さくら神社の誕生
時は戻り……
タス村に着いたさくらとエスターは驚愕する。
ほとんど廃村と化したタス村が目の前に広がっていたからだ。
数日おきに日用品を売りに来る商人もノストラの商人であった。タス村の惨事を他の村に伝えることなど無い。
「エスターさん……ここがタス村?」
「あぁ、ここがタス村のはずだ……」
エスターも驚きを隠せないでいるようだ。二人して、誰か生存している村人がいるかと探してはみたが、腐敗しモンスターや獣に食い荒らされた遺体しかなかった……
二人で見つけることができた遺体を一緒に集め、火葬した。
無念の思いが、天に帰るように見える炎を見ながら、お互い今後のことを考え沈黙する
ふとさくらはつぶやいてしまった。
「村民も居ない……家屋も荒らされている……モンスターが潜む深闇の森がすぐそこに広がっていて……敵国とつながる街道に一番近い村……ここから二人だけで、一年後の大戦に耐える準備するの……」
申し訳なさそうにエスターはさくらに謝る。
「さくら殿すまない……私達は、ゼフ王国から不要とされ、罠にはめられたようだ……」
「食べる物も無いし、今日寝る場所も無いよね……」
さくらの言葉に、エスターは返す言葉が無かった。
さくらもエスターを責めているわけではない。今後のことを考えているのだが、答えが出てこないのである。
わかっているのは、タス村には誰も村民が居ない、家屋はすべて荒らされている、食料も無いこと。元大将であり、様々な任務を経験してきたであろうエスターさんも、これからどうしたらいいのか途方にくれているように見えること。さくらは不安が募ってきた。
さくらはふところに抱いていたお稲荷様がほんのり暖かく感じた。
もしかして、何かを伝えようとしているのだろうか。
高レベルのエスターさんは、ゼフ王国から、さくらの監視役の任務をしている可能性もある。ゼフ王国に少しでも歯向かう行動や思想を言えば、エスターさんに殺されるかもしれない。さくらは、少し震えながら、思い切って、エスターさんに自分の思っていることを伝えた。
「エスターさん少し聞いてもらえるかな」
震えながら、エスターさんの目をみて話しかけてきたさくらに、エスターさんはうなずいてくれた。
何かを覚悟した人の目をエスターは知っているようだ。
「エスターさん孤児だったって話してくれたよね」
「ああ、孤児院で育ち、戦で襲われた村で生き残っていた赤子だったと聞いている」
「元の世界では、私の家は神社……こっちでは教会や寺院みたいなもので、私も両親を早くになくして、おばあちゃんと巫女……こっちでは神官になるのかな?のタマさんに育ててもらい、転生する直前は、その三人で生活していたの。その神社の御神体がこのお稲荷様なんだ……」
そういって、さくらはエスターにアーティファクトのお稲荷様をみせた。
「もともとは狐様の形なんだけど、長年経過してほとんど姿がわからないんだけどね……」
「かわいらしい石像だな」
(わらわを、かわいいらしいと言ってくれたかえ! うい♪ うい♪)
「この村自体をお稲荷様を祭る神社という私達の聖地にしてみようと思うんだ……でも神社に敵意を持っている人が敷地にはいると、災いがかかるって言われてるの。ゼフ王国に私が不要で捨てられたのが事実なら、神社に敵意を持った人間がこの村の敷地に入ったら、その人に災いがかかるかもしれないんの」
「そうなのか……」
「大戦のとき、駐屯地として滞在するゼフ王国の兵士が、お稲荷様に敵意を向けると災いがかかるかもしれないんだ」
「……」
「今のままだったら、エスターさんは生きるすべがあっても、私には何もない……何もしないで、この村でただ死を待つより、せいいっぱいやれることをやってみたいの! エスターさん……だめかな?」
「私もゼフ王国に忠誠を誓ったていたのだが、今の状況は、私もさくら殿同様にゼフ王国にみはなされたようだ。さくら殿に私はついていくことにする」
エスターも覚悟をきめたのであった。
「ありがとう! エスターさん!」
「本当は、エスターさんがゼフ王国からの監視役だと思っていたんだよ」
「監視役などの命令は受けていない。さくら殿を補佐するように命令を受けただけた」
そう言って、エスターはさくらに辞令を見せた。
さくらは村の高台に向かった。エスターはその後に続く。
高台についたさくらは、大きな石の上に、ご神体のお稲荷様を丁寧に置き、2礼2拍手1礼をした。
(お稲荷様、どうか私達を守ってください)
お稲荷さんにお願いをした瞬間、周囲がまぶしい光に包まれ、ゆっくりと光がおさまる。
すると、そのおさまった光の後には、見慣れた神社が目の前に現れた。生前生活していた、あの神社である。 本殿脇の住居も、手水舎も一緒だ。後ろを見ると、村の門が鳥居になっていた。
あまりの出来事に、さくらもエスターも目を見開いて驚いていると……また頭の中に機械的な声で「スキル【おいなりさん大好き】が変化しました。【九尾のきつねの加護】に進化しました」
そして、背後から懐かしい声がした。
「さくら、あいたかったぞえ!」
そこには、モフ耳に9つの尾をのぞかせた巫女姿のタマさんが立っていた。