さくら殿、私に異存は無い」

(エスターさんは、自分の任務だもんね)

「おばあちゃんもいいよ」

(TVが見れなくなったから、ドラマの放送時間に縛られないもんね)

「わらわは、洗い物が終わって洗濯物を干した後ならいいぞえ」

「早く始められる様に手伝うね!」


さくらは5人分の食べ終わった食器をお盆に乗せて台所に持っていく。


少し時間がありそうなので自室に戻ったエスター。

扉を開けると、窓を開けてボロボロになったうさぎのぬいぐるみに手を伸ばしている、さーちゃんと目が合った。お互い固まり…そーっと手を引っ込めていくさーちゃん。

「さーちゃん殿、昨日は一緒に膝の上に乗せてたうさぎのぬいぐるみが、一晩でボロボロになってしまったのだ。私が不甲斐ないばかりに…」と言ってエスターは目から涙が溢れた。

「エスター!泣かないで!さーも悲しくなっちゃう…」

窓から入って来たさーちゃんは、エスターにトコトコと近寄り足に抱きついて来た。

「さーちゃん殿、恥ずかしい姿を見せてすまない。」と言って涙を拭った。

さーちゃんは、首を左右に振って

「そんなことないよ!エスター、うさぎのぬいぐるみをさーが治してもいい?」

「さーちゃん殿、そんなことができるのか?」

「うん!さーはお裁縫得意だよ!ちょっと待ってて!」

と言ってさーちゃんは、トコトコと窓の外に出て行き、お裁縫箱を持って戻って来た。

ボロボロになったぬいぐるみと裁縫箱を持ってきて、エスターの前に座ったさーちゃんは、チクチクとお尻のほつれた縫い目を治し、取れ掛けた耳も綺麗に縫ってくれた。

「エスター!うさぎのぬいぐるみに名前付いてるの?」

そう言われ、エスターは、異世界から召喚され、共に極秘任務につき命を落とした勇者の名前を付けることにした。

「このうさぎの名前はタケルだよ」

視線が合わない悲しい目をして、さーちゃんに伝えた。

「タケルだね!」

うさぎの左胸に名札の様に【タケル】と刺繍された。

さらに、両方の二の腕には、さくら神社の紋章も刺繍した。

うさぎのぬいぐるみに、さーちゃんの加護とさくら神社の加護が付与された。

スキル【裁縫の極意】を持ったさーちゃんには、ちょちょいのちょいである。


完成したうさぎのぬいぐるみをエスターに渡したさーちゃんは褒めて欲しそうに見つめている。

エスターは、さーちゃんの頭を撫で

「さーちゃん殿、ありがとう…何も礼を返せない身で申し訳ない…」

「ううん、エスターが喜んでくれればそれでいいの!」


任務を全うしたさーちゃんは森に帰って行った。



みんなの都合が片付き、さくらは縁側から森に向かって

「くーちゃん!さーちゃん!出てきて!」と呼び出した。

直ぐに、くーちゃんとさーちゃんは、草むらからトコトコと出てきた。


居間に座り、くーちゃんはさくらの膝の上に、さーちゃんはエスターさんの膝の上にちょこんと座った。


さくらは、タマさん、おばあちゃん、エスターさんに

「これからのことについて話を相談したいんだ。スマホの【神社アプリ】を開いてもらえるかな」

伊達メガネにスーツ姿のナビさんが映し出された。ナビさんの背後にはホワイトボードが描かれている。

(ナビさんノリノリだ…)


「私はゼフ王国に呼ばれて転生したの。理由は、一年後にゼフ王国とバジ王国が大戦をする戦力を補強するため。でも私のスキルは使い物にならないって、ゼフ国王はガッカリしていたようだったの。それでも今居る、最前線のタス村に赴任して領主として大戦が起きたら最初の戦場になる場所だから、それに備えて準備するのが依頼されたんだ。いざタス村に来たら村人は誰も居ない廃村状態。このさくら神社から準備をゼロから始めないといけないんだよ」

「ほとんど想定内ぞえ」

「えっ!そうなの」

タマさんはうなずいた。


「わらわも、エスターに言わなければいけないことがあるぞえ」

突然振られたエスターさんはタマさんを見る。

「お主から見て、さくら神社はこの世界にとって脅威かえ?」

「タマさん殿、正直に言えば…あまりにも文明の違いがあり脅威と感じる」

「わらわも、おばあちゃんのワシも、くーも、さーも、姿を見せておらんが龍神様もこの世などどうでもいいのだえ。ただ愛するさくらを助けたいだけなので勘違いはするではないぞえ」

おばあちゃん、くーちゃん、はうなずくが、さーちゃんはじーっとしていた。

「そもそも、龍神様は神様、他のものはもののけなので人ではないぞえ。その気になればこの世を終わらせることもできるぞえ」

「そんなに戦力差があるのか…」

エスターは衝撃的な宣告にどうしたらいいのかわからなくなった。


「さくらは、どうしたいぞえ?」

「大戦を止められるなら止めたい!大戦の理由は、食糧難だけど鉱物資源豊富なバジ王国と食糧は豊富だけど鉱物資源は少ないゼフ王国の国王同士のもの別れした会議がきっかけらしいの。生活している国民には迷惑な話じゃない?お互いに仲良く出来たらいいだけだと思うんだけどなぁ」

「もう、戻れないんだ…」とエスターは言う。

「それもおかしいんだよね。大戦するのは一年後って約束して準備に入ったのに、エスターさんと亡くなった勇者はバジ王国に奇襲したんでしょ?スキル【軍師】なんて凄そうなものを持ってる勇者がそんな奇襲作戦なんて立てるのかな…それにね、今だから言えることなんだけど、ゼフ王国の王都に、バジ王国の人や武器商人のノスタルの人普通に歩いていたよ」

「な、なんだって!」

エスターはさらに驚く。


「どうやら、何か裏があるようだな」

(ん?誰??)

その時、さくらは初めて気が付いた。居間にお茶を飲んでいるシゲさんが居ることを…


「シゲさん!どうしてここに!!」

「俺もさくらちゃんが心配でこっちに来ちゃったよ」

と言って、日焼けした海の男はガハハと笑った。

「もしかしてシゲさんも…もののけなの…」

「ぬらりとひょんじゃ!」

(ぬらりひょん!!)


さくらは情報ウィンドでシゲさんの詳細を見た。


名前:シゲ レベル:999/999

性別:男性 年齢:不明

種族:ぬらりひょん

称号:なし

状態:ふつう

所属:未所属

ジョブ:漁師

パーティー:未参加

HP:SSS

MP:SSS

攻撃力:D

防御力:SSS

魔法攻撃力:D

魔法防御力:SSS

スキル:【策略家】【経営者】【諜報】【情報操作】【いたずら好き】


(ぬらりひょんだったんだ…この神社と一緒に来てたけど、見えていなかっただけなのね…)


ぬらりひょんは、どんな家でも、疑われることが無く入ることができ、その場に居るにも関わらす存在を知られることがないもののけである。カレーライスもペロリと食べ、朝ごはんも美味しく食べていたのだ。


「ちょっとばかりゼフ王国の内部見てくらぁ〜。くー送り迎えしてくれるか?」

「シゲいいよー」

(何?送り迎えってなんなの??)

「さくらや、小人は草むらがあるなら何処でも出入り出来る森の精霊じゃ。草むらに入れば、一瞬で望んだ草むらに出ることができるんじゃよ」

おばあちゃんが説明してくれた。その説明が正しいことを示す様に、くーちゃんはうんうんとうなずいている。


「ちーとばかし行ってくる。さくらちゃん、これ便利だろ!」と言って、魔力充電対応スマホを取り出した。

(何でシゲさんも持ってるの…あっ)

さくらは思い出した。【スグクル】の創業者って、離島の漁師から一代で築き上げたやり手だったことを…


「もしかして【スグクル】ってシゲさんの会社?」

「元だけどな♪タダでくれて来たよ。無限に買い物出来るのを条件にしてな♪」

シゲさんはニカって笑い草むらに消えていった。



初めての作品「さくら神社の防衛戦争」を読んでいただき、ありがとうございます。

タイムリミットある中、異世界でのさくらの活躍を応援してください!


さくらの活躍を応援していただける方は、ぜひ評価(下部の☆☆☆☆☆)にて後押しお願いします。

その応援がはげみになります。


ブックマークが3→4

評価ポイントが16→18

になりました。本当に嬉しいです!ありがとうございます!


次話は、ゼフ王国の王都に潜入したシゲさんの情報が明らかになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第9回ネット小説大賞のコンテストに
「さくら神社防衛戦争」
参加中

処女作ですが、皆様の応援、誤字脱字報告のおかげで一次審査を通過しました。心より御礼申し上げます。

「さくら神社防衛戦争」の感想
お待ちしています!

小説家になろう 勝手にランキング



新連載始めました。
『ブラック企業の次は零細ギルドでした』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ