再会
突然訪れた自分の死を受け入れ、知らない世界に召還され、危険な地に赴任することになったさくらは、ずっと気を張っていた。補佐として一緒に同行してくれているエスターにもまだ素直に心を許せる関係ではない。
タス村の絶望的な状況…目の当たりにした村民の死。一年後には、ここは戦場になってしまう現実。さくらにとって良い状況は何一つなかった。
そんな恐怖と不安に押しつぶされそうなさくらに、突然聞こえた、タマさんの声にすべてが崩壊してしまった。さくらは豊満なタマさんの胸に飛びつき、ぎゅーって抱きしめ…
「タマさーーーん!タマさーーん!」
とタマを呼びながら、さくらは顔をくしゃくしゃにして泣いていた。タマはやさしくさくらの頭をなで
「一人で知らない世界に来て心細いかったのだろえ」
「うん、一人でこわかったよぉ~えーん」
「わらわが一緒におるから、安心するぞえ」
「タマさーーん、ありがとう…ぐすん…」
さくらが、獣人に抱き着いて落ち着くまで、エスターは二人を警戒して見ていた。
この世界にも獣人は居るが、愛玩用に流通する奴隷がほとんどである。エスターは、目の前の獣人は愛玩奴隷などではなく、百戦錬磨の戦士のようであり、妖艶な魔物のようでもあると感じ、動けないでいた。
「さくらや、今まで陰でこっそり見守ってたから、大体の事情はしっておるぞえ。それでも、その子をわらわに紹介して欲しいぞえ」
突然の出来事で取り乱していたことに気が付いたさくら。
鼻をすすり、真っ赤になった目から涙をぬぐい、
「一緒にこの地に赴任してくれたエスターさん」
「こっちは、私の母親代わりって話をしていたタマさん」
「私の名はエスター。元軍人だったが、今は一般市民として、さくら殿の補佐を命じられ、この地に同行して赴任した。タマさん殿、これからよろしくおねがいしたい」
「わらわは、タマぞえ。エスターも清い心を持っているようぞえ」
「さくら殿。さくら殿の住んでいた世界でも、獣人が居る世だったのだな」
「獣人?」
そういわれ、さくらはタマさんを見た。以前にはなかったモフ耳にふかふかした狐のしっぽが見えている。
(あれ?タマさん…感動の再会なのにコスプレしていたずら?)
と思ったが、情報ウィンドウでタマの詳細を見て、さくらはびっくりした。
名前:タマ レベル:999/999
性別:女性 年齢:秘密♪
種族:九尾の狐
称号:なし
状態:ふつう
所属:未所属
ジョブ:巫女
パーティー:未参加
HP:SSS
MP:SSS
攻撃力:SSS
防御力:SSS
魔法攻撃力:SSS
魔法防御力:SSS
スキル:【武神】【巫女】【お母さん】【指導者】【情報操作】【いたずら好き】
(タマさん人間じゃなかったの!!ステータスSSSしか無いって…Sで神話級って言っていたのにSSSって何なの!)
「タマさんって、人間じゃなく九尾の狐だったの?」
「さくらにばれてしまったぞえ」
いたずらがばれたような表情をして、ぺろりと舌を出してタマさんは、さくらの質問に答えた。
今まで母親代わりだったタマさんが九尾の狐だった衝撃の事実に、さくらは戸惑った。
でも、抱き着いた時のタマさんの匂いは、いつものタマさんの匂いに間違いなかった。
「エスターさん、私も今初めて知ったんだけど…母親代わりのタマさん…九尾の狐っていうもののけだったみたい…」
「もののけというのは、どういうものなのだ?」
「良い妖怪?こっちの世界だと、良いモンスター?」
「さくら、モンスターとはひどいぞえ!妖精と言ってほしいぞえ!」
(確かに、モンスターというより妖精の方が例えがいいね)
「タマさん、ごめんなさい。心の清らかな人にしか見えない妖精さんです」
うんうんと納得したタマさんは、さらに驚くことを言った。
「さくら、縁側に行ってみるぞえ!」
(えっ!まさか…)
さくらは神社の境内から駆け出し、自宅の縁側に行くと…
お茶をすすって、にこにこしているおばあちゃんが縁側に座っていた。
今日二度目のさくら崩壊である。
「おばーちゃーん!」
と叫びながら、さくらは、小さいおばあちゃんを抱きしめる。
「さくらは、ここまでよく頑張って耐えたね。おばあちゃんも陰で見てたんだよ」
「ありがとう、おばあちゃん!」
涙と鼻水がとまらないさくらが落ち着くまで、おばあちゃんは、しわしわの手でさくらの手を握ってくれていた。
さくらは、もしかと思い情報ウィンドウでおばあちゃんを見てみた。
名前:ワシ レベル:999/999
性別:女性 年齢:測定不可
種族:座敷童
称号:なし
状態:ふつう
所属:未所属
ジョブ:おばあちゃん
パーティー:未参加
HP:SSS
MP:SSS
攻撃力:E
防御力:SSS
魔法攻撃力:E
魔法防御力:SSS
スキル:【幸運】【おばあちゃん】【無条件の愛】【きまぐれ】
(おばあちゃんもなの!!)
「おばあちゃん…座敷童だったの?」
「おやおや、さくらに気がつかれてしまったのかの」
特に変わるそぶりも無く、ニコニコとした表情でおばあちゃんは答えた。
(お茶の茶柱もそのせい?)
おばあちゃんの正体にも驚いているさくらの背中に何かが当たった。
振り返ると、足元に転がっている紙風船とニコニコした表情のくーちゃんが居た。
三度目のさくら崩壊である。
いつものくーちゃんならじたばた暴れるほど強く抱きしめてしまっていたが、今回はされるがままのくーちゃん。空気が読める小人である。
さすがに、さくらでもくーちゃんは人間ではないことは気が付いている。前世で、おばあちゃんからもののけとも聞いている。
やっぱり情報ウィンドウでくーちゃんを確かめた。
名前:くーちゃん レベル:3/999
性別:男 年齢:測定不可
種族:コロボックル
称号:なし
状態:ふつう
所属:未所属
ジョブ:森のパトロール
パーティー:未参加
HP:D
MP:D
攻撃力:D
防御力:D
魔法攻撃力:E
魔法防御力:E
スキル:【森の精霊】【鍛冶の極意】【惑わす者】
「くーちゃん、コロボックルだったの!」
「えへへ…うん!」
「えぇ!!!くーちゃんがしゃべった!」
「本当だー!さくらと話せるー!」
初めて会話ができて喜ぶ二人。そして、くーちゃんがさらにさくらをびっくりさせることを言った。
「さくらー!人見知りの妹もこの世界に、一緒に付いてきちゃった!」
(くーちゃん!妹がいたの!!)
くーちゃんの背後の草むらに、くーちゃんそっくりな長い髪の小人さんが顔を出していた。
恥ずかしそうに、ちかよってきて、くーちゃんの背中に隠れてさくらをこっそり見ている。
(なんてかわいいの!きっと抱きしめたらびっくりして怖がるよね…)
さくらは、草から出てきた小人さんだったので、草の頭文字からくーちゃんと名前を付けていた。よって、さくらのネーミングセンスで、くーちゃんの妹はさーちゃんと名付けられた。
そして情報ウィンドウで、さーちゃんを確認した。
名前:さーちゃん レベル:2/999
性別:女 年齢:測定不可
種族:コロボックル
称号:なし
状態:ふつう
所属:未所属
ジョブ:森のパトロール
パーティー:未参加
HP:D
MP:D
攻撃力:D
防御力:D
魔法攻撃力:E
魔法防御力:E
スキル:【森の精霊】【人見知り】【裁縫の極意】
(くーちゃんとさーちゃんは似た感じなんだね)
「さーちゃん、これからよろしくね!」
さーちゃんは、まだくーちゃんの背中に隠れて、こくこくとうなずいてくれた。
そんな再会や初めての出会いを神社の軒下で龍神のしろさんが赤い舌をちろちろとさせながら嬉しそうに見守っていた。