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エスターさん、異世界の文化を受け入れる

 【スグクル】で届いた品を持って居間に戻る。

「この油揚げさえ手に入る世なら、わらわは満足じゃえ」

と言いながら、タマさんはスマホをポチポチしている。

(きっと、油揚げの追加注文してるんだろうね)


 おばあちゃんは注文した割れせんべいの袋を開いて、いつもおせんべい入れに愛用している唐塗の京鉢によそって、パーティ開けしたチョコレートの脇に置いた。育ちの違いが出ているようだ。せめてさくらもお皿にチョコレートをよそうべきだった。


 おばあちゃんもさくらもお徳用を無意識に選ぶ庶民派である。【スグクル】でいっぱい∞ポイントを使って買い物をしなければいけないのに…


 さくらは隣に座っているエスターさんに

「エスターさん、これが甘いチョコレート、こっちがあまじょっぱいおせんべい。交互に食べると止まらなくなっちゃうんだ。私もエスターさんにこの世界の食事を紹介してもらってびっくりしたんだよ。エスターさんも私の居たら世界のお菓子食べてびっくりして!」

「これらが、さくら殿が居た世界のお菓子なのだな」

と言い、エスターはビターチョコレートを手に取り、口にする。


 どんな反応するかドキドキしながら、さくらはエスターさんを見ていると…数回噛んだ後、エスターさんは目を見開いて固まった。

(なんだこれは!口の中で溶けて…甘くて…ほろ苦くて…美味しい!こんな美味しい食べ物初めて食べたぞ)


 数秒後、エスターはゆっくりとさくらの方を見て

「お、い、し、い…」とつぶやいた。


 フリーズ状態のエスターさんに、おせんべいを指差し

「こっちのおせんべいも食べて見て!ちょっと歯応えあるから気をつけてね」


 エスターは無言のまま頷き、ざらめが付いているおせんべいを口にした。

(確かに固いが…甘さの中に深い味わいがあり、生地であろう焼いた穀物が香ばしくて…美味しい!)


 再度フリーズ状態になっているエスターさんに、

「おせんべいの後は、お茶を飲むんだよ!」

と最後にお茶を勧めた。


(さっき口にしたら、体の緊張がほぐれ、体があったかくなった飲み物だな…)

 エスターは言われるまま、湯呑みを手に取り、お茶を飲んだ。思わず、ホッと身体中の毒素が吐き出されるような息を吐いた。


「さくら殿は、こんな美味しい食べ物に囲まれた世界に住んでいたのだな。異世界からの転生者であり、新しく領主になるので、出来るだけ良い宿や食事を選んでいたのだが…さくら殿を十分にもてなす事が出来ずにいたのだな。申し訳ない」

「エスターさん、そんな真剣に謝らないで!文化の違いは、国によっても違うんだもん、別の世界と比べたら大きく違っても仕方ないよ。今まではこの世界に私が合わせて来たんだから、今度はエスターさんが私たちの文化に合わせてね!領主様の命令です!」


 さくらは渾身のドヤ顔で無い胸を反らしてエスターさんに領主としての命令をした。文明、文化からして、今のさくら神社は、この世界ではチートすぎるでしょ♪ エスターさんに遠慮することなく、さくら神社に馴染んで欲しい気持ちが半分、調子に乗っているのが半分である。

「わかった。これからはさくら殿の文化に合わせることにしよう」

「えへへ♪」

さくらは元の世界のお菓子がエスターさんに褒められ、自分が褒められたように感じて嬉しかった。


 空気をよんで我慢していたが、今が狙いどき!と思ったくーちゃんが、さくらの肘を引くっ張り

「さくら!くーにもチョコレートとって」と催促をしてきた。

「くーちゃんごめんね、何味がいい?」

「ホワイトチョコ!」

さくらはホワイトチョコを割って、くーちゃんが食べやすい大きさにして渡し、残りは自分の口に入れた。


 それを見ていた、さーちゃんもエスターの肘をクイクイと引っ張り

「エスター!さーも、さっきと一緒のやつちょうだい」と催促をしてきた。

(下からそんな無邪気な表情で見上げてくるなんて、可愛いすぎる…)


 とろけそうな顔をなんとか理性を振る動員させ、すました顔でイチゴチョコレートを手に取り、さくらを真似て、さーちゃんが食べやすい大きさに割って渡し、残りは自分の口に入れた。

(これは、甘いだけではなく、酸味のある果実も練り込んであるのか!美味しいすぎる…)


 エスターはお菓子の食文化、スマホによるお取り寄せ(これはチートが含まれている)だけで、さくらの元居た世界の文化には勝てないと悟った。


 さくらは頭の中で呼びかけた。

「おーい!ナビさーんちょっと教えて!」

「ちょっとだけでいいんですね!」

(あれ?なんかナビさんの返答にトゲがある?)

「ねーねー!ナビさん…なんか怒ってる?」

「怒ってなんか居ないです!仲間外れにされて拗ねてるだけです。どうせ私なんて…」

「ナビさん?どうしたの」

「だって…いくら待っていても、さくらさん、私を氏子に誘ってくれないんですもん…」

「えっ!ナビさんも誘えるの?人間じゃないのに??」

「人間じゃないのに、もののけや神にまで氏子申請をしていたじゃないですか!」

「あっ…本当だ…。ナビさん、ごめんなさい。ナビさんも、さくら神社の氏子になってくれますか?」

「当たり前じゃないですか!さくら神社の氏子になります!」


 神社アプリの氏子一覧にナビさんの名前が追加された。


「仲間外れにしていたんじゃないんだよ。誘えるって思わなかったの。これからもナビさんよろしくね!」

「はい!」

「それで聞きたかったのは…神社経営ゲーム画面って、スマホの【神社アプリ】と一緒なのかな?」

「一緒です。ただし、氏子にどの機能を解放するかは神主のさくらさんが設定出来ます。さくらさんはフル権限です」

「なるほどね、わかったよ」


 さくらは、【神社アプリ】を開き、【施設設置、撤去】を押して、馬小屋を設置した。

(王都からタス村まで頑張ってくれたもんね、ゆっくり休ませてあげないとね)


 さくらは一度エスターさんと一緒に外に出て、2頭の馬を馬車から外し、馬小屋に連れて行った。

真新しい藁の上に、馬は気持ち良さそうに横になった。近い場所に、しろさん、タマさんの強い霊気を浴び続けて、この2頭の馬は平気なのだろうか…


 居間に戻ると顔見せお茶会の片付けをしていた。

くーちゃんとさーちゃんは森に戻ったそうだ。

(くーちゃんとさーちゃんにはお部屋用意しなくていいのかな?)


「さくらや、お盆に湯呑みを乗せて台所まで運ぶぞえ」

「うん!」


 お盆に湯呑みを乗せていくさくら。

(あれ?くーちゃんとさーちゃんは湯呑み使って居ないし、私でしょ、おばあちゃんでしょ、タマさんでしょ、エスターさん…湯呑みなんで5つあるんだろう…全部お茶を飲んだ後のようだし…おばあちゃん一個余分に間違って入れちゃったのかな?)


 さくらは、湯呑みを乗せたお盆を持って台所に行った。台所も今までと一緒だった。

「さくらは今晩は何が食べたいぞえ?」

「カレーライス!」

「今晩はカレーライスにするぞえ」

「やったぁ!」

(もう薄い塩味のスープじゃないんだ!固いモソモソしたパンじゃなくお米も食べれる!)


 夕飯までの間、さくらは、エスターさんを連れて、さくら神社を案内した。

鳥居から本殿前まで続く石畳の真ん中は神様の通り道のため、左右の端っこを歩く事。手水舎での清め所作。参拝方法。神社に敵意がある者は、余程でないと境内には入れないこと。敷き詰められている砂利は、実態が無い物が通っても音がしない確認用なことも教えた。


 住居スペースに移動して、客間の一室をエスターさん用の部屋にして自由にしていい事。トイレとウォシュレットの説明。先ほどまで顔見せお茶会をしていた、みんなが普段くつろぐ居間を案内しにきたところ、おばあちゃんがリモコンと格闘していた。

「どのチャンネルも映らん…」

電源を入れたTVの画面には、電波が受信出来ない旨のメッセージが出ていた。

(さすがにTVは映らないよね…)


 唯一の楽しみであるドラマが奪われたおばあちゃんは、何回もTVのスイッチを入れたり切ったりしている。無駄だとわかってもやめられないのだろう。


「おばあちゃん、ドラマならDVDBOX買えば?【スグクル】で注文できるじゃん!あと、ポータブルのDVDプレーヤーもあれば、好きな場所でドラマ見放題だよ!」


 おばあちゃんは、さくらの手を握りしめ…

「さすがさくらじゃ!DVD BOXがあったのぉ」

と言いながら、握りしめたさくらの手を上下に振って、興奮して居た。地獄に仏の様である。


 さくらに教えてもらいながら【スグクル】でDVDプレーヤーとお奉行様の時代劇DVDBOXを注文した。【スグクル宅配BOX】に行くと、すでに商品は届いて居た。おばあちゃんは、届いたDVDプレーヤーの使い方を、さくらから教わると、DVDBOXとDVDプレーヤーを持って自室に戻って行った。おばあちゃんの引きこもりが始まるのかもしれない。


 おばあちゃんが居間から自室に戻った頃には。台所からカレーのいい匂いがしてきた。

「さくら、お風呂に入ってしまうぞえ!エスターも一緒に入ってさくらに使い方を教えてもらうぞえ」

「はーい!」

「タマさん殿、かしこまりました」


 自分の着替えと、まだ下ろしていない上下のフリーズと新しい下着を持って脱衣所に行く。転生してからは、水に濡らした布を絞って体を拭くだけだった。

(お風呂に浸かれる!髪もゴワゴワしていたから綺麗に洗ってリンスも出来る!)


「先ずはここで全部脱ぐんだよ。脱いだ物は、この洗濯籠に入れてね」

「裸になるのか?布で体を拭くのではないのか?」

「裸になって次の部屋に行くんだよ!」

と言いながら、行儀悪く脱いだ物からぽいぽいと洗濯籠に投げていく。

あっという間に裸になったさくらは、戸惑っているエスターさんに

「エスターさんはやくぅ〜。私が風邪ひいちゃうよう」と急かす。


(かぜとはなんだ?覚悟を決めて脱ぐか…)

恥ずかしそうに脱ぎ、脱いだ物を洗濯籠に入れるエスター。


 裸になったエスターさんの体には筋肉質で、あちこちに刀傷があった。

(同じくらいの年齢なのに、エスターさん…過酷な世界で生きてきたんだね…)

さくらは、もちもちした自分の二の腕を揉んで、体の違いを感じた。


 2人は浴室に入り、

「この桶で先ずは体を流します!」

「こうするのか…」

さくらを真似てエスターも体に浴槽から桶でお湯をすくい、肩からかける。

(あたたかくて気持ち良いが、なんて贅沢なんだ…)


「次は、このモコモコしたものに、ボディーソープをプシュっと押して出して、くしゅくしゅします!すると泡立ちます!」

エスターは、さくらに続いて真似る。


「後は、腕から順番に体をこの泡だったモコモコで優しく洗っていきます!」

(このモコモコした泡、良い匂いがする…さくら殿は元の世界では貴族の称号を持った神官だったに違いない…)


「洗い終わったら、浴槽から桶でお湯をすくって体に付いている泡を洗い流します!」

さくらを真似てボディーソープを洗い流したエスターは驚く。

「さくら殿!肌が…肌がすべすべするぞ!」

「気持ちよくて、さっぱりしたでしょ!」

エスターは無言でうなずく。


「今日は久しぶりのお風呂だから先に髪を洗うよ!」

と言って、さくらはシャワーを手にし、エスターさんをお風呂場の椅子に座らせる。

「こっちがシャンプーで、こっちがリンスね!シャンプーは汚れを落として、リンスが髪をすべすべにして髪を保護してくれるんだよ。今日は私が洗ってあげるね。だからエスターさんは、目を閉じてじっとしていてね!」

「わかった」


 さくらは、シャワーで一度エスターさんの髪を濡らし、シャンプーをしたが、汚れが多いので2回シャンプーをした。そしてリンスを付けて軽く流した。

「さくら殿、その温かいお湯が滝のように出る物はなんなのだ?」

「これはシャワーだよ。青い蛇口を回すと水、赤い蛇口を回すとお湯、ちょっと熱かったらお湯に少し水を足してね」

「こんな便利な物があるのか…」


「エスターさんは浴槽に浸かっててね。私も髪洗っちゃう!」

エスターは初めて湯船を経験した。水浴びとは違い、肩まで浸かると、「あぁー」と思わず声が出た。

(エスターさん、気持ち良さそう)

そう思いながら、手慣れた手つきで、さくらは髪を洗い、エスターさんの隣に入る。

さくら神社の浴槽は大きいのである。ソーラーパネルの湯沸かしに地下水。無料でお風呂使い放題だからだ。


「エスターさん、お風呂気持ち良いでしょ!」

「さくら殿、こんな気持ちがいいのは初めてだ」

「でしょー!これから毎日入れるよ!」

「今日特別だったのではないのか?」

「ううん、毎日だよ!晩御飯前に入らないとタマさんに怒られちゃうよ!」

「わ、わかった…こんな所で死ぬわけにはいかないからな」

(いやいや、さすがにお風呂に入らないだけでタマさんに殺されないよ…修行という名の半殺しはあるけど…)


 その後、エスターさんは、タオルの柔らかさと吸水力に声を失い、ドライヤーに怯え、化粧水で潤いを与えた自分の肌に驚いていた。異世界の下着を付けて上下のフリーズを着させるのも忘れない。エスターさんを早く異世界文化に慣れさせるためだ。


 しかし…この後、今日一番の異文化が待っているのであった。


 さくらとエスターが、お風呂を上がって居間に行くと、カレーライスが並んでいた。

塩味のみのこの世界で生きてきたエスターにスパイスの洗礼が待っているのである。


「カレーの匂い嗅ぐだけで、お腹ペッコペコになっちゃう。また食べられるなんて夢見たい!」

もちろん食材は【スグクル】でタマさんがお取り寄せし、ルーはいつも使っているルーである。さくらが子供の頃から食べている変わらない味。


 おばあちゃん、タマさん、エスターさんがカレーライスの前に座り…

「冷めないうちに食べるぞえ。おかわりも、たーんとあるぞえ。」

と言うと真っ先に、さくらは手を合わせて

「いっただきまーす!」と言ってスプーンを手にしてカレーライスを口に入れた。

(これよこれ、この味だよ!自分の家に帰ってきたって感じがするよ!)


さくらの真似をして、エスターも顔の前で手を合わせて

「いただきます」と言ってスプーンを手にしてカレーライスを口にする。

(なんだこの複雑な味のする食べ物は…食べれば食べるほど、止まらなくなるではないか…魅了の魔法でもかかっているのか?)


 理由は違うが、カレーライスを口にしてスプーンが止まらない2人を見て、おばあちゃんもタマさんもニコニコして見ていた。


しかし2人は気がついて居ない。カレーライスが5つ並んでいることを…

タマさんも予想して居なかった…さくらとエスターがおかわりを2杯もすることを…


エスターは初めて知った。これが満腹というものかと…

初めての作品「さくら神社の防衛戦争」を読んでいただき、ありがとうございます。

タイムリミットある中、異世界でのさくらの活躍を応援してください!


さくらの活躍を応援していただける方は、ぜひ評価(下部の☆☆☆☆☆)にて後押しお願いします。

その応援がはげみになります。


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次話は、さくら神社で迎える初めての夜の続きです。

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