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さくらとエスターの出会い

 優秀な召還者が来ることを想定していたゼフ国王は、当初は召還者を前線のタス村ではなく、王都から魔族領土方面に位置する最大防衛都市カサスに赴任させ、守りを強固にするつもりだった。


 補佐につけるのは、エスターではなく、【軍師】スキル持ちのオーサム大将を予定していた。


「召還に使った莫大な予算が無駄になったではないか……また税を上げて補てんするしかないか……次はどうするべきか……オーサムと次の策を考えねば……」


 召還を提案したのはオーサム大将であり、召還準備や手配などもすべて行っていた。

 国王は【軍師】スキル持ちのオーサムの策に信頼をおいている。オーサム大将は国王の名の元に自由に王国の金を動かすことができるのであった。


 オーサム大将の元に向かうゼフ国王の頭の中には、さくらのことなどもう無い。さくらという名前すら頭の中から消えていた。




 場所は変わり、王都の冒険者ギルド。


 元々はオーサム大将と肩をならべ、大将だったエスター。

 ゼフ国王から極秘に任務を受け、【軍師のペンダント】を持つ勇者と共に数名の精鋭の兵を指揮し、魔人の領地に奇襲を仕掛けたのだが、なぜか奇襲の情報が洩れており、勇者は魔人に討ち取られ、エスターは残った兵と共に敗走した。


 敗走するエスターを追うため手薄になった魔人の領地に潜入し、亡くなった勇者のアーティファクト【軍師のペンダント】を回収したのがオーサム大将であった。


 オーサム大将が褒美と求めたのは、亡くなった勇者の遺品である【軍師のペンダント】。ゼフ国王は【軍師のペンダント】をオーサム大将に授けた。異世界人ではないオーサム大将が【軍師】スキル持ちになれたのは、このおかげである。


 極秘任務の奇襲失敗の責任をエスター一人で負うことになり、大将の地位をはく奪され、民間人にまで下げられ、冒険者ギルドに左遷されていた。エスターは反論することなく、受け入れた。エスターには階級など興味なかった。


 軍からの給料のほとんどを、生まれ育った孤児院に寄付しており、一般人と同じような生活をしていたのである。今までと生活は変わりないが、共に奇襲作戦の任務につき、亡くなった勇者や部下のことを思うと、エスターは胸がはりさけそうになるのであった。


 武力に優れているわけでもないオーサム大将がなぜこのような暗躍ができたのかは謎である。


 魔物討伐や、採取依頼の書類整理になれてきたエスターの元に軍から辞令が届いた。


「貴殿は、任務失敗の責任とし、異世界人さくらと共にタス村に赴任し、さくら領主を補佐することを命じる。名誉を挽回してタス国王のため忠誠をちかうことを命ずる」と記されていた。


 エスターは思った。

(一般市民の私に、何故軍から辞令が? しかし、これで私の死に場所がきまったのだな……)


 国王からは、国民に向けて「異世界人の召還は失敗した」と発表された。そのため、さくらは表向きには存在しないものと扱われている。国民にハズレの異世界人の存在など公表出来ない。そのため、さくらとエスターは冒険者ギルドの応接室で顔を合わせた。


「わたしはさくら、エスターさんよろしくね!」

「私の方こそ、さくら殿よろしくお願いしたい」

明るいさくらと、まじめなエスターは対照的であった。


「エスターさん、私のことはさくらでいいよ! 殿なんてついているとむずがゆいよ」

「さくら殿は領主様なのだから、このように呼ばせて欲しい」

「うぅ……わかったよぉ」


「エスターさん、この世界のこと全然知らないから、聞いてもいい?」

「知っていることなら、なんでも答える」


「一年後に大戦をするって聞いたんだけど、魔族ってどんなの? モンスターとか引き連れてくるの?」

「いや、我々人間とほぼ一緒だ。肌の見た目が少し濃いことくらいだ。人族より平均的に力より魔法に能力が高い傾向がある。モンスターは人族とも魔族とも別ものだ」

(ふーんー……白人と黒人の民族戦争みたいなものなのか……)


「なんで一年後に大戦するの?」

「以前から、我らゼフ王国とバジ王国は領地を求めて小競り合いを起こしていた。我らゼフ王国は気候が良く作物が良く育つが鉱山が少ない。一方バジ王国は作物が育ちにくいが資源豊かな鉱山が多くある。お互い国交を結んでいたのだが、前回の両国会議にて物別れになり、一年後の大戦にて敗戦国が無条件降伏を受けることになったのだ」

(両国の欲がからんでるだけなんじゃん……)


「戦争なんか起こさずに、仲良くできたらいいのにね……」

「両国とも、もう後戻りなどできない状況なんだ」

(死んだ勇者や仲間のためにも……)


「これからのことは、エスターさんに聞いてって言われたけど……これからどうするの?」

「すぐに王都を立ってタス村に向かう。さくら殿が領主に赴任して大戦に向けて村の防御や戦力を備える準備、村の運営が仕事になり、私が補佐をさせてもらう命令になっている」


「最前線の村って聞いたけど、どんな村なの?」

「ゼフ王国とバジ王国の間には、深闇の森が隔てている。唯一両国間の森が途切れている街道があり、その街道に一番近いゼフ王国側の村だ。両国の貿易が盛んだった頃は栄えていた村だが、一年後の大戦が決まったときから、ほとんどの住人が他の村や都市に移住し過疎の村だ」

「うぅ……そんな危ない場所の村の領主になるのかぁ」


「さくら殿、タス村にそろそろ向かおう。馬車はもう冒険者ギルドの前に用意してある」

「異世界の王都見物したかったけど、もう王都をはなれちゃうのかぁ」


 死を覚悟しているエスターは、自分の武器や防具、ポーションの他は着替えや食料しか持ち物は無い。さくらは、お稲荷様以外何もなかった。さすがに白のローブではなく、動きやすい革性の防具を着ている。


 エスターが馬車の手綱を握り、さくらは藁クッション変わりにした荷台に乗ってタス村に向かう。さくらは馬車から王都の街並みを眺めていた。石畳の街道。レンガ造りの建物。大聖堂らしき大きな建物。

(中世のヨーロッパみたい……本当に異世界に来ちゃったんだな)


 ふとドラゴンの口から水が出ている石像が目に入った。稲荷神社の手水舎を思い出し、この世界に来てからまだ何も口にしていないことに気が付いた。そう意識をしたら、のどが渇いてどうしても喉をうるおしたくなって、我慢できなくなった。


 さくらはエスターにドラゴンの石像を指さして聞いた。

「あそこって飲んでもいいお水?」

「だれでも無料で飲める水だ」

「まだこの世界に来て何も口にしていないの……飲んできてもいいかな?」

「あぁ、馬車を止めて待っている」

「エスターさんありがとう!」


 さくらは、馬車から飛び降りてドラゴンの口から湧き出てくる水を手に貯めてごくりと飲んだ。

(このお水、神社の手水舎と同じくトロミがあって少し甘い……)


 龍神のしろさんネットワークで稲荷神社の手水舎と同じ龍神様の加護がついた水にそのときだけ変化していたのである。


 そのとき頭の中に機械的な声が聞こえた。

「状態:病弱から普通になりました。スキル【引きこもり】の情報ウィンドウが使用解除になりました。」


「はい???」

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