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9話 アルゼン山脈へ

 アルゼン山脈は木々に覆われた、自然豊かな山だ。その分夜の闇は、深い。

  

 前日はもう夜が近かった為、先を急ぐ勇者をなんとか説得し、次の日の朝方に村を出発した。

 

 アルゼン山脈の真ん中を直進する最短ルートを通る。一番敵が多い道だ。

 早ければ、1日半でアルゼン山脈の東側【忘れずの森】まで到着できる。

 

 そこで勇者たちとはお別れだ。

 

 いま現在、勇者たちはヒム人をさらった犯人を追っている。途中で犯人においつけば、そこまでの案内でよいと言われている。

 追いつけなかった場合は、忘れずの森までの案内で俺の仕事は終わりだ。



 勇者がパーティの荷物を全部おまえが持てよ、と俺に押しつけてきた。

 

 かっこよく言うよ。ポーターね。

 悪く言うよ。荷物持ち。

 

 3人分の雑嚢なのだが、軽い。俺がマッチョというわけではなく、少なすぎでは? と感じた。

 

 でも、ライラに力持ちですねー、といってもらったので、すごい、力出てまいりました。いまなら50人分の荷物でも持ってこいやーって感じっす。


  忘れずの森、さらにその先はヒム人が住んでいないそうだ。

 どこで補給をするのだろう。俺が知らないだけで、補給スポットがあるのだろうか。

 

 それとも、ニックの狩りが上手くて、自給自足でやっていけるのだろうか。


 まあ、俺は忘れずの森までの道案内なので、深くは追求しません。

 現場からは以上です。




 道中の勇者はライラやマエには気遣ったが、俺とは一切話をしなかった。

 勇気あふれる勇者ってどんな人物像なのか、話をしたかったから、少し残念ではあったが、仲良くするつもりはないらしい。

 

 

 先頭をライラと俺がつとめる。紋章をあしらった超大型の金属盾を背負って歩いた。

 その後ろに勇者とマエ。

 

 

 マエもライラも身長が160センチぐらいか。勇者が170センチ前後で、俺は200センチぐらいあるので、みんなとは大人と子供の背丈ぐらい違う。こんなに小さいからだでモンスターや敵と戦えるのだろうか。

 このセカイでは体格よりも、スキルや魔力がものをいうのかも知れない。


  盾を構える職業を盾使い(シールダー)というらしい。盾使いはもっとバルク(筋肉量があって、体格が良い奴)がある奴がやった方がいいのではないか?

 

 

 10代後半であろう、あどけなさの残るライラは、シールダーとしてはあまりにもか弱く見える。

 戦いよりも、笑顔が似合う。

 花売りやってますって言われた方が、よほどしっくりとくる少女だ。

 

 

 道案内の為に、ライラの横で道を教えたり、この山のことを教えたり、きゃっきゃ。うふふーとお話していたわけです。ティンカも同伴でね。

 これ、あとでお金払わないといけないやつですかねぇ。

 

 

「おい! アンタ。オレたちとは必要なこと以外、しゃべらないでくれ! 馴れあうつもりはない。ライラもだ!」

 勇者から怒られる。

 

 へーい、サーセン、と頭を下げた。

 

 

 むむっ。これって当てこすりなんでしょうか。勇者の行動に俺は疑念を持ったわけですよ。

 

 ははーん。さては勇者殿、ライラと俺がおしゃべりしていることに妬いておられるのかな。

 うぶよのう。

 

 

 俺はライラにいかにも今後の冒険に必須で、大事なことを話してますって表情で聞いてみた。

 

 


「ライラと勇者は……その……付き合っているんでしょうか?」

 

 

 

「えっ。はい。付き従ってますよ」

 

  ライラは笑顔で答える。

 

 ――ちがうっっっっ。

 そうじゃないんだよっっっっっっっー。

 

 

 俺の肩にのっているティンカが、拳を何度も突き上げる。 え? もっと聞けってこと?



 ユウキ、いっきまーす!!!



「そうじゃなくて……あー、あれです。キスしたり、それ以上のことをしたりですねぇ……」

 俺、デカイ図体で少女を見下ろしながら、なに聞いてんすかね。


 ティンカがものすごい早さでヘドバンよろしく、うなずいて、親指立てて、ぶん回していた。

 くくく。

 お任せください。ティンカ姫。必ずやこのライラめを丸裸に致します故。



「ああ。そういう関係じゃないですよ。よく間違われるけどね。勇者は私と一緒には行きたくなかったの。でも、無理矢理ついてきちゃった」



 ティンカ! あんた、急にうずくまってなにしてんのよ! 超絶興味失ってんじゃん。

 飛び出してるよ! 

 興味!!!

 早く、中にもどして!

 態度に出過ぎ!!! コラ、コラ、コラ!


 ティンカが顔を伏せたまま、手のひらを差しだした。続けてって意味? やけくそだなー。

 

 

 俺はライラの背中を押して、後ろにいる勇者と距離をとった。

「勇者は俺のこと、嫌ってますか? そんな気がしますけど……」


 ライラは首をかしげた。

「……。ああ……。ごめんなさいね。そんなつもりはないと思います。……あの人は、人見知りだから」


「そうですか。早とちりしたかも知れません」


 会話が途切れ、ゆっくりと歩く。

 天候は穏やかな晴れ。気温も高くなく、過ごしやすい一日となるでしょうと、お天気お姉さんならいう気候だ。

 

 

 ライラの盾や、フルプレートの鎧が、金属音をたてる。

 ハンターウルフに聞こえないと良いのだが。




「あの、勇者のこと……。どうぞよろしくお願いします」

ライラが口を閉じて、ゆっくりと、頭を下げた。




「勇者は元々穏やかな性格で、戦いとは無縁の人。土を耕す方が好きなのです。……それでもお母さんのために、勇者になる決意をしたんです」

 

「それくらいにしておけ! おしゃべりにきたんじゃないんだぞ! おい、アンタ、道案内にきたんだろう。口をきけなくした方が案内しやすいのであれば、そうするが?」

 勇者の言葉に会話をさえぎられ、俺たちは黙って歩きつづけた。

 

 

 

 夕方近くまで歩いたが、一度も敵と遭遇しなかった。霧が出て、足元が見えづらくなった。ちょっと早いが山の中腹で野営する。

 

 

 

 気のせいか、みんなから安堵の息が漏れた気がした。

 

 周りから集めた木片に火をくべた。ここで、雑魚寝して夜があけるまで待つ。

 

 ぱちぱちっと木が爆ぜる音がする。炎が揺らめくたびに、俺のからだに影ができ、巨人みたいに森の木々を侵食する。


 俺はエビのリュックから毛布、パン、干し肉を出し、みんなに配った。

 干し肉は好きではないが、炙ったら、それなりにイケた。


 そういえば、出発前にアルゼン村の集合場所で、エビのリュックを持っているのに気がついたマエとライラがツッコんでくれた。

「かわいいですね」

「なんでしょう……すっげーでっかいエビだな」

 

 

  エビもこのセカイにはあるのね。茹でて、マヨネーズかけて食べたいよね。

 「いや。エビデンスが好きすぎて、エビのリュック持っているんです。てへへっ」

 照れて言った。エビデンスってなに? と聞かれ、苦節19年。ようやくモテ期キターって感慨深い俺。

 

 女の子ふたりにかまってもらって鼻の下をでへへへへっって伸ばしていたら、勇者様に行くぞ、と冷たく言われて。

 はいはいー。はぁー。どっこいせーと出発したのでした。

 

 ――3秒でモテ期終わりました。よい、人生でございました。



 腰を落ち着けてしばらくすると、遠くからなにかが忍び寄ってくる足音のようなものが聞こえた。


 俺はティンカの後ろに隠れ、ティンカは思いっきり目を細めて、にらみつけた。


 勇者が背中に背負った剣を、抜いた。

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