さくらのアーティファクト
国王が思い出したように問いをしてきた。
「転生者はアーティファクトの武器を1つ持って召還される。さくらのアーティファクトを見せてくれぬか?」
アーティファクト? 武器? ……あっ!
まだ確認していなかった手に持っている硬い物体。これがアーティファクトなんだ!
恥ずかしい部分が周囲に見えない様に、白いローブの中でもぞもぞしながら、そーっと出してみると……さくらが見慣れた稲荷神社の御神体である狐の石像だった。
思わずさくらは、「お稲荷様だぁ」と声をだした。毎日見ていたお稲荷様が、自分と一緒にこの世界に召還されたことが嬉しかった。
さらに国王は問う
「それは相手に投げる武器なのか?」
「お稲荷様を投げるなんてバチが当たります!」
「魔法の威力をアップする武器なのか?」
「お稲荷様は、手を合わせてお祈りするものです!」
「信仰対象の石像なのか。女神の像ならわかるが、そのようなゴミみたいな石の塊なぞ何になる」
長い年月ご神体としてまつられていたお稲荷様はほとんど狐の形を留めておらず、初めて目にする者は、縦長のL字型の大きな石にしか見えないようだ。
国王の言葉に、王の間にいる神官や騎士が失笑する。
(わらわはゴミかえ? 人間の分際でわらわを笑ったのかえ?)
「国王様、どうかそのような事でお稲荷様を辱めないでください。高い攻撃力があるような武器ではありませんが、私には命のように大切な物です」
(さくら、わらわのことをそこまで思ってくれていたのかえ)
焦った進行役の神官が、強い口調でさくらをたしなめる。
「国王様に向かって勝手に意見するなんて不届きな! 口をつつしめ!」
大切なお稲荷様を正当評価してもらえない状況に、さくらはシュンとしてしまう。
(さくらもうすこし辛抱するんじゃよ。見えないだろうけど、おばあちゃんがそばについているからね)
さくらも、右手をおばあちゃんが、ぎゅっと握ってくれた気がした。