26話 マエの本当
忘れずの森の入り口はまだ光があって、明るいものの、奥の方は鬱蒼と木々が茂っており暗かった。
ライラとティンカは忘れずの森の広場のところで待ってもらうことにした。
「ユーキがいつからあっしの事……こんな風に思ってくれていたのか、心当たりがございません……ねーんだけど。えっと。本気なの……?」
「はじめて会った時から、思っていたよ」
マエの表情が見えない事によって、声や動作がより強調される。かえって焦っているのを印象づけた。
ニックもなぜか、頬を赤らめて、首をそむけた。
「つまり……ユーキはあっしのこと、思っているってこと?」
「ああ。こんなにもだ」
大人と子供ぐらい体格差があるマエを抱きかかえた。
ニックがビェーと騒ぎ、羽をひろげ、俺の肩を抱いた。
「あっ……」
「マエ……」
「ぴぃぃ……」
これ、ニックね。
「ユーキ……。マジ……なんだな?」
「マエ……」
「ぴ、ぴ……?」
二人と一匹の吐息が漏れる。
俺はさらに強く、抱いた。
「ユーキ……。もっと、優しく……。お、折れ……る……せ……せぼ……ね。あっし……おおお、おんなのこ」
「ごめん……つい、力が入ってしまって……俺も、その……はじめて……だから」
「ぴ? ぴぴー? ぴぴぴぴ……」
マエがゆっくりと、口を開く。
ニックがまねをして、ゆっくりとくちばしを開く。
「あっしも。ユーキ、お互いに、はじめてだね」
「ぴ……ぴぴ……ぴ……」
「いくよ?」
「えっ? まさか?……いきなり? ここで? 待って。あっし。ほんとはじめてで……心の準備が……」
「ぴぴ? ぴぴぴぴぃ……」
俺はそのまま、マエの肩をつかんだ。
「えっ?」
「ぴっ?」
そのまま、思い切り、肩を叩いた。
地面にずぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼっと埋まっていくマエ。
ギャーとわめいて、ニックが肩から離脱する。
「ですよねーーーー!!!!!!!!!!」
マエの絶叫が、下から聞こえる。
通算3度目の人間ナマ生き埋め、である。
とんがりハット生首姿があらわれた。
ニックがギャーと鳴きながら、俺の頭をつつく。
いつもよりニックのくちばしのあたりが強い。
「ユーキ。あっしの乙女の純真をご返却くださ……かえして……」
「ぴぃぴ! ぴぴ!」
「おかしいよ。マエ。おかしすぎるんだよ」
「本来告白するべきはロマンティックな場所のはずなのに、王国の城下を見渡せる夜景スポットでなくて、こんな鬱蒼と茂る森で告白するってことがかー?」
「だな。俺もこんなところで初告白をするなんて思わなかったぜ」
ティンカが音も立てず入ってきて、俺の肩にとまった。
腕を組み、マエを見下ろしている。
ニックも負けじと、マエのハットの上にむりやり、とまった。
「マエのおかしなところは4つある。
1つ。なぜ、ステータスが確認できない? 俺が確認できなかった奴は白竜だけだった。規格外に強いから確認できなかったと推測している。
2つ。なぜ、俺の攻撃を相殺できる? 戦闘してわかったよ。俺は一撃で敵を倒す。ギャグパートだから、威力が弱まっているのかと思ったが、違う。このセカイはギャクパート補正は通用しないんだ。俺が肩を叩くと地中に埋まるぐらいじゃすまないはずなんだ。あと、見えてたよ。肩に魔法障壁をはっただろ? 俺の速度に反応して? そんな芸当、勇者やライラと同じLVでは、到底無理だろ?
3つ。ゴブリンの洞窟での戦闘で、ハンターウルフがマエを避けてライラを攻撃した。なぜ?白竜に首を振ったのはなにかの合図か? 白竜はオマエとなにか関係あるのか?
4つ。なぜ、ハンターウルフとゴブリンが一緒にいる。あいつらはしょっちゅう縄張り争いしている天敵なんだ。ライラが後をつけられたとしても、あんな大群が30分で集められるとは思わない。
5つ。なぜ、勇者もライラもお前の戦う理由を覚えていないんだ。大事なことだよな? 命をかけるんだ。一人が忘れたのならわかる。たまたま忘れることだってあるさ。でも二人ともわからないっておかしいだろう?
なぁ、お前はいったい、だれなんだ?」
「5つに、なっておいでですわ」
マエの声に呼応してニックが高く、鳴いた。
「えっ?」
「おかしな所が5つになっていらっしゃいます。1つ多いですわ。あっし……いえ、ワタクシも色々規格外の貴方様に戸惑いましてよ。まぁ、ここいらが潮時でございましょう」
マエと名乗っていたとんがりハットの生首は、いままでとまったくちがう、重厚なトーンで話した。
やっぱり。こういう展開になったか。だから、ライラを離しておいたんだった。
「マエ、おまえは敵、なのか?」
「敵……? まさか。そんなそんな。滅相もございません。言うなれば、世界一の味方にございます」
ざっ、と動く音がして、首筋にひやり、とする感触が。
息をのんだ。
まったく、気配をさとれなかった。
首筋にナイフを突きつけられていた。
目線だけ動かすと、ティンカには槍を突きつけられていた。
「動くな。喉をカッ切るぞ」
耳元でささやかれる。
高い女の声だ。
「おやめなさい。シャーロット」
マエが地中に埋まっているとは思えない威厳で話す。
「ですが……。マエ様がこの不届きな者に何度も地中に埋められ……」
「良いのです。下がりなさい」
女が渋々といった様子で槍とナイフをしまう。
「今度、マエ様を地中に埋めてみろ、丁寧に穴を掘って、害虫を数千匹いれて、適度にかき回した後、一緒に生き埋めにしてやるからな!!!!!!」
ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ。怖すぎる
女は俺をにらみながら、マエを地中から引き上げようとする。
「このままでいいのです。地中はワタクシにとって母。ワタクシの世界、そのものなのです」
「申し訳ございません、マエ様」
女がひざまずいた。
ティンカと目配せする。ティンカが首を振った。おそらく様子を見ようという合図だろう。
「ユーキ様、シャーロットがとんだ失礼を。そしてワタクシ自身も失礼を働き、大変申し訳ございません。謝罪申し上げます」
地中に埋まったままの人が話す内容じゃないでしょー。
「マエ様いけません。平民と直に話されては。また謝罪などもっての他です」
言葉の端々からいやーな予感がだだもれだ。
「頭が高い。平伏せよ。ヒム人王の第二王女であらせられる、マエ姫であるぞ」
シャーロットと呼ばれた女は、よくとおる高い声で言った。




