異世界版【スグクル】
「さくらさん、神社経営ゲーム画面の【施設設置、撤去】項目から【スグクル宅配ボックス】を境内の好きな場所に設置して下さい」
「う、うん」
さくらは、ナビさんの説明通りに自分だけが見えている半透明なシステム画面を操作して、【スグクル宅配ボックス】を住居用玄関脇に設置した。
元々孤島にあった神社のため、屋根にはソーラーパネルによる電力供給、地下水による水道(しろさん加護により地下水脈に自動接続済み。)、トイレなどの汚物や下水は地下タンクに貯まるようになっている。さくらは、自分で設置した【スグクル宅配ボックス】を住居玄関に行って確認した。
自動で玄関脇に屋外用電源コンセントが取り付けられており、黄色い【スグクル宅配ボックス】が設置されていた。
(雑誌とかで、都会の駅や大きなスーパーなどに設置されているいつでも受け取り可能なやつじゃん!異世界になって初めて見た!)
スグクルは、さくらの元居た世界ではシェアNo1のネット通販である。
「さくらさん、いつもスグクルに注文しているタブレットを持って来てください」
「うん!」
住居用玄関から入って、見慣れた廊下を通り、自分の部屋に入った。生前のままの自室だった。
(そのままだぁ!)
タブレットを手にして、【スグクル】アイコンを開いた。すると画面上に「異世界対応板にアップデートしますか?はい/いいえ」と聞いてきた。さくらは即「はい」を選択した。
しばらくすると、見慣れた【スグクル】の画面が表示された。
「ナビさん、異世界から元の世界にネット繋がっているの?」
「ブラウザーでネット閲覧などは出来ません。一般的にタブレットやスマホで使用出来るのは、通販の【スグクル】、異世界版【マップ】、写真や動画が撮れる【カメラ】、会話を録音できる【ボイスレコーダー】、SNSの【緑】を利用しての登録者間の通話や文字会話、写真や動画のやり取りだけです。あとは、さくら神社に所属する人だけが使える【神社アプリ】です」
「Wi-Fiのアンテが届かない自宅以外は?」
「魔力を消費して繋がります。」
(おぉ!異世界凄い!)
タブレットの画面に映る【スグクル】に自分のIDとパスワードでログインしてみた。ユーザー名がさくらと表示されていた。
(スグクルにログイン出来た!)
名前の脇に、【スグクル】からのお知らせがあるアイコンが点滅していた。さくらは、お知らせをタップした。
「異世界版スグクルオープンキャンペーン!スロットで777が出ればポイント∞付与チャンス!」と出ていた。
さくらはキャンペーン画面を押して、スロット挑戦ボタンを押す。
画面上ではドラムが3つ回転している…
一つ目の停止ボタンを押した…7
二つ目の停止ボタンを押した…7
画面には「超激アツ!」の文字がカットインする。ここまではよくあるお決まりのパターンだ。最後ゆっくりと7が停止しそうになって、一段ずれて止まるのしか見たことが無い。しかし、今のさくらには、座敷わらしであるおばあちゃんから【幸運】が付与されている。
ドキドキしながら、さくらは最後の停止ボタンを押した…7
画面上では紙吹雪が舞い、くす玉が割れ、「∞ポイントおめでとう!」の文字が表示されている。
その下には、「さくらさんは、今後どの商品購入をしても、∞ポイントが適用されお支払い請求は発生しません。」と書いてあった。
(ウソ…そんな奇跡なんてあるの?)
さくらは試しに、オススメ商品「魔力充電対応スグクルスマホ」を一個購入してみた。配送先が「さくら神社宅配ボックス」となっており、宅配時間が即時となっていた。
(即時って何!!)
注文が終わって住居玄関脇の【スグクル宅配ボックス】を確認した。宅配ボックスにタブレットに表示されている2次元コードをスキャンさせると、一つの扉が解除され、「魔力充電対応スマホ」が届いていた。文字通りスグクルになっている。購入履歴を見ると、支払いは全額ポイント使用になっていた。
試しにもう一度「割れチョコお徳用(大)」を注文してみた。注文ボタンを押すと同時に【スグクル宅配ボックス】に届いた。購入履歴を確認したが、今回も支払いは全額ポイント使用になっていた。
(あはは…何これ…ネット通販が無料で使い放題、しかも即時配達なんて、ここは夢の世界?)
「さくらさん!さくらさん!」
(はっ!ナビさんが呼んでる!)
「ナビさんごめんね、あまりの出来事にびっくりしちゃって…」
「やっとさくらさんが反応してくれました。【スグクル】はスキル【引きこもり】の機能の一つです。【スグクルで購入した商品金額と同じポイント数が神社ポイントに付与されるようリンクさせますか?」
「もちろん!ナビさんお願いします!」
「【スグクル】と神社ポイントのリンクが成功しました」
「【スグクル】の∞ポイントによる購入は、さくら神社所属全員に適用されました。」
(みんなの分の「魔力充電対応スマホ」注文しなきゃ!【スグクル】が使えれば、食品や日用品雑貨…服も買えちゃうじゃん!エスターさんのスエット…グレーでいいよね)
さくらは、一度自室に戻り着なれた部屋着に着替えてから、両手に抱えるほど注文した品を持って、みんなを置き去りにした縁側に戻る。
(スキル【引きこもり】最高!)
スキル【引きこもり】が凄いのでは無い。おばあちゃんの【幸運】のおかげなのである。
ちょっと前までは絶望していたさくらはもう居ない。
「さくら殿その姿に、両手に抱えている物はどうしたのだ?」
「えへへ、エスターさん、この姿が、本来の私なの!抱えているものについては、これから説明するね!」
全員居間へと移動した。裸足で家の中を歩く文化がないからか、エスターは少し居心地が悪そうである。エスター以外は今の座卓の定位置に座り、エスターはさくらの隣に促された。
さくらはアーティファクトのお稲荷様の効果としての神社システムを説明した。神社ポイントを稼いで神社を発展させ防衛特化の要塞の様にしたいことを伝えた。その上で、所属をさくら神社にしていいか確認をした。
エスターさんには反対されるかと心配していたが、快く賛同してくれた。
さくらはタブレットの【神社アプリ】から、氏子申請(ギルドメンバー勧誘申請)をする。
申請された人は、ビクってしている。(きっとナビさんから「さくら神社に所属しますか?」ってきかれてるんだろうな。)
【さくら神社】アプリの氏子リスト項目には、
・さくら
・タマ
・ワシ(おばあちゃん)
・エスター
・くー
・さー
・しろ
と表示された。
きっとしろさんは軒下から聞いているのだろう。
氏子申請をやっている間に、おばあちゃんが全員にお茶を入れてくれていた。
(やっぱりおばあちゃんが入れてくれる茶柱の立っているお茶は美味しいし、ホッとするよ)
初めて見る緑色の暖かい液体に戸惑いを見せていたエスターさんも、周りが飲んでいるのを見て口にして、ほっと緊張が解けている様だ。おばあちゃんのお茶には癒やし効果も含まれているし、沸かした水も龍神様の加護が付与されているので、その辺で売られているポーションより回復や状態異常解除に効果がある飲み物である。何より幸運のお茶なのである。
私も試しに購入した「割れチョコお徳用(大)」をパーティ開け(袋の背中部分からH字に開いて広げる)をして座卓の中央に広げた。
定位置であるさくらの膝の上にちょこんと座って、割れチョコの山に釘付けになっている、くーちゃんとさーちゃん兄妹。さくらは、小さいミルクチョコレートのかけらを、くーちゃんに渡した。くーちゃんは嬉しそうに頬に溶けたミルクチョコレートを付けて食べている。(可愛すぎる♪)
そのやり方を見たエスターさんが、私の膝の上のエスターさんよりにちょこんと座り、くーちゃんを羨ましそうに見ている、さーちゃんにイチゴチョコレートのかけらを渡した。人見知りのさーちゃんは、最初受け取るべきかどうか悩んで居たが、イチゴチョコレートの誘惑に負けて受け取り、私の膝の上からエスターさんの膝の上に移動し、美味しそうに食べている。その姿にエスターさんがメロメロになっているのがわかった。
さーちゃんの定位置が決まった瞬間である。エスターさんは、たった一回のさーちゃんにイチゴチョコレートで餌付けしただけで懐かせた。恐るべしテイマーである。
さくらが次に説明したのは、「魔力充電対応スマホ」である。
渡したのは、タマさん、おばあちゃん、エスターさんの3人。私の分も購入したので、一緒にスマホの初期設定をする。スマホの画面に出るのは、【スグクル】、【マップ】、【カメラ】、【緑】、【神社アプリ】の5つのアイコンだけである。
最初に【緑】の初期設定をした。続いて【スグクル】を開くと【緑のアカウントでログインしますか】と聞いてくるので、はいを選択するように説明する。私だけは所有しているか【スグクル】のアカウントでログインした。
(うん、私の名前の脇のポイントは∞マークのままだ)
エスターさんのスマホの【スグクル】のポイント欄も∞マークになっていた。付けて、さくらはタマさんとおばあちゃんの【スグクル】画面を確認し、ポイント欄が∞マークになっているのを確認した。
(きちんと∞ポイントになってる!よかったぁ〜)
初めて聞くエスターさんにわかりやすい様にネット通販について説明する。商品を購入できるとは理解してもらえた様だ。そして、購入代金がかからない∞ポイントについて説明し、住居玄関脇に【スグクル宅配ボックス】が設置されており、即時配達完了することを説明した。
エスターさんはもちろん、離島で週1回のシゲさん便に慣れているタマさんとおばあちゃんですら信用していなかった。
無駄遣いも神社の為になるので、試しに好きなものを検索して購入することにした。
タマさんはブレる事なく【匠こだわりの特選油揚げ】。おばあちゃんは(割れせんべいお徳用(大)。エスターさんは可愛らしいうさぎのデフォルメされたぬいぐるみを選んだ。
(エスターさんは、可愛いい物が好きなんだね)
みんなを連れて、住居玄関脇に設置された黄色い【スグクル宅配ボックス】前にやってきた。各々のスマホの二次元コードをスキャンすると各人の名前が液晶表示されている扉のロックが開き、注文した商品が届いていた。
タマさんの【匠こだわりの特選油揚げ】は、きちんと冷蔵庫のボックスに届いていた。
以前タマさんが言っていた、「油揚げの無い世界なぞ、わらわが終わらせてやるぞえ」が実行されないことが確定した。
(そういえば、【スグクル】の創業者って、離島の漁師から一代で築き上げたやり手だって雑誌の見出しで見たことあるなぁ。私とは住む世界が違うね)
初めての作品「さくら神社の防衛戦争」を読んでいただき、ありがとうございます。
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その応援がはげみになります。
次話は、さくら神社で迎える初めての夜です