25話 不穏さと犯人と。こんな時だからこそ愛をささやく
俺は勇者をかばうように両手を広げた。
「マエ、なにをしようとしている?」
「なに、とおっしゃいまして……言われてもなー。魔法をかけるんだー」
マエは、会った時からひっかかることが多すぎた。
「勇者を復活させる呪文を、使える、とかじゃあ、ないよな?」
詰問する口調になった。
ライラは俺たちの不穏な空気もそのままに、泣きじゃくっている。
マエは首を振った。心底、残念そうに。
「あっしは死体を凍らせて、故郷に埋めるって約束を勇者とした。……疑われているみてーだなー」
「……すまなかった」
勇者からどいて、マエの後ろに立った。
以前マエと勇者が2人で話しているというのは、そういうことだったのか。いざとなったら、自分が身を呈して仲間を守ろうと、もう決めてたんだな。
ライラが立ち上がると、マエは勇者の身体に触れる。凍りついた。
許されたような、笑顔すべてが、冷たく凍りついた。
「私、本当に弱いんだ。この弱さが、勇者を殺した。憎いよ……弱いことが」
ライラが凍りついた勇者に抱きつくも、相当冷たいのだろう。からだが震えている。
「ライラ、いけません……ダメだ……。オマエまで凍ってしまうー」
俺は暴れるライラを後ろから引きはがす。
「正直嫌なヤツだと思っていた。勇者ってなんなんだろう、って。なんで私。こんなに……悲しいんだろう」
ティンカが背中に抱きついてきた。涙が流れる感触があった。
ティンカの羽が震えている。そっと背をなでた。
その都度、羽がぴくっと動く。
倒れていた黒ローブ達は一箇所にマエがまとめてくれていた。
1人ずつ、黒ローブを脱がしていった。
すべて、獣人族であった。
最後の1人を除き、絶命していた。
俺が殺した。低いレベルのものと戦えばこうなってしまうのだ。
「誘拐犯は獣人族で決まり、でいいのか?」
「まだ決まったわけじゃないわ。頼まれただけかもしれないし」
そういいつつ、ライラの獣人族に対する冷たい目はぞっとするほどだ。勇者を殺されたのだ。無理もない。
獣人族の腕をロープで縛って、太い木にくくりつけた。
「おい、起きろ」
狼の顔をした獣人族は虚ろな瞳をこちらに向けた。そして、牙をむき出しにした。怒り、憎しみを向けられる。
「殺してやる。殺す!!!! 醜きヒム人。必ず、殺す!!!!!!」
なんなのだ。この恐るべき憎悪は。
まぁ、俺が仲間を殺してしまったから仕方ないが。
アルゼン村に行商に来ていた獣人族は、冗談をいう、面白いやつが多かった。
顔は怖かったけど。
獣人族の顔に、フルプレートの足先がめり込んだ。
ライラが蹴ったのだ。
ライラが獣人の胸ぐらを掴む。
「私の両親はあんたたちに誘拐されたと思う。いま、どこにいるの? 答えて」
豪快に口をあけ、笑う。口もとを動かしたと思うと、ライラの顔に唾をかけた。
ライラは獣人を睨みつけ、甲の部分で殴り続けた。何度も何度も。
「やめろ、ライラ。聞き出す前に死んでしまう」
「勇者は殺された。こいつと……私の……弱さ、に」
マエにライラを見てもらうことにして、俺とティンカで切り込むことにした。
と言いつつ、こいつら狼の顔して怖いし、実際強いから恐怖半端ないっすよね。なめられちゃいけないから強気でいきましょう。
獣人の前に屈む。
「おまえが誘拐の主犯格か?」
獣人は答えない。ただ歯をむき出しにして俺を睨みつけている。
「なにもしゃべらないか。じゃあ、殺そう」
ライラがマエを押しのけて、腰のナイフを抜いた。
うっすらと笑みを浮かべていた。
「待て。こいつの処遇は俺に任せてくれ」
「ふざけるな! ヒム人ごときに殺されるぐらいだったらよ――」
獣人は舌を突き出し、俺をにらみつけた。
「俺の仲間を殺しまくりやがって。どうだ? 気持ちよかったか? 思う存分、憎悪を堪能できたか? 俺は末代まで貴様を呪い殺してやるぜ!!!」
ためらいもなく、舌をかみ切った。舌がぬらり、と宙を舞う。
そのまま、死んだ。
半狂乱しているライラをマエが抑える。
勇者は地面に横たわって凍らされていた。
凍り付いても、穏やかな表情はまるで生きているかのようだった。
俺は服についた勇者の血を見ていた。
「ユーキ、2人で話がある。こっちに来て」
ティンカに呼ばれた。声がかすれている。
泣いていたティンカの目元をぬぐった。ティンカも俺の目元をぬぐった。
忘れずの森の入り口に入り、マエ達と距離をとった。
「私はこれからマエとライラと一緒に、この事件を探ろうと思うの。ユーキはその……」
ティンカはかぶりを振った。
「一緒に来て、くれるかな」
「いいともー……か」
思った以上に出た声が暗かった。
ティンカが苦笑いする。
「もういちいち聞かなくていい。俺たちは大切な友達を亡くした」
俺の言葉にティンカがうなずく。
と、同時に。
俺の顔を覗きこんだ。
「駄目だよ、ユーキ。勇者を引き継ぐのはいいけど、けっして、勇者になってはダメ。あの時みたいに。意味、わかるよね」
「臆病者の俺が、勇者になれるわけないだろう」
笑った俺をティンカがたしなめた。
「ユーキはユーキだよ。けっして、勇者を演じようとしてはだめ。エビデンス的にだれかに成り代わろうとするのは、良い? いけない?」
「いけない……。個人の性格を自分自身が認めた上で、それを受けとめて生きることだ」
「それでいい。いまの自分の言葉を忘れないで。私がいちばん、ユーキに勇気があることを知っている」
ティンカが抱きついてきた。
「私がいちばん、ユーキ以上にユーキをわかっているよ」
ティンカがからだを離しながら、耳打ちしてきた。
内容を聞いて、うなずいた。
ティンカもうなずく。
地面を掘って、獣人を埋葬した。
「こんな奴ら、ハンターウルフの餌にすればいいわ」
ライラが吐き捨てた。
「死体は見つからない方がいい」
丁寧に穴へ下ろしていく。
手を合わせた。死を悼もうとした。しかし、氷づけの勇者がどうしてもあたまに浮かび、うまく集中できなかった。
さて。
俺はつばを、飲み込んだ。
とんがりハットのマエの目の前に立った。
大人と小さい子供ぐらいの差がある。
不思議そうにマエが首をかしげた。
ニックも首をかしげた。
「その……マエ……さん。話が……あるんだ」
「あっし? ですか」
マエがライラが近くにいるのに話を聞こうとしていたので、照れながら、その……二人っきりが、いいなぁーと伝える。
「あらっ。どういうことでしょう……? えっ? まさか? あっし……と?」
「えっ。いつの間にマエとユーキはそんな関係になっちゃったの? えっ。ゴブリンの洞窟で? あら……まあー」
ライラは泣いたり、憎悪全開だったのが嘘みたいに楽しそうだ。口元がゆるみすぎてて。人の色恋大好物なんですねー。もともと、明るい女の子なんでしょうね。勇者さえ亡くならなければ……。
ティンカがにんまりー。にっこり。にこにこにこーと。いま、私、幸せ。たのしいー的なオーラふりまいて、ついてこようとした。
「あっかーん! 男が一世一代の告白をしようとしとるんじゃ。ついてきたらあかんやろ!」
説教すると、いままで見たことがないような落ち込みようで、えらいかわいそう。
「じゃあ、なか、いこっか?」
俺は忘れずの森の入り口を指した。
「えっいきなり? あっし……。初めてで……」
「大丈夫。ちょっと休んでいくだけだから……いいから、ちょっとだけ。ねっ?」
と、どこかで聞いたクズみたいな会話を再現しながら、忘れずの森へと入っていった。




