表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/27

5話 ラブコメの覇道からの別れは唐突に

 唐突に仕事の依頼にきた村長に向かって聞いた。

 ちなみにティンカの魔法のおかげで、会話と文字は瞬時に変換してくれるので、意思疎通は行える。

 

「俺に、ですよね? 勇者って誰です? 道案内とは、どこまで?」

 

「勇者を知らないとはのう。勇者は戦う資格がある者で、我々ヒム人の為に身を挺す、文字通りの勇気あるもの、じゃ」

 

 ヒム人は俺たち人間のことを言うらしい。村長や村の人は金髪で、白い肌。俺は、日本人なんだけど、ヒム人として括られるようだ。


「実は最近ヒム人が何者かにさらわれる事件が増えていてな。勇者様はその調査にいらっしゃった。道案内は、このアルゼン山脈を抜けた、『忘れずの森』までお願いしたい。そこにさらわれたヒム人が連れていかれておるようなのじゃ」


 というか、俺、王様に勇者を断られているんだけど、村長はそれ知ってんのかな。

 ティンカが深刻な面持ちで聞いている。


「なんで、俺に頼むんです? 村の人は他にもいますよね」

「話している感じ、お前さんがこの山に一番くわしいと思った。それとその筋肉じゃ。貧相なからだだった頃から知っておるが、この1年で見違えるような体格になった。村人の頼みもなにかと聞いてくれたろう。なにかがあっても、お前さんだったら何とかしてくれそうだと思ったんだがな」


 村長、ほとんどしゃべったことなかったのに……。すごい俺のこと、見てる。俺のこと、好きなのかな。おじいちゃんじゃなくて、きれいなお姉さんだったらよかったな。


「この誘拐っていつ頃からはじまって、いままで、何人ぐらいさらわれたのですか」

 ティンカが聞いた。


「ここ、半年ぐらいからかのう。あやしげな者たちがヒム人を連れているのがはじめて目撃された。それまではいなくなってもどこかに失踪したものだとばかり思っていたのだ。もしかしたらもっと前から、すくなくない人数が誘拐されていたのかもしれない。失踪者はそれなりにいるからのう。人数は推測でしかないが500人ぐらいは誘拐されてるのではないだろうか。あるいはもっと……」



「犯人に心当たりは?」

「ない。西から来るマジュール人も獣人族も友好的な奴らじゃ。とてもそんなことをするとは思えん。あとは竜人族じゃが、そもそも数がすくないと聞いていて、会ったこともない。本当にいるのかさえ、わからん。まったく心当たりがないのじゃ」


 ティンカから説明を受ける。

 マジュール人は元々ヒム人で、魔力が強い者達が独立してできた種族。

 獣人族は獣のような格好をした亜人。狼とか犬とか、猫が二本足で立っているらしい。

 竜人族は竜になることができる一族だそうだ。



「このままではヒム人は大げさでもなんでもなく、絶滅してしまうかもしれない。勇者様はそれを止めに来た。勇気あるお方の道案内をしてもらいたい。もちろん礼はする。どうじゃ。やってくれるか?」



「依頼はわかりました……。だが、断るっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 俺は村長にダメ押しした!

「だが、断る!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 大事なことなので、二回、言いましたっっ!



「そんな危険なことできません。俺が逆に誘拐されたらだれが助けてくれるんですか。山だってもっと詳しい村人はいるはずです。別に俺がやる必要はないと思いますけど」

 

 

 村長はすこしの時間、空を見上げていた。

 ティンカがあきれ顔で俺を見ていた。

 

「役たたずの筋肉の鎧なんてもう脱いでしまいなよ?」

「残念でしたー。バッタじゃないですもーん。脱皮できませんもーん」

 俺はバッタのまねをした。ティンカは一言、気持ち悪い肉踊り、と言い放った。

 

 

 ひどくない???

 

 

 転生してきた場所、ここ、アルゼン山脈は標高1000メートルないぐらいで登頂はそれほど難しくはないが、モンスターがでる。

 

 俺は自慢ではないが、勇気ステータスが1。

 すべてとは言わないが、モンスターの生息地、巣、狩り場、えさ場など、把握していた。

 だって怖いでしょ? 急にたたかうことになったらさ。

 

  このあたりで一番危険なのはゴブリンだ。そんなのはだれだって知っている。アニメや漫画で、ゴブリンがどのような残虐非道なことをしているか、みんな存じ上げております。

 

 次に危険なのはハンターウルフだ。こいつは10匹~20匹の集団で狩りをする数の暴力の集合体。囲まれたらたまったもんじゃない。

 

 これらのモンスターによって、毎年10~15人ほど村人たちは命を落とす。

 

 その死亡記録16人目に栄えある入賞を飾るのは、間違いなくこの俺だった。いくらLVが99でも、たくさんのモンスターに勝てる保証など1つもない。

 

 だから、村長の申し出を断った。

 

「そうか。残念だ。お前さんなら力になってくれると思っていちばんに声をかけたのだが……。たしかに危険なことにはかわりないじゃろう。勇者様はお急ぎとのことじゃ。他をあたろう。すまんかったな」

 

 

 村長は踵を返した。

 

 

 ティンカが俺をじっと、見つめる。

 勇者の道案内をしなよ~と言うのかと思った。

 そこには責める意思はなく、ただ、純粋に俺の顔を見ているようだった。

 目に、焼き付けるように。

 その目には、寂しさが宿っているような気がした。

 

 そして、優しく笑った。

 なんだよ。なんで、そんな表情をいま、するんだよ。ティンカ。

 

 ティンカが、飛んだ。

 

「待って。私がいきます」

 ティンカが言った。

 村長が振り返る。


 ティンカの言った意味を飲み込めるまで、時間がかかった。



 ティンカの肩をつかんだ。

「なにいってんだ! 危険な山だぞ。それに俺らにとってなんのメリットもない」


 ティンカは俺のつかんだ手にそっと、手のひらを重ねた。


「巻き込んでごめんね。たぶんこれは、私の問題なの。いかないといけない。ユーキはここでお留守番していて。なるべく早く帰ってくる。ユーキを元の世界にもどす為に」


 なんだ。ちゃんと日本に返してくれるつもりだったのか。ではこの1年は、ティンカの準備が整ってなかったということなんだろうな。

 

 というか、ティンカ、1人で大丈夫なのか? モンスターと戦えるのか? 


「大丈夫だよ~。今日までた~くさんの木彫り人形作った手先の器用さと、指の力で乗り切るよ」


 俺が心配しているのがわかったのか、飄々といった。たしかに。ティンカはこの一年、ひらすら木を彫って人形を作っていた。フィギュアやぬいぐるみが好きだから、自分で作っていたんだろう。



 ティンカはあっという間に荷物を革のリュックサックに詰めて、出発の準備を整えた。


「では、ユーキ。あとをよろしくね~。行ってきます~」

 努めて明るく聞こえるように、ティンカは言ったように見えた。

 口角をつっぱるぐらいにぐっと上げ、強く、笑った。


 いろいろな感情に無理やり笑顔で蓋をした、といった印象だった。


 俺はどうしていいかわからず、おう……とだけ言った。



 ティンカと村長は手をふって、行ってしまった。


 いやいや。これでいいわけないだろう。はっきりいって即、お断りの案件で間違いない。せいぜいいくらかの金と、アルゼン村で色々優遇してもらえるだけだ。下手すればモンスターに殺される。もっとひどいことだってありえる。




 俺は明るいうちから洞窟に戻って、ふて寝した。

 唐突におとずれた別れ。

 なんだよ。俺に相談もなしに。

 聞けよ。ユーキも一緒に来る? とか。一緒に来てくれない? とかさ。

 一緒には……いかないけどさ。

 いかないの~? って突っ込めよ! ティンカ。もういないけど。お前が突っこまなかったら、だれが俺にツッコミいれるんだよ。



 物心ついたときからティンカはずっと、こうだ。

 俺の悩みを聞きつつ、最終的にユーキはどうしたいの? と決して自分の意見を押しつけてこなかった。


 俺は逆に聞きたかった。お前はどう思うんだってな。


 ティンカ。お前が本当に困ってる時に、俺には頼らないんだろう。



 いや、頼れないんだろう。



 水くせぇなぁ。どんだけ長いこと一緒にいたと思ってるんだよ。


 このセカイを救ってほしいとか言いながら、俺が嫌がったらそれ以降強要しなかった。

 俺が必要だったから、しかたなく俺を連れて一緒に転移してきたんじゃないのかよ。


 なにか訳があって。しょうがなかったんだろう?


 そりゃ、俺は臆病さ。それにかけては世界一の揺るぎない自信があるね。


 ただ、それとティンカを1人で行かせるっていうことはまったく意味合いが違う。


 あんな寂しそうな顔しやがって。俺だって……。




 俺だって!!!!!!!!!!




 毛布をはねのけ、なにもとらず、洞窟をでた。


 走り続けた。




 村長とティンカの背中が小さく見えた。


 どれぐらい走ったのだろうか。息があがる。



「テ、ティンカ!!!!!!!!!!!!!」

「ユーキ!!!!!!!!!!!!!!!!」


 ティンカが目の前に飛んできた。


「ど~したの? なにか私、忘れちゃったかな~」


「このバカチン●ンが!!!!!!!!!!!」

 お約束の髪をかき上げる仕草をしてから、空手チョップでティンカの額を割る!!!!!!!!!


 と――。白羽取りで止められる。互いに腕がぷるぷるしている。


 こやつ、デキル!!

 

「なにすんのさ~。痛いでしょ~。私はチン●ンなんて生えてないんだから~。結構つるん、としてるよ」

「そこは止められても、喰らっておくところでしょーが!! あとその部分のくわしい描写、いま、いらないから!! 後でくわしくね。絶対だよ。約束」

「へっ? 意味なく空手チョップ喰らわないよ~。痛いもん~。そんなエッチな話をしにわざわざ追いかけてきたの?」


「なんで、相談もなく勝手に決めて、勝手に行くんだよ……」

「――ごめん……」

「俺が頼りないか? まぁ、頼りないよな……。俺には相談する必要もないか?」

「これ以上ユーキを巻き込みたくなかった。もう巻きこみまくってしまっているけど」

 ティンカの羽がへなっとしおれた。


「1人でなんとかなりそうなのか?」

「うーん……。なんとか……。するしかないって感じかな。でも、迷惑はかけられない。ユーキ、怖いでしょう?」

「ああ。怖い。怖くてたまらない。勝手知ったる山の道案内とはいえ、誘拐なんて物騒な事件だ。戦闘は起こるだろう。殺し、殺されるなんて、俺からいちばん遠いセカイの話だと思っていたぜ」

 ティンカは黙って話を聞いていた。村長は立ち止まり、動向を見届けている。


「怖い。だからって、ティンカを1人で行かせるっていうのは違うぜ。もっと相談してくれ! もっとティンカがどうしたいのか意思を聞かせてくれ。お前がいちばん俺の扱い方を知っているはずだろう?」


「――まったく。臆病男子でなおかつツンデレで、死ぬほど面倒くさくて。優しいんだから~」


 ティンカの瞳が潤んでいた。


「ユーキ。一緒に来てくれない? 1人だとどうしようもなさそうなんだ」

「最初からそう言えよ。ったく。遠慮がすぎるぜ。かわいい妖精の頼みなら断れねーじゃねーかよ」

「ユーキ。ありがとう」

 ティンカが泣きながら抱きついてきた。すごい良い匂い。感動的な良い場面で申し訳ないっすけど、いましかないので。失礼しまーす。

 くんか、クンカ、くんくん。クンカッカ。くんかかくんかくかく。くんくーん。


「これからはちゃんと相談して、俺と話をしよう。もちろんほとんど要望を聞いてやれないとは思うが、できることはやるよ」


 ティンカは涙をふいた。

「いや~。相談するから要望聞いてよ~」

「俺、セカイと戦える臆病者なのでー。ムリですー」

 ティンカが笑った。

 今度は、心からの笑顔だろう。そう信じたい。


 俺は、ティンカを肩に乗せ、村長に近づいた。



「だが断るっっっっっっっ! をっっっっっっっ!!!! 断る!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 大声に村長が驚く。


「勇者様の道案内は、俺が引き受けます」

 おどおどしながら付け加えた。まだ、村長と話すと人見知りするんすよねー。

 

 

 村長はそうか、と何度もうなずいた。

「この1年ずっと見ておったよ。力を貸してくれると信じておった。おまえさんの勇気ある行動を称えるよ。ありがとう」


「私もユーキのことみてたよ。この1年、ほんとに強くなったよね。がんばった!」

 ティンカがニカッと笑う。


「あ、大事なものを忘れてしまったんです。すぐとってくるので、ここで待っていてくれませんか」


 言い残し、急いで洞窟にもどる。


 エビリュックを手に取る。確かにこれも大事だ。しかし、もっと大事なものがある。それをつかんだ。


 洞窟を出て、走ってティンカの元へ到着した。


「大事なものってエビリュックだったんだ~。そうだね。これから道案内だから~。あった方がいいよね~」

「ちがうぜ。ティンカ。それ以上に大事なものがあるだろう?」

「えっ? なんだろう……」


 思案するティンカはひとまず置いておく。

 羊皮紙と羽ペンをもってきて、走って村長の前に出した。


 

「俺、勇者様の道案内します!!!!! ただし、非戦闘要員としてですけど。非戦闘要員ですからねっっっ」

 

 大事なことなので、二回言いましたともっっ!!!

 

「誓約書も書いてくださいねっ! 村長、字は書けましたよね? 私、早乙女勇気は、戦闘はしません! 絶対!!! はい、ここにサインください!!!」

 

 

 ティンカが空中で派手にずっこけ、村長は右足からぐずれ落ちて頭を地面にぶつけた。

 

 

 俺が荷物をとってくるまでは、村長とティンカはこんな俺に一目おいてくれていた。

 

 

 ティンカと村長は素敵な笑顔から一転、ゴミを見るような視線がほんのすこし痛かった、すこし遅めの午後の出来事でした。




「勇者様はさらわれた人の手がかりをつかんでおいでのようじゃ。急いで村に戻ろう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ