6話 アルゼン村
勇者様の道案内をするべく、アルゼン山脈の唯一のアルゼン村へやってきた。
時刻は夕方近くだ。
荷物はティンカの革のリュックを俺のエビ型のリュックにいれ、あとはティンカの魔法で作ってもらった、世界1便利な持ち運び倉庫(ユーキ・クラウド倉庫)に入れている。
空間を魔法で拡張したクラウドの倉庫のようなもので、瞬時にものが取り出せる。
倉庫というのは伊達ではなく、多くの品を詰め込むことができるようだ。
といっても、いまはティンカの木彫り人形とガラクタしか入っていないけどね。
村の建物は木製の簡素な作りで、モンスター除けに丸太を指したバリケードが覆っている。
前に中世ヨーロッパぐらいの文明だとティンカから聞いた。
魔法が発達しているから、中世の文明以上のことはできそうだな。
酒場兼宿屋、市場、鍛冶屋、一通りの設備は整っている。しかし、ほとんど外からの客はない。
なぜなら、この先の忘れずの森を越えると、その先はマジュール人という魔法を使うことができる人種、獣人族、竜族が住み、俺たちヒム人が足を踏み入れることはほとんど無いからだそうだ。
広場で勇者を発見し、村長が歩みよった。
勇者は俺が思い描いた、勇者像まんまだった。
勇者は短髪で、ぴかぴかの傷ひとつないフルプレートを着ており、鎧の隙間から、仰々しい銀のネックレスがのぞいた。中肉中背ながらも精悍な顔立ちをしていた。
そこには、夢と勇気がたくさん詰まっていそうだ。
いままで、たくさんの敵を一撃で倒し、恐れといったものは一度も感じたことがない、表情にみえた。
俺と違いすぎる。
道案内どころか、俺が足手まといになってしまうのではないだろうか? どうもすみません。先に謝っておきますので、怒らないでね。
「あーあ。道案内なんてやめておけばよかったなぁー」
ティンカに愚痴る。
いままでまわりがおだててきたんだろっ。
天から与えられた才能があるんだろうよ。
俺は嫌いなんだ。天才みたいな奴が。だからエビデンス(科学的根拠)があるものを求めた。
――最初はティンカに言われるまま、エビデンスって役に立つなぁ、と思っていた。役立つことがわかったら、不器用で弱者な俺でも、渡る世間は鬼畜生と戦っていけるように必死で覚えた。
そんなエビデンスでも、勇気を得るにはどうすれば良いか、ついぞわからなかった。
「そんなことないんじゃないかなぁ。ユーキはこの山に詳しいから役立てるよ。あと、さっきはありがとう。一緒にきてくれて」
「べ、べつに、ティンカの為じゃないんだからっっ。ずっと一緒に暮らしてきたのに、急にひとりでいくっていうからさ。しかたなくついてきたんだ。ほら、ティンカの木彫り人形見られないと、さびしいからさ。俺にそっくりのやつ、よくできてるよな」
ティンカはゆっくりと首をふった。
「ううん。ユーキはやっぱり勇気があるんだなって私、再確認できちゃった。ありがとう」
ティンカが俺の目の前まで飛んで、子細にながめた。
なんか、照れますね。でへへー。
「そんなかっこいいユーキでも、ガチムチのからだでツンデレ乙なのは、やっぱキモい」
ティンカをデコピンしようとしたら、上空に逃げられて、舌を出された。
くやしいがかわいらしい。
あっ、言ってなかったっすよね。すんませーん。俺、レベル99になる過程ですさまじく身長・体重も伸びたんすよ。
じゃじゃーん。
元身長 171センチ→推定200センチ
元体重 58キロ→ 推定98キロ
体格はヒム人の中では飛び抜けていいよ。
ガチムチでも、勇気ステータス1、ですけどね。
とほほーんぬ。
村長が勇者を紹介してくれた。村長には【戦闘には参加しませんよ! 絶対! 誓約書】を必ず勇者に承諾してくれるようにお願いしていた。
「ああ、よろしく」
勇者は目もあわせなかった。
他に女魔法使いのマエさん。肩にかっこかわいい赤い鷹を連れている。鷹はなぜかそわそわしていて、動きがかわいい。
そして、女盾士のライラさんの紹介を受ける。勇者と共に行方不明のヒム人の捜索をする為に、はるばるやってきたらしい。
勇者の従者の方は礼儀正しく、好感が持てた。
えっ、勇者以外全員女の子じゃねーか。なに自然とハーレム作ってんだよ。うらやましすぎるだろう。
クソッ。イケメンってのは、性格も良いって相場が決まってんだけどな。どうやら最悪の勇者様らしい。目も合わせてくれないとは……。俺、筋肉もっこりでキモ、メーン(男)だから、なの? 嘘だと言ってよ……。
おっと修行が足りないぜ。相手の思ったまま反応していたら、エビデンスを学んだ意味がない。
俺は深呼吸をして、「マインドフルネス」を唱えた。呼吸に集中することによって落ち着きを取りもどしてきた。
【――おやっ。集中力、取り戻してますよ?】
間抜けなティンカの効果音があたまに流れた。
「エビデンス魔法 LV1 リア・プライダル(受けとめ直す)!」
これは簡単に言うと、言いなおすことだ。
緊張しているな、と思ったら、楽しくなってきたと言いなおす。緊張するのも、楽しくてわくわくするのも、心拍数が上がっているだけだからだ。
自らが、ポジティブな反応を選ぶことでストレスが減少する。
人間関係で嫌なことを言われた時には、その人になにか悪いことがあったのではないか、と考えることだ。
勇者の場合は母を何者かに殺され、アンデットとなって操られた。死人となって襲ってきた母を、先ほどぶち殺してきた後だと考えた。
つまり、最悪の気分すぎて、村人A(早乙女 勇気 19歳 独身の筋肉です)には構ってられないぜぇー。と。嫌な印象を良くなるように魔改造しました……。
はい。
【――うんうん。良い感じにストレス指数が下がりはじめてますー。その調子ですよー】
はいー。ティンカ効果音ー。いただきました。
勇者は村長と話があるといって、村長の家に行ってしまった。それが終わった後、酒場でいくつかある登頂ルートの話し合いをすることになり、一旦解散となった。しかし急いでいるため、早めにすませると言って、足早に立ち去った。
最近村には物々交換しに来たばかりで特に欲しいものはなかった。ティンカが木彫り用の木材を見たいと言ってきたので、市場に向かって歩いた。
ティンカはこの1年で一体何体の木彫りをつくったのだろうか。100体は超えていると思う。人形とかフィギュアが好きとはいえ,情熱作って作るのはほんと、すごいなぁ。
俺の肩の上に乗ったティンカに向かって、何かが飛んでくる。
えっ? 村の中でまさか、敵か? と俺はとっさにティンカの背中に隠れた。
いや……。隠れきれていない。ティンカの方が俺よりすごく、ちいさい。
俺の勇気はすごく、ちいさい。
ティンカが俺の近くにどうやら脱糞を見つけたような、見たくないものを見てしまった時の表情をした。
え? どこどこ? うんちなんて踏みたくないよ……って俺だよね。ティンカ、俺、みてたんだよね。ガチムチが小さい妖精の背中に隠れたらうんちだよね。うんうん。
ティンカはすばやく上空に逃げた。
ティンカを追う者の方がもっと早かった。
この過酷なセカイは、いつだって俺に選択を求めてくる。
俺は心の底から、聞きたくないことを聞く。
「ティンカ、助けが必要か?」
「……。助けてよ~」
こんなこと、聞きたくない。
ティンカは事情を知っているから、ただ,助けて、と言った。
それで、十分だ。
俺はびびりながらも、ティンカに高速で向かってくるものに対して、ファイティングポーズをとった。
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